コリンの豹変!
コリンの目が赤く光り、コリンの影がが大きくなっていく。ララは、大きくなり豹変していくコリンを見上げた。部屋を壊してしまいそうなぐらい大きな音を立てて、狂気な目をした巨人のコリンが現れた。大きな咆哮を上げるコリンが動くたびに部屋が壊れそうになり、木くずと埃が天井からララの上に雨のように降ってくる。
「最悪! オーグルよ!」
ゴーストブックたちが騒ぎ始めた。ララは、オーグルのコリンが暴れ、咆哮するたびに悲鳴を上げた。
「オーグルって何?!」
「頭の悪い凶暴な巨人だ。だから勉学に励めと――」
「今はそんなこと言っている場合じゃない!」
ララは、ゴーストブックに怒鳴った。ゴーストブックは、ララにも恐怖を感じたのか、何冊かのゴーストブックは閉じてしまった。
「どうすればいいの?!」
ララは、目の前にいる化け物から逃げようと、まわりにあるものを、手当たり次第、オーグルのコリンに投げつけた。オーグルのコリンは、体のまわりを飛ぶ虫を払うかのように、手を振り回して振り払う。その都度、部屋の壁や本棚にあたり、大きな音を立てて壊れていった。
「僕たちにもどうもできないよ! だって、僕らただの本だもん!」
ゴーストブックたちも、恐怖に怯えて本を閉じながら難を逃れようと逃げ惑っている。オーグルのコリンの振り回す手をかわしたとき、ララは近くにいたゴーストブックを一冊投げつける――ゴーストブックは泣きながら、飛んでいった――そして、ララの足元にあった小さな箱も、オーグルのコリンの頭めがけて投げつけた。
見事、頭に命中した。オーグルのコリンの頭に、コツンという音を立ててぶつかった。そして、小さな箱が地面に落ちたときにふたが開く。オーグルのコリンが頭を掻きながら地面に落ちた小さな箱を睨んだ。
すると、小さな箱からメロディーが流れてきた。小さな箱は、オルゴールだった。ふたの裏には、夜空に燦然と輝く幾千の星たちが描かれている。ゆっくりと電動モーターで円筒が回り、取り付けられたシリンダーが高く心地よい音を奏でていた。曲は、〝星に願いを〟だった――が、ララは〝星に願いを〟という名曲を知らない。なんとなく聞いたことある程度で、曲名まではわからなかった。オーグルのコリンは、途端に静かになり、その場にドスンと座りこむと、その静かに流れるオルゴールを聞き入っていた。周りにいるララやゴーストブックたちは、ピタッと時間が止まったように動かず、オーグルのコリンを見ていた。
「コリン!」
窓の外に何かを発見したセチアが、オーグルのコリンを呼んだ。オーグルのコリンは、ゆっくりと立ち上がり、のしのしと歩きながらセチアに近づき窓の外を見た。窓に近づいた瞬間、コリンは元の人形に戻って、窓に張り付いていた。
「はは! バブーシュカの奴、もうプレゼントを配ってやがる!」
コリンは、外を指差し大声で笑った。恐怖から解放されたララは、その場にへたり込み大きく息を吐いた。近くにいたゴーストブックに顔を向け、小声で話しかけた。
「あの人形、どうしちゃったの?」
「怒りが静まったみたいね。よかったわ……」
ゴーストブックは、大きく息を吐くようにちょうど半分のページぐらいで大きく息を吐くように開いて閉じた。まるで、本全体が口のように動いていた。
「部屋めちゃくちゃ……。大丈夫、これ? おばあちゃんに怒られるんじゃない?」
「オルバには、バレないよ。この部屋は、この家にあってこの家にない不思議な部屋だから」
「またそういうこと言う……」
もうこんな思いはうんざりといった目で、窓で大騒ぎをするコリンを見た。
「でも、何でさっきみたいになってしまったのよ?」
ララは、ゴーストブックに顔を向け、今度はぺちゃくちゃ話をしている本たちを睨みつける――まるで、さっきの恐怖の当てつけをするかのような目で。
「君がひねくれ者だからさ。ボギービーストは、ひねくれ者、信じる心を持たない者には、ああやって恐怖を与えるんだ。本人は覚えてないんだけどね」
ゴーストブックは、ララを責めるように言った。他のゴーストブックも、ワイワイガヤガヤとララにヤジを飛ばした。
「そうなの……」
ララは、やっとオルバの言っていた意味がわかり、小さくうなずきながらコリンに顔を戻した。
「君の知識が足りないからだぞ」
「物語を知らないからだ」
「もう少し裾を上げて……」
もうララの耳に、ゴーストブックたちのヤジは届いていなかった。そして、ララはこの出来事で、コリンたちの存在を認めざるおえなかった――彼らも生きているということを。
「バブーシュカじゃないわ! あれよ!」
セチアが、窓を激しく指差して叫んでいる。ララは、そっと窓に近づき外をのぞいた。
「あれ……?」
誰もいない道路の真ん中を、吹雪を従え平然とこちらに歩いて来る高貴な女性の姿が見えた。
「あれ誰?」
「冬の女王だ」コリンは笑いを止めて静かに言った。
「冬の女王……」
オルバと両親が話していた名前だ。ララは、いよいよ核心に近づいていることに胸を躍らせる。どんな顔をしているのだろうか? オルバや両親が恐がるぐらいの人だ。とても恐い人なのかな? そんな憶測ばかり考えていると、道路を歩いていた吹雪が消え、部屋全体が急に凍えるように寒くなった。
「人間の娘よ……」
凍えるような声が、ララの後ろから聞こえてきた。まるで、ララの背中を凍らせるような、冷たく感情のない声だった。
「人間の娘よ……、ここで何をしておる?」
部屋に渦巻く雪の中から、顔まで真っ白な貴婦人が立っていた。