命日の手紙
−雅人へ
元気ですか?
あなたがこの家を出て、今日でちょうど、二年が過ぎようとしています。最初のうちは、急に家の中がガランとして、寂しくもありましたが、それも慣れました。今は一人、悠悠自適な毎日を過ごしています。
そちらはどうですか?あなたの事だから、食事も外食で済ませてばかりいるのではないかと、心配しています。簡単でいいから、自分で作って食べなさい。栄養が偏りますよ。
こちらではそろそろ、庭の菜の花が咲こうとしています。お父さんが逝ってしまってから、ほとんど手入れも出来ず、荒れ放題だったのに。植物も、一生懸命生きているのですね。私も頑張らなければ。
もちろん、あなたもね。
そういえば、今年のお父さんの命日は、帰ってこれそうですか?お祖父ちゃん達も、久しぶりにあなたに逢いたがっています。いろいろ忙しいとは思いますが、是非時間を作って、帰って来てください。私も、あなたに逢えるのを楽しみにしています。
それでは、くれぐれも身体には気を付けて。たまには、連絡くださいね。
母より−
…音がした。
ざしゅ。
土を掘る音。
真夜中の、とある一軒家。庭の片隅に、人影が見える。
庭には、一面の菜の花。
ざしゅ。ざしゅ。ざしゅ…。
と、唐突に音が変わった。
地面に、何か金属を投げ捨てる音。
木の板が擦れる音。
強い異臭がした。
庭の片隅。朽ち果てた棺に手紙を入れると、彼女はいとおしそうに、中を覗き込んだ。
そして、笑う。
歯を剥き出し、目を輝かせて。