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耳の短い泡のラビちゃん

 次の日、ララは清々しく起きると、自分でカーテンを勢いよく開けた。

 「はあぁ――あぁ……」

 太陽の光りが目一杯入って気持ちよく起きられると思いきや、今日もしんしんと降る雪景色だった。犬ですら、こんな日が続けば、元気よく駆けまわることはないだろう。こうも毎日雪が降ると、夏の邪魔くさい太陽の光りが恋しくなる――夏になれば、本当に邪魔になるのだが。

 ララは、生まれてから一回も冬の太陽を見たことがなかった。ララだけじゃない、ララの学校の友達や親たち、教師たちも見たことがないと言っていたのを思い出した。


 今日のギシギシきしむ階段のメロディーは、いつもより高い軽やかな音を奏でた。

 「おはよう!」

 着替え終わったララは、元気よく挨拶をした。あまりの元気の良さに、レジュリーが驚いていた。

 「おはよう、ララ。今日は元気いいわね!」

 レジュリーは、テーブルを拭きながらララに言った。ララは、「そうかしら?」と大人びたように言いながらスキップで居間に入った。やっていることは子供っぽいララを見て、レジュリーは優しく微笑みながら朝食の用意をしていた。

 その奥に、ボロソファーに座る真咲の姿が見えた。新聞を読んでいるように見えるが、よく見ると目は開いていない。

 「おはよ!」

 ララは、真咲の新聞を取り上げ、真咲の顔の前に顔を突き出して驚かせた。

 「うわ! ララ……」

 真咲は、開いていなかった目を大きく見開いて驚いた。あまりの驚きに、メガネがずれて傾いた。

 「起きた?」

 驚いた真咲の顔を見られたのが嬉しく、ララの顔は満面の笑みだった。

 「今日は、早いね……」

 真咲は、ずれたメガネを直しながら寝ぐせを掻き、あまり感情のこもっていない物言いで話しながら新聞を広げた。

 「そう?」

 ララはそう訊くと、真咲からメガネを取り上げ、顔の前でメガネをちらつかせた。

 「あ、コラ! 何をするんだ?!」

 真咲は、メガネを盗ったララを追いかけて立ち上がり、朝から騒がしく居間を走り回る。

 「コラ、返しなさい――あ、痛い!」

 ララを追い回す真咲は、ボロソファーの角に足の小指をぶつけた。足を上げて飛び跳ねながら痛がる真咲を見て、ララは指差して大笑いした。

 「もう何やってるの、朝っぱらから……。ララ! 食事運ぶの手伝って」

 レジュリーは、朝から走り回るララと真咲を見て、頭を抱えて呆れていた。

 「はぁい」

 ララは素っ気なく返事すると、真咲のメガネを放り投げ、レジュリーのもとに駆け寄った。メガネは、片足で飛び跳ねて不安定な真咲の足元に落ちた。

 「あ、あ、あ、危ない!」

 真咲が声を上げたあと、バキッという音がララたちに聞こえた。振り返ると、真咲がメガネを持って、呆然と立ち尽くしている。

 「折れた……」真咲のメガネの蔓が折れている。

 「――あとで直しに行きましょう」

 レジュリーは、呆れたように言った。真咲は、メガネを見たまま、寝ぐせを掻いて大きくうなずいた。

 そんなポカーンと口を開けてメガネを見ている真咲を見て、ララは口を押さえながら笑いをこらえた。

 「あんたが悪いんでしょ! 謝りなさい!」

 レジュリーが、ララの頭に軽くゲンコツをして怒った。殴られたララは、頭を押さえムスッとした顔で真咲に謝ったが、真咲の顔を見てまた吹き出してしまった。レジュリーが恐い顔でまたげんこつを構えるのが見えたララは、そそくさとキッチンに行き食事を運ぶのを手伝った――だが、確信したことがある。真咲の寝ぐせは直らない。


 家族との朝食を済ませたあと、ララはレジュリーの横で洗い物の手伝いを嫌々やらされた。こんなときにオルバがいれば、「私がやるから、遊んでおいで」と言ってくれるのに、オルバは洗濯をしていていなかった――こういうときにいないんだから、ララはふて腐れながら皿を洗った。

 だが洗い物を始めると、食器を洗う洗剤の泡がいろんな形になり面白かった。レジュリーは、意外に真面目にやるララを見て、安心したかのように、居間に掃除機をかけに行った。

 ララは、レジュリーが掃除機をかけに行ったのを確認すると、食器を洗うのを止め泡で遊び始めた。スポンジを握ると、指の隙間から大量の泡が出てくる。またスポンジに洗剤をつけて少量の冷たい水をかけてギュッギュッと握ると、さらに泡が大量に出てくる。その泡で、いろんなものを作り始めた。

 「ソフトクリームに……、ウサギでしょ……」

 オルバの家に遊びに来てから、一番楽しい時間かもとララは思った。水道の水を出しっ放しで、苦労の末、手の中でやっとウサギが出来上がろうとしていた。

 「ウサギのラビちゃん、ウサギの――」

 ララは、試行錯誤しながら泡で耳の短いウサギが完成し、出来栄えを見ながら名前を付けて呼んだ。何ともブサイクなウサギだったが、出来栄えより、遊べたことが楽しかった――が次の瞬間、思わず言葉が止まり、表情が固まった。

 「――ラビちゃん?」

 耳の短い泡のウサギの目がパチッと開いてまばたきをし、ララの手の中であたりを見渡した――よく見ると、本当に可愛くない――ララが名前を呼ぶと、ララの方もしっかり見る。鼻がピクピク動いて、少し気持ち悪かった。

 「こんにちは、ララ」

 耳の短い泡のウサギは、少し高めの声で挨拶した。目をパチクリさせて、鼻をヒクヒクさせている――なんか、顔のパーツの忙しいウサギだった。

 「しゃべった……」

 ララは、しゃべる泡のウサギを見て止まってしまった。自分の両手の中であたりを見渡している耳の短い泡のウサギをしばらく見る。そして、後ろ髪引かれることなく、無表情でしゃべる泡のウサギを水に流した。

 「もう少し、遊びいぃぃ――」

 耳の短い泡のウサギの声が、排水溝に流れていくにつれて小さくなっていく。

ララは、その光景を無表情で見ている。信じられないというよりは、不思議なこともあるもんだという気持ちにも似ているが少し違う。どう表情で表現していいのかわからないララだった。

 「ララ、終わったの?」

 掃除機をかけ終わったレジュリーが、居間から叫んで訊いた。ララは、自分の手を水で流し、水道の水を止めると、自分のスカートで手を拭きながら居間に向かった。

 「ちょっと! スカートで拭かないの!」


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