解けてきえる夢
ただただ走っていた。
たぶん何かに追いかけられていたのだろう。
最初はそれが何なのかも、どうして自分が走っているのかもわからなかった。
それでも、追い立てられているのだけは感じるのだから不思議なものだ。焦燥感が意味もなく湧き上がる。
「急がなきゃ、早く、早く」
けれど、全てがどこか空虚で、口をついて出た言葉さえ誰かに言わされているような違和感がある。
悠長な思考とは反対に、筋肉は軋み視界は歪む。
「ハァ……」
小さな上体には収まりきらない心臓が肋骨を叩く。関節は曲がるという本来の役割を拒否し。感覚を失った指先は冷たく固まっていく。
体にのし掛かるこの重みは追跡者が付けた枷だろうか?
いよいよ動かなくなった膝が勢いよく地面につき刺さり、伸ばした手は倒れ行く上体を支えようと傍らの柱にすがり付く。
「行かなきゃ」
それでもと奮い起たせ、上へ上へと手を伸ばし四肢に力を込めた。
体を引き上げようともがくも、すがりつく手のひらには何も掴んだ感触がなく、腕は引き上げようとした己の軽さに空振りする。何とか踏み込んだ足は足場にかからず、ずり落ちそうな不安定感に血の気が引く。
ああ、落ちる。
何とか登った柱の中腹からまっ逆さまに落ちていくイメージだけがぶわっと広がって、体が衝撃に備えて硬直していた。
「うわぁ……」
あれ?
いつまでたってもこない衝撃に私は放心する。
「ああ、そうか」
来るはずないのだだってここは……。
続きはありません。その先は想像してください。