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不思議な鍵と思い出せない話

 玄関前で、真咲とレジュリーがちょうど靴を履いているところだった。ララは、二人の前に立つ――早く出掛けてくれないかなと。

 「鍵しっかりかけてね。あと――」

 レジュリーはブーツを履きながら、止めどなくララに注意を言い聞かせ、ララのこと心配していた。

 「大丈夫! もう、子供じゃない!」ララは呆れたように玄関に立ち、三人を見送る。

 レジュリーは、まだ心配そうな目をしていたが、ララは表情を変え、いじらしいほどの満面の笑みで返した。やがてレジュリーはあきらめた真咲に促され、納得いかない表情でララの頬にキスをして、「行ってきます」と玄関を出た。ララは、微笑みながら手を振り三人を見送った。


 ドアが閉まると、ララはすぐに玄関のドアに耳をつけ、三人の会話を聞いた。木でできた家のドアが、真冬の厳しさに耐えてひんやり耳に冷たかった。


 ――大丈夫なの? 奴が目覚めたかもしれないのよ?

 ――大丈夫よ。奴は、家の中には入れないから

 ――でも、お母さん……

 ――もう心配したってしょうがないよ。ララだってバカじゃないんだから。ちょっ と、書斎を見て驚くだけさ。さあさあ、二人とも車に乗って! 早く行こう


 その声を最後に、車のエンジンが言葉を遮り、遠くの彼方に消えていった。

 「よし!」

 ララは、玄関の鍵を閉めてひと呼吸おくと、勢いよく階段を駆け上った。


 急ブレーキで氷道を止まる車のように、ララは書斎の前を毛糸の靴下で滑りながら止まり、書斎のドアの鍵穴を覗いた。当然、何も見えるはずがない。自分のやっていることのバカさ加減に、ララは顔を両手で覆いながら笑った。それほど、ララは興奮を抑えらえなかった。

 ララの頭上の屋根裏を何かが走る音が聞こえた。ララは驚き、すばやく走る音の方に顔を向けた。音をたどると、音はおじいちゃんの書斎の中に消えていった。ララはきっとネズミだと思い、気にも留めなかった――かなり古い家だし――それよりも、これから始まるまだ見ぬ世界への冒険に胸を躍らせていた。自分の家族の秘密が、このおじいちゃんの書斎にあるはずだ、ララはそう考えていた。初めて来たこんなボロい家で、こんなに何回も胸を躍らせるなんて、ララは夢にも思わなかった。

 改めて、ララは書斎の鍵を見た。鉄がヒヤリと冷たい鍵は、今までに見たことない鍵の形をしていた。鍵先は発条のようなうずまき状に巻いた形をしていて、繋がっている鍵棒に花の彫刻がしてある。

 何の花の彫刻かわからないララは、首をかしげながらとりあえず鍵穴に鍵を差し込んだ。そして、鍵を回そうとしたとき、指に何かへこみのような感触があった。ララは、感触のしたところを見た。文字が彫ってある。


 〝teyou ehusidnyo(春を待ち焦がれる)〟


 「何、これ……」

 ララには、まったくわからない言葉だった。

 だいたい、ララはおじいちゃんが何の仕事をしていたのか知らない。でも、家族はいつも楽しそうにおじいちゃんの話してくれた顔だけは思い出した――でも、内容はまったく思い出せない。それでも、ある話を思い出した。


 〝春には緑の婦人が歌で花の妖精フローラたちを眠りから起こし、夏にはパリゼットがトゥーマンティンの悪戯から人間を助け、秋にはロリアレットが月の詩を詠い――〝


 真咲とレジュリーは、おじいちゃんの話をしてくれるとき、きまってこの話がメインになり、何回も同じ話をするので、この部分のことだけは思い出せた。だが、意味がわからないララは、そこまで深くこの話を考えたことがなかった。思い出すのは、昔話で盛り上がる両親の顔だけ。いつもララを差し置いて、楽しそうに話す両親の顔が無性に腹立たしかった。

 ララは思い出しながら天井を見つめ、激しく頭を振り顔をしかめる。ララには全然楽しくない話だが、両親にはとても懐かしく楽しい話のように見えた。なぜなら、ララと話しているときよりも、格段に楽しそうな顔をしているのだ。そんな除け者にされているときの楽しい表情など、思い出しても楽しくない。ララは、両親の楽しい顔を忘れようと目を閉じて別のことを考えようとした。だけど、両親の笑顔が、生ゴミの臭いのようにまとわりついて離れない――そういえば、冬のところだけどうしても思い出せない。何かとても怖かったことだけが頭の中で蘇り、背筋がゾクッっとして震え上がった。

 思い出し恐怖を頭から振り払うと、気を取り直し、姿勢を正してララは書斎の鍵を回した。

 ひねるたびに、発条の回るような音がする。今まで見たこともない鍵穴が、どんなカラクリになっているのか、ララは想像もできなかった。鍵全体から、振動が伝わる。まるで、鍵穴の中で鍵から出た小人が一つ一つ鍵のからくりの謎を解いているかのような感覚が、ララの手に伝わった。そして、カチッと宝箱の鍵が開くような音がしてドアの鍵が開いた。ララは鍵をポケットにしまい、予想よりも重いドアを押してゆっくりとまわりを注意しながら中に入った。


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