聖戦の後、現れた使い
「誰なの? ミタ・インディオって!?」ララは、雪玉をかわしながら訊いた。
「フローラ語なんだけど、ミタは雪っていう意味だ。別名〝四季変わりのインディオ〟。たぶん、自分たちの縄張りに入られたのが気に入らなかったんだろう」
まだコリンは、ウエストポーチまさぐっている。
「ねえ、四季変わりのって――」
「私が追い払おう」
「待て、待て。あいつらと遊ぶのが、オレの楽しみでもあるんだから!」
コリンはベラを止めると、やっとウエストポーチの中からラケットを出した。
「いくぞぉ!」
コリンはいつのまにかミタ・インディオと同じ格好をしてラケットを構えていた。
「いつの間に着替えたの?」
「早着替えはオレの得意技! いくぞ!」
コリンは、構えていたラケットで、倍はあるミタ・インディオの投げた雪玉を一個大振りで打ち返した。雪玉は、崩れなることなく打ち返され、ミタ・インディオの額に命中した。
「ヨッシャァァ!」
コリンは、渾身のガッツポーズをして喜んだ。おでこに雪玉が命中したミタ・インディオは、低い声を発しながらゆっくりと後ろ向きに倒れた。その倒れた仲間を黙って見ていた他のミタ・インディオたちは、もう一度口を叩いて大きな雄叫びを上げると、先ほどより速いペースで雪玉を投げてきた。
コリンは続けざまに雪玉を打ち返し、三人のミタ・インディオの額に連続で当て、叫びながら後ろ向きに倒れていった。
「な、ラケットが役に立ったろ?」
「まあね」ララは、肩をすくめながら答えた。
「では行こう」
ベラは、ミタ・インディオとの聖戦を、まるでなかったことのように先へと進んだ。ララは、倒れたミタ・インディオたちを振り返りながらベラのあとに続いた。
「ねえ、あのミタ・インディオたちはどうなったの?」
コリンは、肩の上で足をぶらつかせている。ララは、コリンの足を指で止めた。
「なあに、単なるゲームみたいなものだよ。ま、今頃は起き上がって自分たちの集落に戻っているさ」
「ふ~ん……あれ?」
ララは、コリンの乗っている肩とは反対側の木の下にキラキラ光る何かを見つけた。
「おい、どうした?」
おもむろに何かに近づいていくララの肩の上で、コリンがララの顔を覗き込みながら尋ねる。
「お、あれは――」
コリンは、キラキラ光っているものを見つけると、ララの肩から飛び降り――雪が柔らかく、足が雪に埋まっていた――走り寄っていった。
「――葉っぱ?」キラキラ光っていたのは、木の葉だった。でも――
「どこから落ちたの?」
周りの木には葉っぱ一つついていない裸の木ばかりだった。
「おぉ! これは〝デハヨテ〟。フローラ語なんだけど、〝戦闘の葉〟という意味で、テ・チーバっていうゲームで使う葉っぱなんだよ。でも、ここまで輝いているデハヨテは珍しいな――そうだ! ララにこれやるよ」
コリンは、またしてもウエストポーチに手を突っ込み、絶対に入らないぐらい大きな手帳を取り出した。
「コリンのウエストポーチは四次元ね」ララの頭の中に、猫型ロボットがちらつく。
「これは〝テ・フミヤ〟っていう〝葉手帳〟。これに入れとけば、テ・チーバで遊べる葉を輝きあせることなく保存できる」
「でも、これどうやって遊ぶ――」
「何している!? 早くせぬか!」
ベラに怒鳴られたララとコリンは、葉を手帳に急いでしまいベラを追いかけた。ベラは、相当怒っていた。
「でも、ミタ・インディオの女が来なくてよかった」
「何で?」
「だって、ミタ・インディオの女は、男より一回り体が大きくて、両手で雪玉を――」
ララの肩に座っているコリンが急に話すのを止めて、前を黙って見つめ始めた。それに気付いたララも前に視線を移す。すると、ララたちの前を歩いていたベラが、前を向いたまま、何かを見つめるように立っていた。
「どうしたの、ベラ?」
「使いが来た」
ララがベラの隣に立ち、そっと顔をのぞき見ると、ベラがクイッとあごを突き出して前を差した。ララとコリンが前に目を移すと、森の茂みから一頭、また一頭と狼たちが出てき手道を塞いだ。
合計で六頭の狼たちが、よだれを滴らせながらララたちに向かって唸っていた。