埃っぽいおじいちゃんの書斎
カーテンが閉まっていて、暗く空気の重い部屋だった。おじいちゃんが亡くなってから使われていなかったのか、ドア下の床にたまった埃が舞い上がり手で振り払うと、さらに大量の埃が舞い上がりララはむせ返った。ララは、カーテンを開けようと、暗い部屋を手探りで進んでいく。すると、重いドアが勢いよく音をたて独りでに閉まった。突然響いたドアの大きな閉まる音にララは驚き、心臓の鼓動が速くなる。戻るにも、この暗い部屋の中では、恐怖で思うように足が動かない。ララは生唾をのんで息を殺し、一歩一歩足元を確認しながら小さな埃積もる本の山を越え、やっとの思いでカーテンを探し出し、勢いよくカーテンを開け、部屋の中に外の陽を入れた。
部屋の全貌が露わになったとき、ひんやりとした空気の中に漂う知識の香りを、舞い上がる埃とともに感じた。部屋の中のいたる所に、埃を被った本が置かれていた。分厚いのから薄いの、大きなものから小さなもの、知っている言葉から知らない言葉の本が、棚に、机に、床に、壁に、無造作に置かれている。昔のファッション雑誌に日本の歴史の本、昆虫図鑑もあったが、ほとんどの本はララが今まで生きてきた中で、聞いたこともない題名の本ばかりだった――そもそも、ララは本をあまり読まないから――「水辺にいる妖精たち」、「家に住む小人」、「森に住む悪戯妖精」や「世界妖精図鑑」。一番ぶ厚く大きい本には「本当にいる悪魔図鑑」と書いてある。だが、その本の表紙に埃まみれのメモが張ってあり、「絶対開くな!」と貼られ、鎖で十字に閉められ鍵がかけられていた――ララの目の奥が、キラキラ星のように光った。
しかし、ララは部屋の光景を見て困った。本当に困った。こんな部屋だとは思ってもいなかった。ララが聞いた話では、気品のあるおじいちゃんだっただけに、こんなにも部屋が汚いとは思ってもいなかった。重要なものだけ調べようと思っていたのに、何から手をつけいいのやら、ララはまったくわからなかった。
「どうしよう……」
ララが腕を組んで散らかっている本たちを見ていた。とりあえず、近くにあった「日本神話」の本を取ろうと手を伸ばす。すると、天井の方から笑い声が聞こえてきた。
「ははは、悩んでいるねえ」
ララは、天井を見渡した――誰もいない。
「誰?」
ララの頭が、前後左右と激しく動いた。
「あれ? 見えないかい?」
声は、ララの後ろの机から聞こえてくる。
「誰よ!」
声は、ララをもてあそぶかのようにあちこちに動いている。
「こっちだよ」左の本棚、「こっち、こっち」右の花瓶、「どこ見てんのさ~」正面の絵画と、いたる所から聞こえてくる。
「どこにいる――」
ララが、もう一度机に向き直ったとき、長くうねりのきつい髪に、すごい勢いで何かが引っかかった。
「お、おい! なんじゃこりゃ~!」
ララは、髪に絡まったうるさく暴れるものを手でもぎ取った――それは、ララの手の平より少し大きな、緑色の目のおじいちゃんの人形だった。
「やあ、ララ! 初めまして!」
急にしゃべり始めた人形に悲鳴を上げて、ララはそのまま倒れて気絶してしまった。
「あれ、ララ……? おやおや、気を失っているよ……」
おじいちゃんの人形は心配そうにララを見ていたが、我慢できずに吹き出し、大声で笑い始めた。