第一章
ジョンは飛行機を降りると眩しい日差しに眼を閉じた。
ジョンは飛行機を降りると眩しい日差しに眼を閉じた。「あー、うんこでるわ」
ジョンは周りを見渡した。列をなす人々の顔、顔、顔・・・。ジョンは確信した。「ここでぶちまける」
という衝動にからわれたが、常識のある人間のやることではない。
大学で基礎工学を学んだジョンは教養十分、度胸は満点。後ろの白人男性におもいっきりブチまけた。
「OH SHIT!」
全身が茶色に染まった白人男性は頓狂に叫び、そのぬらぬらと濡れた手でジョンにつかみかかろうとした。
白人男性の手は糞まみれで強烈な悪臭を放っていた。
ジョンの昨日の夕食はコンビニの廃棄物と公園で拾った腐りかけのパンだったので無理はない。
ジョンは大声で叫んだ。
「汚い手で触らないでくれます!?キレイキレイしましょ!」
ああ、マッチポンプ。さらに激昂した白人男性は両手を広げジョンの首を絞めようかという構えだ。
迫る悪臭、迫る白人男性。その瞬間、事態に気がついたキャビンアテンダントが血相を変えてこちらへ駆けてくる。
ジョンはキャビンアテンダントの手を握ると空間がねじれ、曇り空が一変、青空に変わった。
キャビンアテンダントは時空の歪みに耐え切れなかったのだろう、既に絶命していた。あたりを見回すと、高層ビルが建設中のようだ。
ここは・・・・・・
「トーキョー!」
ジョンは叫んだ。周りの通行人はチラリと目をやったがすぐにそらした。ジョンは未だに半ケツで、あまつさえ前もチラリと見え隠れしていたからだ。
それに気がついたジョンは恥ずかしそうに前を隠した。
と思った刹那、ジョンは突然服を脱ぎ捨て走りだした。
「自由への逃走だ!」
辺りにいた腐れ朝鮮人が叫んだが、ジョンは無視した。
すると、今まで無視を決め込んでいた通行人たちは走るジョンを見て、ニコリと微笑んだ。
「私たちも解放されるんだ!」
そして、次々と服を脱ぎだし、ジョンについていく。
見る間に増えていく人々の列は、やがて車道を埋め尽くすほどになった。
アフリカの像の群れ、いや、独裁国家の軍事パレードのような大人数、そして熱狂。
ジョンは裸の人の群れを見て急に気持ちが冷めていくのを感じていた。
コスプレ物のAVで男優が即、服を脱がしてしまったような、そんな気持ち。例えるならそれは真っ赤な薔薇・・・。
やがて人々は立ち止まるジョンをすり抜けていずこかへ去っていった。残ったものは誰一人見えない道路と風に吹かれるゴミだけ。
ジョンは思った。
「俺はなんだったのだろう。こんな裸まで晒して」
吹きすさぶ風にジョンのジョニーが揺れた。
道路に落ちた白ブリを拾う。老人のものだったのだろう、着古した具合のいい汚れがイカしている。
ジョンは右足からゆっくりと膝を通した。チンコははみだしたが。
「おい、てめぇ」
白ブリの黄ばみを気にしていたジョンはその声に振り返った。
そこにはやけにエラが入っているモヒカン野郎達がそろい踏みだった。それはまごうことのなくチョンの不良集団だった。
「おーれはジャイアーン!がーきだいしょー」
ジョンの美声にチョンどもが一瞬ひるんだのをジョンは見逃さなかった。
ジョンは白ブリをTバックの状態にし(0,2秒)開脚後転を決めた。世界の森末ですら決められない、神々しい開脚後転。
チョンどもは射精しながら言った。
「コマネチ!ナディア・コマネチ!」
ジョンは中国の体操選手、李小鵬のつもりだったのでイラっとしたが、その場の雰囲気で射精してしまった。
腹が減っては戦はできぬ。ジョンは排泄物が飛び交う台風の中、なじみの喫茶店へと向かった。
「災難だったぜ。マスター、水。いや、その前に着る物」
ジョンの下半身はしもやけで紫色になっていた。
「背中の傷は治ったのかい」
マスターは訊いてきたが、もちろんジョンはシカトした。
「やはりな。ほのかに香りが広がるタイプか・・・・・・」
ジョンが一気飲みしたそれは、ファブリーズの原液だった。
ジョンがこの喫茶店をひいきにしている理由はまさにここにある。ヤクザがこの飯、ゴキブリ入ってるじゃねえかと、いちゃもんをつけて慰謝料を請求するように、マスターの痴呆症につけこんでクレームをつけようと考えていたのだ。大学院を卒業している教養のかたまり、学生時代は「知の巨人」と呼ばれていたジョンの収入の半分は慰謝料である(残りは生活保護)。
「これでいいっすかね?」
マスターが持ってきたのは耐火服だった。少しなめこのような臭いがしたが、それしか無いのならということでジョンは嬉々としてそれを着込んだ。
その時、玄関から男が入ってきた。身長が腰くらいしかない小人族だった。あんなに小さかったら、ケツの穴に入れて持ち帰れそうだな。ジョンは苦笑した。
「メビウスの〜・・・・・・・・・・・・わっ!」
ジョンは入ってきた小人野郎のつまらないギャグに不意打ちを食らったわけだが、ジョンは慌てずに裏拳を放ち、倒れこんだ小人に枯葉剤をかけた。
「ベトナムに帰れ糞野郎!」
「八回死ね!」
マスターは便乗した。ジョンはボケじじいという心強い仲間を手に入れたわけだが奇形の反撃も生半可なものではなかった。
「これを見ろ!黒人野郎!」
奇形は黄金に輝く障害者手帳をかざした。
「どうだ、欲しいだろう。これがあれば各種割引が受けられるだけでなく補助金も出るんだぜ」
ジョンとボケマスは生唾を飲んだ。飲みすぎてちょっと気分が悪くなるほどに。
「あうああああああ! 耐えられない!」
マスターは唐突に奇声を発しながら、自分の顔を爪でバリッバリに引っ掻いた。おやおやこやつめ、どうやら醜形恐怖障害を装っているらしい。
「キッチン借りるよ」
ジョンもアスペルガー障害のモノマネができるものの、マスターほどのリアルさは無い。なので、ここは自分の得意料理で奇形の気を引く事にした。ジョンは自分のすね毛をむしり取ると、見事な手際でふりかけを作った。ご飯をよそい、すね毛をかけた飯を出し、
「さ、召し上がってごろうじろ。」
と、海原雄山のモノマネも疲労した。二人の熱戦はどちらに軍配があがるのか。障害者への切符は誰の手に。緊張が空気を支配する。
「負けたよ。僕の負けさ。」
奇形は二人の気迫に押され、負けを受け入れた。ブルズのマークが入ったウエストポーチから障害者手帳を2枚取り出した。
「さ、君達の勝ちだ。これを持って明日役所に手続きに行くといい」
2帖の障害者手帳はどこからどう見ても偽造品だったのだが、じじいは痴呆で、ジョンは知識不足で気がつかなかった。
しかし、マスターの方は大量出血で失神寸前だった。
「いっけねぇ。忘れてた」
ジョンはここぞとばかりに舌打ちをした。
「仕方ないな。輸血してやろう」
奇形は身長のわりに情け深かった。
「いや・・・・・・無理だ」
マスターの血液型は、世界に百人しかいないと言われるボンベイ型だったのだ。そりゃ確かに無理だわ。
「待ってろ。今助けてやる」
ジョンは側にいた奇形のあばらにストローを突き刺すと、その血を一滴残らず吸い取った。
「何その鯨並みの肺活量」
奇形は最後にツッコミを入れて悶死した。
ジョンは吸い取った血液と、ふいにもよおしたションベンを3対7の割合でブレンドし、マスターに与えた。すると、なんとマスターの顔がみるみるイケメンになっていった。
「輸血うめえ」
ジョンのションベンはコラーゲン配合だった。
「ありがとう、ありがとうがらし」
ああ、なんということであろうか。ジョンはマスターを助けた事を激しく後悔した。そして、ジョンはついにファブリーズの慰謝料を請求することにした。100年に1人のオリンピック級天才クレーマーと呼ばれた男の真価がためされるところである。
「マスター、お勘定」
あいよ、と臭い息を吐きながらマスターはレジを叩いた。
「2600万両です」
マスターは駄菓子屋の糞ばばぁ級のプラチナギャグをかました。
「じゃあ、これ、3000万」
ジョンは300円を財布から出した。
「はい、ありがとうございました。」
マスターはお釣りの400万を小切手で支払った。ジョンは濡れ手に粟で400万を手に入れたわけだが、ボケが目を放した隙にレジから8万円盗む事も忘れてはいなかった。
ジョンが店を出ると空は夕焼けに染まっていた。美しい夕焼けの景色、東京も捨てたものではないな。赤、燃えるような紅。ジョンは一言つぶやいた。
「生理中」
読んでくれてありがとうございました。
貧富の差激しか朗先生の次回作にご期待ください。