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書斎の住人……?

 「お! 気がついた!」

 ゆっくりと目を開けたララの顔の上に、さっきのおじいちゃんの人形が熊のぬいぐるみのように足を広げ、まじまじと緑色の目でララを見ていた。ララは、悲鳴を上げて驚き、勢いよく体を起こした。その反動で、おじいちゃん人形は机まで吹き飛ばされた。

 「イテ! コラ、急~に起きるな! はははっ!」

 おじいちゃんの人形は、怒りながら笑っている。

 「何のあんた、誰? 誰が操ってるの?」

 ララは、両手で顔を覆い、左右に激しく振りながらつぶやいた。

 「誰にも操られてないよ。自分で手足を操縦できます。生きているからね――おう、イテぇ……」

 おじいちゃんの人形は机に頭を打ったらしく、頭をさすりながらララを見ると、ニコリと笑った。それを見たララは、強く手を握りつぶやいた。

 「夢だわ……。人形が動いたり、泡で作ったウサギが喋ったり……」

 「泡の精に会ったのか? あまり人前に出ないのに珍しい……」

 おじいちゃんの人形は、腕を組み、間抜けな顔をして下あごを掻いている。

 「泡の精?」ララの頭の中で、泡のラビちゃんが微笑んだ。

 「あいつに会ったということは……ウサギだったか? 近々、そのしゃべったものに関係したものに会うぞ。でも、ウサギって何だろう?」

 おじいちゃんの人形は、腕組みしたまま考えている。

 「夢よ……」

 「重い、重い、重~い!」

 何かが悲痛の声で叫んだ。ララは声に驚いて、自分の手の下の本に気付いて、手をすばやくどかした。おじいちゃんの人形は、頭をさすりながら起き上がり、体を払った。ララの顔が、だんだん引きつっていく。

 「ララ――」

 おじいちゃんの人形は、ララをずっと呼んでいるが、ララは上の空で、まだ「夢だ……」繰り返しつぶやいている。

 「ララ?」

 「これは、夢……」

 「ララ~」

 「夢、夢よ……」

 「ララちゃ~ん」

 「絶対に、夢よ……」

 「ララ!」

 「うわっ! ビックリした……」

 「オレのメガネ知らないかい?」

 おじいちゃんの人形は、あたりを見渡しながら訊いた。怒鳴ったくせに、ひょうひょうと話している。

 「そんなの知るわけ――」

 ララは、後ろ髪を指で梳かしたときに、何か髪に引っかかっているのを感じた。髪から取ると、それは小さなメガネだった。

 「はい……」ララは、不機嫌そうに渡す。

 「なんだ、あるじゃん! おぉ、良く見える! う~ん、ララ、意外とかわいいなあ!」

 人形は、頭からなめまわすようにララを見て笑っていた。

 「悪夢だわ……」

 ララは、現実離れした状況に頭を抱えた。

 すると、何かが屋根裏を走る音がした。ララは、顔を上げておじいちゃん人形を見た。おじいちゃんの人形の近くに、屋根裏から降りてきたネズミが寄ってきて、何やら耳打ちをしている。まるで、人間に聞かれたくない話をしているかのようだった――の割には、人間を怖がっていなかった。

 「チーズがないって? じゃあ、買い物の後に調べてごらん。あると思うよ。あと、急げよ。そろそろ奴が――」

 ネズミは、おじいちゃん人形の話半分で喜んだように屋根の上にある穴に帰って行った。行っちゃったと大笑いしているおじいちゃん人形だが、おじいちゃん人形とネズミとの会話がわからなかったララは顔をしかめていた。

 「ねえ、今チーズって――」

 ララの言葉をさえぎるように、床の方から声が聞こえた。

 「若者よ、勉学に励め、勉学に」

 「何言ってんだよ! 歴史なんて勉強したって意味ないんだよ! 物語を読め、物語!」

 「女性にとって身だしなみは大切よ」

 「身だしなみより、知識が必要だ。勉学、勉学」

 「うるせえなあ! 物語だよ!」

 「もう少し、エレガントなコーディネートをしなくちゃね」 

 「昆虫もいいよ~」

 さっきまでララの手で潰されていた本たちが、一斉に話し始めた。

 「本が――夢よ!」

 ララは、頭が混乱してきた。悲鳴を上げたと思うと、今度は一斉に話し始める本と、笑いながら怒り出したり、まるで人間のように動く人形。非現実的な光景に、ララは少々パニックを起こしていた。

 「いい加減認めろよ。オレたちも生きているんだ」

 おじいちゃんの人形は、腕組をしながら仁王立ちし、ララに言い聞かせた。

 「あなたは、誰?」

 ララは、頭を抱えたまま低い声で訊いた。

 「あれ、自己紹介がまだだったかい? オレは、ボギービーストのパブロ・ブリトニー・ゴルマン・デジャール・コインリッヒだ。コリンと呼んでくれ」

 コリンは、丁寧にお辞儀をしながら紳士に振舞い自己紹介をした。

 「夢よ……」ララは、小声でつぶやいた。

 こういうしゃべる人形や本を見たかったわけじゃない。ただちょっと部屋に入って、〝奴〟とは誰なのか、冬の女王の正体を調べたあとに、部屋を探索して、両親の弱みを握れる写真や、おばあちゃんの笑顔を消せるおもちゃ、おじいちゃんの職業なんかを知れればよかったのに、こんなファンタジー映画みたいなシチュエーションは予想していなかった。頭の中はパニック、口から出るのはため息、頭の中は整理できないぐらいこんがらがっていた。でも、この調子の良さそうな人形のコリンの顔に対して、何か懐かしさ感じがした――何かで見たことのあるような……。

 「あっちの本たちはゴーストブックたちで、さっきのネズミは――まあ、あいつらはいいか。もういないし――」

 コリンは、手を差し出しながら一人一人紹介をしていく。

 「夢……」

 「おお! セチアも起きたかい!」

 コリンは、窓に置いてある花瓶を見て、手を広げながら叫んだ。ララが振り向くと、花瓶に植えられたポインセチアの花の中心から、大きなお尻が横振りしながら出てきた。ララが苦い顔をして見ていると、スポッと勢いよく体が現れ尻もちをつくと、太ったローブ姿の女性が現れた。

 「騒がしいわね。何の騒ぎ?」

 セチアは立ち上がると服を払い、肩を揺らして姿勢を正すと、不機嫌そうにララを見た。

 「彼女が、ポインセチアの妖精セチアだ」

 「やめて!」コリンの紹介が終わると同時に、ララは叫んだ。

 「あなたたちは、夢よ! 絶対に信じない!」

 「そんなこと言ったって、こうして生きてるじゃん」

 コリンは、困り果てたように言う。他の妖精たちも、お互いの顔を見渡して黙ってしまった。

 「私の前から消えて! 見ているだけでイライラするわ!」

 ララは、立ち上がりながら声を荒げた。

 「そんなこと言ったって――」コリンは、肩をすくめた。

 「私は信じない。絶対に信じない! あんたたちみたいな生き物、絶対に信じない!」

 ララは部屋を出ようと、扉に向かって歩き始めた。

 「なんだって?」

 ララの発言に、コリンの顔色が変わった。ゴーストブックとセチアが騒ぎ始めた。

 「駄目だよ、そんなこと言っちゃ……」

 「コリン、落ち着いて! コーディネートしてあげるから……」

 「勉学で気を鎮めなさい……」

 「やぁ~めぇ~てぇ~!」

 セチアのオペラ歌手のような声が部屋中に響く――すると突然、部屋がガクッと傾いた。ララは立っていられず、壁にもたれる。あたりを見渡すと、小刻みに部屋が揺れている。

 「お前のような曲がった心の者には、恐怖を教えてやる……。お前のようにひねくれたものには、悪夢を見せてやる……」


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