いろんな意味のドキドキ
「よし! じゃあ、いつにする? お前の好きなときに行こう! でも、なるべく早く行かないと。いつだ? 三日後、四日後か?」
「そんなには待てん」
「だけどベラ、ララにだって心の準備が――」
「明日」
「へ?」
コリンは、意表を突かれたてポカーンと口を開けている。ベラもゆっくりとララに目を移す。寝ていたゴーストブック、黙って存在を消していたセチアもララを見た。
「そんなに急がなくても――」
「だって私、明後日には札幌に帰るのよ」
「そうなの!!!???」
コリンは、驚きに顔のパーツすべてが飛び出そうになっている。ベラも、表情を変えず目だけを見開いて驚いている。ゴーストブックは、ページを見開いてお互いを見合い、セチアは手で頬を押し潰し大きく口を開け驚いていた。ララは、なぜそんなに驚いているのか、まったくわからないまま、ポカーンとみんなの顔を見渡した。
「だって、新年は毎年札幌で過ごしているの。おばあちゃんも一緒よ」
「あいつも行くのか!? どうりで、毎年正月が静かだと思ったんだ!」
コリンは、悔しそうに足を一回踏み鳴らした――その踏み鳴らしたときの音が面白かったのか何か知らないが、コリンは何回か足を踏み鳴らしながら笑っている。
「急がねば……」
ベラが窓の外を見ながら物静かに言った。コリンはそれを見ると、いきなり真剣になって話した。
「ああ、急がねば……」
コリンは、ベラの話し方を真似した。その瞬間、ベラがコリンを鋭い目で見て睨みつけた。その目を見たコリンは、満面の笑みで返した。
ララは静かにドアを開け、廊下に誰もいないことを確認した。そして、抜き足で寝室に向かい、静かに部屋の中へと入る。ララが静かに寝室のドアを閉めると、プースリはまだベッドの中で寝ていた。だがここで、ララは一つ気付いたことがあった。プースリの戻し方を教わっていない。ララは、プースリを見下ろしながら、腕を組んで考えた。
「どうしよう……」
ララは、思いつく言葉をプースリにかけた。「戻れ!」「ありがとう」「終わりよ」「早く!」「コラ!」「てめえ!」「お願い……」、プースリは、全然反応がなかった。
「もう……、起きろ!!!」
ララは、苛立ちに思わず叫んでしまった。「しまった!」と思ったときには、下の部屋のドアが勢いよく開き、階段を上ってくる音がした。
「やばい!」
ララが、どうしようもないと思い、ベッドに潜り込もうととしたとき、プースリが目を見開いてみたまま、小さくなり元の大きさに戻った――そして、そのまま寝てしまった。
「ラッキー!」
ララは指を一回弾くと、急いでベッドにもぐり込んだ。
「どうしたの!?」
レジュリーが、ドアを思い切り開けてララを見て叫んだ。
「う~ん……、何?」
ララは、さも今起こされたかのように体を起こした。
「今、やめろって叫ばなかった?」
「叫んでないよ……」
ララは、目をこすりながら頭を振った――確かに、ララは「やめろ」とは言っていなかった。
「そう、ならよかった――奴が来たのかと思った……」
レジュリーは、胸をなでおろす。すると、レジュリーがおもむろに歩み始めた。ララがやばいと思ったときにはもう遅かった。レジュリーは、ベッドの近くに落ちているセーター三枚を見つけた。
「これ何?」
「ああ――さっきそれを着て汗かいていたの! そうすれば、早く風邪を治せると思って……。結局、暑くて脱いじゃったけど」
「そうなの? 汗かいて体冷やさないようにね」
レジュリーは、セーターを持ってドアへと向かった――どうやら、バレなかったみたいだ。ララは小さく息を吐いた。
「もうすぐ夕食だから、もう少し寝てなさい」
と言って、レジュリーは寝室を出て行った。
ララは、間一髪のところで難を逃れた。でも、一つわかったことがある――この家の大人三人はカイヤックブールの存在を知っていたのだ。
プースリは、何事もなかったかのように、パジャマに着替えるララの隣でスヤスヤ寝ていた。