女の人がいない……?
「急げ。ミタ・インディオの酋長に会いに行くぞ」
ベラは森を抜け、指を一回鳴らすと、目の前に集落への一本道が現れた。
「ジャ・ジャリンヌに会えるんだ!」
コリンは嬉しそうにララの肩から飛び降り、ステップを踏みながらベラについて行く。
「ジャジャリンヌって?」
「違うよ。ジャ・ジャリンヌ。間違うと危険だからしっかり覚えたほうがいいぞ」
コリンは、自分の首を絞めて舌を出して白目をむいた――コリンの言っていることを、本当に信じていいのか、ララは悩んでいた。
「わかった。忠告どうも」ララは、顔をしかめた。
「で、どんな人なの?」
「ジャ・ジャリンヌは、ミタ・インディオの酋長さ。ミタ・インディオは、女性が酋長になる極めて珍しい種族だ。そのミタ・インディオの歴代の酋長の中で、最強の呼び声高い酋長なんだ」
コリンの顔は、ワクワクが止まらないといった感じに見えた。
「そうなんだ……」
ララは、頭の中でイメージしたジャ・ジャリンヌに失礼のないように、しっかり挨拶をしながら集落に向かった。
集落の中に入ると、ミタ・インディオたちがララたち一同をじっと睨みながら、焚き火の前から見ていた。インディアンのような格好をしたミタ・インディオは、冬なのに上半身裸で、藁で作った羽織物を着て、男たちは槍の矛先をララたちに向けて立っている。子供たちは、大人の後ろに隠れて恐る恐るララたちを見ている。
「あまり歓迎されてないね……」
ララは、一歩一歩を貴重に歩きながら、槍に注意して話した。
「なに、襲ったりしないよ。こっちには、冬の女王がいるん――イテッ!」と言っていたコリンの頭に、雪玉が当たった。投げられた方向を見ると、遠くのティーピーの後ろに隠れる人影が見えた。コリンは、犯人をニヤリと睨みつけて、ララの肩の上に立った。
「ちょっとコリン! 遊んでいる場合じゃないでしょ!」
ララは、立ち上がったコリンを手で抑え座らせた。
「何で!? やり返さなきゃ!」
コリンはまた立ち上がり、スマッシュを打つように腕を動かして言った。
「もし、女の人に当たったら大変――でしょ……」
ララは、話をしている最中にもかかわらず、きょろきょろとあたりを見渡し始めた。
「どうした?」
「いない……」
「へ?」
「いないわよ、女の人が! 一人も!」
「ああぁん……」コリンは、つまらなそうに鼻をほじりながらうなずいた。
「女どもは、きっと酋長のところだよ」
「ジャジャリンヌの?」
「ジャ・ジャリンヌ!」
コリンは、囁くように叫び、周りに聞こえてないか確認した。
「名前を間違うなと言ったろ!」コリンは、ララの頬にパンチを喰らわせた。
「難しいのよ。その名前……」
ララは、パンチされた箇所を指で掻きながら言った。コリンのステップほど痛くはないが、コリンのパンチはかゆかった。
「でも、何で女の人がいないの?」
「酋長を守るためさ」
「男の人じゃないの?」
ララは、前を堂々と歩いて行くベラに置いて行かれないように気にしながら歩く。
「ここでは、男共が狩人、女が戦士なんだよ」
コリンは、まわりを指差しながら話した。確かに、男たちは絵本や図鑑に載っているインディアンのような格好だ。とても戦士には見えない。
「じゃあ、女の人はどこにいるの?」
「あそこだ」
ララの問いに、前を歩いていたベラが立ち止って答えた。ベラは、どこかを指差して立っている。ララは、ベラの後ろから覗き込むように前を見た。
両脇に、鉄で造られた鎧を着たミタ・インディオの女戦士が、槍と紋様の入った盾を持ち、一列になって並んでいた。どの女戦士も、鋭い目つきでララたちを睨んでいる。その体は、本当に男のミタ・インディオより一回りも、中には二回り以上の大女もいた。髪は、黒、茶色、赤色とあるが、ララと同じブロンド色はいなかった。