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黒羽のジャン

作者: すずらん

 

 小さな国、リアンダ王国。

 この国にはウィルダという王子がいました。


 ウィルダは十七歳の誕生日に、王位を継承することになりました。

 そしてそこで妃を発表することになっていました。


 人々は皆、ウィルダと幼なじみのアイナが選ばれるに決まっていると思っていました。

 アイナの父は国王に仕える家臣のひとりです。

 アイナは幼い頃からよく父親と一緒に城に来て、ウィルダと遊んでいました。 今でもアイナとウィルダはよく一緒にいます。


 しかし、それを妬む家臣がいました。

 そしてまた、ウィルダの王位継承を望まない大臣もいました。




 五月のある日のこと。


 いつものようにアイナはお城でウィルダとおしゃべりしていました。

 そしていつものように夕暮れ近くになると自分の家に帰るのでした。


「ウィルダ、今日はそろそろ帰るわね」


「じゃあまた明日」 ウィルダはいつもお城の門までアイナを見送るのでした。


 門を抜けると、アイナは大抵一人で家まで歩いて帰ります。

 父親と一緒に帰ることもありますが、父親は忙しい時が多いのでそれは滅多にありません。


 アイナの母親はアイナが幼いころに病気で死んでしまいました。

 それからは家政婦のリアがアイナの世話と家のことをしてくれていました。

 アイナはリアととても仲良しで、リアの仕事をアイナが手伝うこともあります。


 アイナは歩いていた足を止めました。

 誰かがすぐ後ろにいるような感じがしたのです。


 そっと振り返ってみましたが、誰もいませんでした。

 アイナは気のせいだと思って再び歩き出しました。


 しかし、やはり誰かが後ろにいるような気がしました。


「……」


 アイナは足を速めながら後ろを振り返りました。


 ――誰もいません。 アイナは歩く速さをを緩めました。

 そして、前に向き直しました。


「きゃっ!」


 アイナの目の前に全身を黒い布で覆った大きな男が立っていました。


 男は腰から大きな剣を抜いて、アイナに剣先を向けました。


「お前を殺す……」


 男は剣を振り下ろしました。


 ――アイナは間一髪それを避けました。が、男はすぐに剣をまた振り下ろしてきました。


「ぅぅっ……」


 アイナは目をぎゅっとつぶりました。


 次の瞬間、カキンッという金属がぶつかり合う音が響きました。


 アイナが目を開けてみると、黒い羽の生えた少年がアイナと男の間に入って、剣を剣で押さえていました。


「ちっ」


 男は舌打ちをして、スッと消えてしまいました。


「あの、ありがとうございました」


 アイナは立ち上がって黒羽の少年にお礼を言いました。

 ですが少年はアイナの方を向くと

「お前には死んでもらう」と言って、飛び立ってしまいました。




 六月になり、アイナの十六歳の誕生日がやってきました。


 アイナの家ではパーティが行われていました。

 ウィルダはもちろん、父親の知り合いや近所の人たちがお祝いにやってきました。


「アイナちゃんももう十六歳か。この前までこんなに小さかったのに」


「立派に成長したわね。どんどんきれいになっているわ」


「だんだん妻に似てきたよ」


「うちんとこの息子の嫁さんに欲しいくらいだ」


「だめよ。アイナちゃんはウィルダ王子様のお妃様になるんだから」


 アイナは容姿も美しく、気立てもいいので、皆アイナを褒め称えていました。


「アイナ、誕生日おめでとう」


 ウィルダはアイナにプレゼントを渡しました。

 アイナが貰ったのは綺麗な宝石の付いたペンダントでした。


「ありがとう、ウィルダ。とっても嬉しいわ。ずっと大切にするわね」


 アイナは早速そのペンダントを付けました。


 しばらくして、リアがケーキを運んできました。

 リアはケーキを切り分けてお皿にのせていきました。


 ところが、途中でお皿が足りないことに気が付きました。

 リアは慌ててお皿を探しに行こうとしましたが、アイナが自分が探しにいくと言いました。

 リアはアイナを止めようとしましたが、アイナは


「お願い、お手伝いさせて」と言って、調理場に行ってしまいました。



 アイナは調理場に行くとお皿を探しました。

 そして、一番下の棚の中にお皿を見つけました。

 アイナはしゃがんでお皿を取り出そうとしました。


 すると突然ガシャンッという何かが落ちて割れた音がしました。

 アイナはびっくりして立ち上がりました。


 今度は調理場にある調理器具や食材などがカタカタと動き出しました。アイナは恐くなり、急いでお皿を手に取って調理場から離れようとしました。


 アイナが調理場を出た瞬間、野菜がアイナ目掛けて飛んできました。


 アイナは逃げました。


 今度はお鍋が飛んできました。

 アイナはそれをかわそうとしましたが、家具につまづいて、転んでしまいました。

 そしてなんと包丁がアイナに向かって飛んできました。


 その時、再び黒い羽の少年がアイナの前に現れました。

 少年は剣で飛んでくる包丁を振り落としました。


「またあんたかっ!」


 少年が叫ぶと、以前にアイナを襲った男が現れました。


 男は腰の剣に手をかけ、剣を抜こうとしました。

 ところが、アイナがなかなか戻らないことを心配したリアとウィルダが家に入ってきたので男はそのままスッと消えてしまいました。


 リアとウィルダは家の中が荒れているのに驚き、座り込んでいるアイナに駆け寄りました。


「アイナ、大丈夫か!?」


「これは一体……」


 黒羽の少年は剣を腰に戻すと、近くの窓を開け、静かに飛び去っていきました。


「あっ、待て! お前がやったのか!?」


 ウィルダは少年を追いかけようとしましたが、アイナに止められました。


「違うの、ウィルダ。あの人は私を助けてくれたの」


 アイナが五月にも命を狙われたことを知ったウィルダは、アイナがまた狙われるのではと心配になりました。


 そこでウィルダは、二人の兵にアイナを守らせることにしました。


 二人の兵はアイナが家にいるときは家の周りを、アイナがお城と家を行き来する時はアイナと共に行動をするようにしました。


 またウィルダは黒羽の少年のことが気になっていました。




 一ヵ月後。


 誕生日以来アイナが狙われることはありませんでした。


 ウィルダはこれでもう大丈夫だと思いました。 この日もアイナはウィルダに会いにお城に来ていました。

 夕暮れ時になり、アイナはいつものように二人の兵と共に家に帰りました。

 ただ、いつもよりも少し遅くなってしまいました。


 もうすぐに夜になることでしょう。


 いつものようにお城の門までアイナを送ると、ウィルダは城の中へ戻っていきました。

 空はもう真っ暗になっていました。


 ウィルダは窓から空を見上げました。

 空には星と満月が輝いていました。


 そして、ウィルダは月明かりに照らされて黒い羽が飛んでいくのを見つけました。


 例の黒羽の少年だと思ったウィルダは慌てて外に出ました。


 少年はアイナの家の方へ飛んでいきました。ウィルダは走ってアイナの家を目指しました。


 ところが、少年だと思っていた黒い羽の持ち主はカラスでした。

 それに気付いたウィルダは引き返そうとしましたが、前方をアイナと二人の兵が歩いているのに気付きました。


 兵がいるから心配する必要はないんだと思い、ウィルダはアイナたちに背を向けました。


「きゃーっ!」


 突然、アイナの悲鳴が聞こえてきました。


 慌てて振り返ると月明かりに剣が反射しているのが見えました。

 ウィルダはまさかと思い、走り出しました。


 アイナに剣を向けているのは、今までアイナを護衛してきた二人の兵でした。


 アイナは必死に二つの剣を交わしました。

 そしてこちらへ向かっているウィルダに気付き、ウィルダの方へ駆け出しました。


 ウィルダは剣を構えながら、後ろにアイナをかくまいました。


 兵の一人が飛び掛ってきました。


 ウィルダはそれを剣で受け止めました。

 兵は力ずくで押してきます。

 ウィルダは精一杯押し返します。


 しかし、それと同時にもう一人の兵がアイナを捕らえました。


「アイナーッ!」 


 ウィルダはアイナを助けに行きたくても、そこから動くことができませんでした。


 すると空から黒い羽根がひらりひらりと舞い落ちてきました。


 今度は本当に黒羽の少年がやってきたのです。


 少年は地面に降り立つとアイナを捕らえている兵からアイナを救い出し、兵に切りかかりました。

 剣は兵の肩に傷を付けました。


 少年が今度は止めを刺そうとすると、アイナが止めました。


「お願い、その人たちを殺さないで! 今まで私のことを守ってきてくれたのよ」


 少年は剣を振り下ろさずに、兵の後ろ首を突いて気絶させました。 兵の一人はそのまま倒れ込みました。


 ウィルダはそれを見ていて、一瞬の隙をつかれて兵に突き飛ばされてしまいました。

 ウィルダは気を失ってしまいました。


 黒羽の少年は再び兵の後ろに回り、首を突いてもう一人の兵も気絶させました。


「ウィルダ!」


 アイナはウィルダに駆け寄りました。


「そいつは気を失っているだけだ。直に目を覚ます。こいつらも気絶しているだけだ。……どうやら操られていたみたいだ」


「あの、何度も助けていただいて、ありがとうございます」


「オレに感謝なんかするな。オレはお前を殺さなくてはいけないんだ。オレが殺すまではお前は殺させない。……それだけだ」


 アイナは飛び立とうとする少年を呼び止めました。


「待って。あなたの名前を教えてください」


「名前? そんなのお前が知る必要はないだろ。……ジャンだ」


 少し間を置いて名乗った少年、ジャンはアイナに背を向けて、空高く飛び上がりどこかへ飛んでいってしまいました。



 三度も命を狙われたアイナは、一人で出かけることを禁じられました。


 お城に行くことができるのは父親のと一緒に帰れる時だけになってしまいました。

 しかし、お城に行けないときのアイナはとても寂しそうでした。


 リアはアイナの父親と相談し、アイナに子犬をプレゼントしました。

 アイナは、その子犬をとても可愛がりました。



 お城に行けなかったある日、アイナは家の庭で子犬と遊んでいました。

 すると、ひらりひらりと黒い羽根が舞い降りてきました。

 アイナが見上げてみると、ジャンがいました。


 ジャンはアイナの前に降り立ちました。


「ジャン、今日も私を助けてくださるの? それとも殺しにきたの?」


「……お前、変わったやつだな。言っとくが、お前を殺すのはあの王子の誕生日だ」


『きゃんっ、きゃんっ!』


 突然、アイナの横にいた子犬がジャンに向かって吠えました。


「この子の名前、ジャンっていうの。いつも私を守ってくれるようにって」


「何度も言ってるだろ、オレはお前を……」


「でも、その日までは守ってくれるのでしょ?」


 アイナは子犬ジャンを抱きながら言いました。

 そして、ジャンに微笑みかけました。


 ウィルダは、このままではいけないと思いました。

 しかし、自分は滅多に城の外に出ることを許されないので、ウィルダからアイナに会いに行くことは難しいことでした。


 ウィルダは考えました。

 お城から出なくてもアイナを守る方法は何かと。



 朝になり、ウィルダは数人の兵と共にアイナの家に向かいました。ウィルダの考え出した答えは、アイナをお城で守ることでした。


 ウィルダはお城の部屋の一つをアイナの部屋としました。

 その部屋は、とても窓からの景色がきれいな部屋でした。


「ウィルダ、ありがとう。こんなによくしてもらって。……でも私、ウィルダに迷惑をかけてばかりだわ」


「何言っているんだよ、アイナ。そんなの気にしないで。僕はアイナを守りたいだけなんだ」


 アイナは自分が狙われているせいでウィルダも危険な目に会うことが心配なっのでした。


 夜になり、アイナは眠っていました。

 アイナ以外、部屋の中には誰もいないはず。

 ですがアイナは誰かの気配を感じ、目を覚ましました。


 アイナは恐る恐る声を出しました。


「だ、誰?」


 すると、部屋のドアの前にスッと黒い布をまとった大きな男が現れました。


「……どうして、私を狙うのですか?」


「王子と親しいお前のことを良く思わない者がいるからだ」


 男はそう言いながらアイナに近づいてきました。

 アイナは逃げようとしませんでした。


「……私がいなくればいいのですね」


 剣を構えた男の前にアイナは自ら立ちました。


「ほう、観念したか」


 その時、トントンと誰かがドアをノックしました。


「アイナ、誰かいるのかい? 話し声が聞こえたけど」


「な、何でもないわ。ただ、なかなか寝られないだけなの。だから大丈夫よ、ウィルダ。心配 しないで」


「そうか……」


「…………」


「王子を巻き込みたくないってことか」


「これ以上、誰も巻き込みたくないの」


 男は剣を構えなおし、アイナ目掛けて振り下ろしました。

 アイナは目をつぶりました。


 するとカキンっという剣と剣がぶつかる音がしました。

 アイナが目を開けてみると、そこには何度も見たのあるジャンの姿――剣を構えて自分を守っている光景がありました。


「ジャン、もういいのよ」


「オレはよくないんだよ!」


 ジャンは男に飛び掛りました。

 男は剣で受け止めて、ジャンを弾きました。

 ジャンは弾かれてもすぐにまた男に飛び掛りました。


 ドンドンドンッ。


 ドアを激しく叩く音が聞こえました。


「アイナっ! どうしたアイナっ!? ドアを開けてくれ!」


 ジャンと男の騒ぎに気付いたウィルダが戻ってきたのです。


「ウィルダ、来ないで!」

 ウィルダは鍵の掛かった部屋のドアをこじ開けようとして、ドアに突進しました。


 ウィルダがドアを蹴破ると、ジャンが男に圧されている光景が広がっていました。


 男はジャンを力いっぱいねじ伏せると、今度はウィルダを目掛けて剣を振り下ろしました。


 ウィルダはとっさに剣を構えてそれを受け止めましたが、男にドンッと弾き飛ばされました。


「もう、止めて!」


 アイナは叫びました。

 そして窓に足を掛けました。


「アイナ、何を!?」


「ごめんね……」


 アイナは涙を浮かべながら窓からその身を投げ出しました。




「はははっ。あの娘、自分から死にやがった」


 男は笑いました。

 すると、ウィルダとジャンが一斉に男に飛び掛りました。


「お前たち、あの娘はもう死んだんだぞ。なのにこの死神にまだ歯向かうというのか!?」


 アイナが飛び降りたことで、男は油断していました。


「ぬおっ!」


 隙を突いた二人の猛攻撃に死神はとどめを刺されました。


 そして死神は煙のようにシューッと消えていきました。


 死神の姿がなくなると、ウィルダは床に膝を着き、肩を落としました。

 そして拳を握り締めてそれを床に叩きつけました。


「――れなかった。アイナを守ってやれなかった……」


 ウィルダは何度も床に悔しさをぶつけました。

 目からは、悔しさと悲しさの涙が落ちていました。


「…………」


 ジャンは、ウィルダの前から静かにアイナが飛び降りた窓から飛び去りました。




 アイナは目を覚ましました。

 目の前にはジャンがいて、アイナのことを腕で抱えていました。

 周りには何もありません。


 アイナは混乱しました。


「ジャン、私!?」


「言っただろ。お前はオレが王子の誕生日に殺すって。……まだ死ぬには早い」


 ジャンはそう言うとアイナを放しました。

 アイナは下へ、下へと落ちていきました。




 ウィルダはいつのまにかその場で眠っていました。


 朝日が差し込み、ウィルダは目を覚ましました。

 そして自分の目を疑いました。


 ベッドにアイナが眠っているのです。


 ウィルダはアイナに近づき、アイナの手をそっと握ってみました。

 アイナの手には確かな温もりがありました。


「アイナ……アイナ、アイナ」


 ウィルダがアイナの名前を呼ぶと、アイナはゆっくりとまぶたを開けて瞳にウィルダを映しました。


 ウィルダはアイナに抱きつました。


「ウィ、ウィルダ……!?」


 アイナは自分が生きていることとウィルダにいきなり抱きつかれたことに驚きました。



 何度もアイナの命を狙った男がいなくなったのでアイナは自分の家に戻ります。

 しかし、ウィルダはアイナを引き止めました。


「アイナ、ずっと城に……僕と一緒にいてくれないか?」


 ウィルダはアイナに結婚を申し込みました。


 アイナは嬉しそうな顔をしましたが、すぐに悲しい顔になってしまいました。


「今度の誕生日に僕は父上から王位を継承する。その時に君をみんなに紹介したいと思っている。僕の妃として」


 ウィルダはアイナの手を取り、その甲にキスをしようとしました。


 しかし、アイナは手をスッと引いてしまいました。

 そしてウィルダに背を向けました。


「ウィルダ、ごめんなさい」


「アイナ、どうして……?」


「ごめんなさい。でも……ウィルダのことは大好きよ。さよなら」


 アイナは急ぎ足でウィルダに背を向けたまま一人家に戻りました。



 自分の部屋に戻ったアイナの目からは涙が溢れ出てきました。

 手で覆っても涙は溢れてきました。


 ウィルダに結婚を申し込まれたことはとても嬉しかったのです。


 しかし、

「お前はオレが王子の誕生日に殺す」というジャンの言葉を思い出したアイナは、ウィルダの申し込みを受け入れることが出来なかったのでした。




 死神がいなくなっても、ジャンはアイナを静かに見守っていました。一人で部屋で泣くアイナの姿も見ていました。


 アイナがお城を出たあの日以来、アイナは一度もお城に行きませんでした。

 あの日以来ウィルダとは会っていません。


 しかし今日はもう、ウィルダの誕生日です。


 誕生日パーティーの開始を知らせるラッパの音がお城から響き渡りました。

 人々は大きな拍手や歓声を上げました。


 でも、アイナは家にいました。ドレスに着替えることもなく、ただベッドに座っていました。


 すると、目の前にジャンが現れました。


「王子の誕生日パーティー、行かないのか?」


「……行かないわ」


「そうか。……なら、ここでお前の命をもらうぞ」


「ええ、いいわ」


 アイナはジャンの前に立ちました。


 ジャンは腰から剣を抜きました。


「本当にいいんだな?」


 アイナは頷きました。


 ジャンは剣を構え、その剣をアイナ目掛けて振り下ろしました。


「――ウソつくなよ! 全然良くないじゃねえかよ!」


 アイナの目は涙でいっぱいでした。


 ジャンは剣を腰に戻しました。


「死ぬの嫌がってるじゃねえかよ」


「あなたにはたくさん助けてもらったわ。あなたが私を殺したいのなら、私は――」


「バカ言ってるんじゃねえよ! 自分を助けてくれたからって、命まで渡すことねえだろ!」


 ジャンの思いがけない言葉にアイナは戸惑いました。


「お前は、殺せない」


「えっ?」


 ジャンはアイナを抱き上げました。


「ジャン、何をするの?」


「城に行くぞ」


 ジャンはアイナと共に空に飛び上がりました。

 そしてそのままお城を目指して飛びました。




 ウィルダは高段の上で国王である父親と向かい合いました。

 国王は自らが頭に被っていた王の証を取り、王子の頭に被せました。

 それと同時に一斉に拍手が沸き起こりました。


 新国王の誕生です。


 そして、ウィルダ国王が妃を発表する時になりました。

 しかし、新国王ウィルダの隣には誰も立っていません。

 人々はざわめきました。

 旧国王や、王妃を始め皆心配になりました。


 一人の家臣と一人の大臣を除いては……


「おや? 新国王のお妃様はどうされたのすか?」


「お妃様がお決まりにならなかったのですか? ならば、まだ王位継承は早いのではないでしょうか?」


 二人は前国王に言いました。

 前国王は考え込みました。


「それはどうかな!」


 突然の声に人々は空を見上げました。

 空には、黒い羽の少年が少女を抱えて飛んでいる姿がありました。


 少年はゆっくりと人々の前に降り立ちました。

 そして少女を新国王の前に連れて行きました。


「アイナ……」


「ウィルダ、私……」


 アイナは自分は一度ウィルダの気持ちを断ったので、どうしたらいいのか分かりませんでした。


 ウィルダは片膝をつき、アイナの手を取りました。


「アイナ、僕は何度でも君に言うよ。この国の王妃に、僕の妻になってくれ」


 ウィルダはアイナの手にキスをしました。


 アイナの答えはもちろん決まってます。


「はい」


 アイナの返事を聞いて大きな拍手と歓声が沸き起こりました。

 死神を呼び、アイナの命を狙っていた家臣は、その身を一生牢獄で過ごすことを命じられました。

 ジャンに命を下したクロゼート大臣も反逆の罪で、国外永久追放をうけました。




 そして、ジャンは――


「死の使いであるお前は殺すべき者を殺さなかったばかりか、命を助けるなど門外である。よってお前からその死の使いの印、黒羽を取り上げる」


 死界の魔王により、黒羽を取り上げられ、死使いジャンは消え逝くことになりました。




 ウィルダ国王の誕生日から一ヶ月。


 今日は誰もが待ちに待ったウィルダとアイナの結婚式が行われます。


 純白のドレスを身にまとったアイナはウィルダから指輪をはめてもらい、前国王と王妃からティアラを受け取りました。


 新王妃の誕生です。


 人々は盛大な拍手をして二人を祝福しました。


 アイナはとても幸せでした。

 しかし、あの時以来ジャンが現れなくなり、お礼を言えないままなのが心残りでした。


 アイナがふと足元を見ると白いものが落ちていました。

 それは白い羽根でした。


 アイナは空を見上げました。そこには、白い羽の生えた少年がいました。


「ありがとう……ジャン」





 はじめまして、すずらんです。初投稿作品です。

 小説を人に見せるのは初めてのことで、正直不安でいっぱいです。読んでいただいた方には、本当に感謝します。

 まったくの素人ですが、これから修練していくのでよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 初めまして。物語とても面白かったです。アイナが狙われる度に出てくるジャンや、ウィルダの想いが良いなと感じました。  キャラが生き生きしていますね。アイナが最後にジャンに出会えたのは良かったな…
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