表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
翼の舞い下りる先は  作者: GG&G
3/4

元撃墜王、お仕事の前

 杉田翔一が扶桑女学園に赴任する少し前・・・・


 扶桑女学園は学校である。女学園であるからして、学生は全て女性だ。全寮制でもある。大和撫子、良妻賢母と言った古風な字面が並び、硬いイメージが先行する。だが、男尊女子が薄れ、男女平等、同権といった物が敬われる時代となりつつあるためか、女学生の『自主性』も問われるのである。

 扶桑女学園でも例外とは言えなかった。生徒会が存在し。生徒会があるならば、それを治める長が存在する。

 

 「扶桑女学園生徒会長、扶桑咲耶、入ります」

 

 自信に満ちた声色で発せられている。北欧系を思わせる顔立ちに、加えて秋津人とは思えない凹凸のはっきりとした身体のラインだ。これは彼女の母親の遺伝子がそうさせている。しかも、欧州では全滅しつつある貴族を思わせる金髪に縦ロールである。

 すぐに扉の向こう・・・理事長室の中から「お入り」と返答が返ってきた。咲耶が扉を開くと理事長である薫子は正面の理事長席に座っている。

 「理事長なにか、御用でしょうか?」

 「ええ、貴女にお願いしたい事があって呼びました」

 と言って書類を取り出す。顔写真付の履歴書に加えて簡単な調査報告が載っている書類だ。

 「これは?」

 書類を手に取る。名前は杉田翔一と言うらしい。顔は・・・まぁ、個人的にはハンサムと言って良い顔立ちだが・・・・・眼つきは鋭い・・・鋭利すら感じさせる印象だ。

 「元軍人さん・・・この方がどうかしましたか?」

 「今度、教師として赴任してきます」

 「元軍人さん・・がですか?」

 訝しげに聞き返した。女学校であり、寮生活である学生達であるが、教師達も伊豆半島の片隅にある立地から教師達も寮生活を強いられている。そのためか教師達も女性が中心だ。男性職員もいない事は無いが非常に少ない。

 ましてや、元軍人・・・・調査報告によれば航空軍で4年程前に終わった戦争でFTTのパイロットとして活躍したと書かれている。そして、家族関係は良好であり両親とも健在、父親はかなり名の知れた漫画家、母親離婚暦があるのだが現在は専業主婦(血縁者は華族に関係するらしいが、詳しくはかかれていない)そして、姉は既婚者でもあり、2歳になる娘が居る事などが書かれている。

 

 「貴女に彼のサポートをお願いしたくて今日は。呼び出しました」

 「わ、私がですか?教員の方を?」

 「はい」

 と薫子は端的に答えた。本来なら新任のサポートをするのは古参とかベテランの教師が適任だろうと思うのは当たり前だ。まして、社会人としては軍隊経験の方が長い上に4年前に終わった戦争の経験者、帰還兵の問題が何かと議論される。凶悪犯罪と帰還兵がくっ付けて議論されてしまっているからだが、統計的に見れば帰還兵が社会に与えた犯罪は目を瞑れる範囲だ。大体、治安悪化の主たる原因は戦後から続く経済状況の悪化から来ているのだから、

 だからと言って、外の情報をテレビというメディア(当然だが、インターネットも学生たちは閲覧できない)ではなく、新聞と言った活字に頼っている所為か、その情報を真に受ける傾向が扶桑女学校の学生に見受けられる傾向だ、生徒会長の咲耶もその限りではない。

 「生徒会顧問としても配置します」

 「ですが、御婆様さま!!」

 「咲耶さん・・・・ここでは、理事長です」

 目が鋭くなる薫子。扶桑の苗字が示すように彼女たちは血縁関係にあるのだが、薫子は極力、私情を挟まないようにしている。だから、学校内では常に『理事長』と呼ばせている。

 「申し訳ありません」

 「貴女が困惑するのも仕方がないとは思いますが・・・ですが、決定事項です。従いなさい」

 強い口調で薫子が言い放つ。

 「了承しました」

 と幾分弱い調子で咲耶は快諾した・・・そして、理事長室を後にする。そして、生徒会長の執務室に向かう途中、彼女の思考回路は妙な方向に動いた。

 (何故。祖母様はここまでこの人を勧めるのかしら。中学を卒業して直ぐに軍隊に入るなんて変わった方だけど・・・・・でも、軍歴は素晴らしいのでしすのよね。そう言えば従軍したお兄様が航空軍に20歳程度の若手で凄いヤツがいるって言っていたかしら?この方よね・・・多分。も・・もしかして、祖母様は、わ、私の婚約者と読んだのかしら!?確かに、御爺様やお父様は軍の人を入れたいような口ぶりでしたし、この報告書、この人の軍人だった頃の事を誉めちぎっていますし・・・・た、たしかにハンサム方ですけど・・・ああ・・・どうしましょう)

 と、妙な方向に動き始めた彼女の脳内は老後の生活まで続くのだが、ここでは割愛する。ちなみに、翔一の軍隊時代が褒めちぎられていたのは、調査員が調査中に捕まり翔一を懇意にしていた将軍の所まで連行され、彼の良さを延々と語られたためだ。もっとも調査員は生きた心地がしなかったが。




 そして、現在彼は目の前にいた。写真で見た印象とは少々違っていた。眼光の鋭利さが鈍く感じたからだ。

 「杉田翔一だ。専門は現代史だが、歴系全般は教える事が出来る」

 「お話は伺っております。杉田先生」

 翔一は目線だけを動かして生徒会長の執務室を見る。理事長室とは違って豪華さはない。むしろ質素といえるのだが、調度品の質は良い物を使っている。だが、翔一には理解できない点が一つだけあった。

 母親からは人と話す時は目を視ろと教えられた。そうすればある程度は感情を読み解けるが・・・・・。

(た、縦ロールはじめて見た。欧州系の血でもはってるのか?ああ、ソレだったら亡命貴族かもなぁ、これだけデカイ家柄だったら、ありえるかもしれんが・・・しかし、なんだぁ?この視線は、熱いというか、なんというか)

 大陸に居た頃『ある程度の』性欲を満たすために、法に触れるギリギリの店を訪れた時に受けた女性からの視線に似ていなくともない。

 「杉田先生には、生徒会顧問もしていただくそうですね」

 「え?」

 「聞いていらっしゃらないですか?」

 「ああ・・・そんな話は出ていないのだが」

 と翔一の答えに咲耶は少々、惑の色を示すが祖母である薫子は重要な事を意図的に省く時がある。理由としては面白いからと言うのがソレらしい。

 「理事長から、伺っていないのなら仕方がありません。ですが、すでに決定さた事です。従ってくれますよね?」

 お願いではなく、命令になっている。

 「雇用主には逆らわないよ」

 「分かりました。と言っても我が校の生徒会顧問は名誉職見たいなものですから、大丈夫です」

 ここで、咲耶はようやく笑顔を見せたのだが、すぐにソレは消える。何故なら此処では部外者とは言わないが本来居るべき人間でない者が居るからである。しかも、親しげに翔一の腕に自分の腕を絡ませているからである。

 咲耶は綺麗な柳眉の片方を上げると、強い口調で言い放った。

 「柿田川さん?何故、貴女までいっらしゃるの?上田さんは兎も角として、貴女は此処に居る必要性を感じませんわ」

 言葉尻は丁寧だが棘どころかバッサリと切っている。

 「やだなぁ。ただの道案内だよ?そのついで」

 「校内を案内するのならば、上田さんが居れば十分ですわ」

 「え?知らない人よりも顔見知り程度も知っている人に案内される方が気がらくだと思うんだけどなぁ?」

 「し、知り合い!?」

 「うん、センセイが大学生の時にパパの会社でバイトしてた時にね?」

 「なぁ!?」

 勝ち誇ったように胸を反らす白糸。咲耶は白糸の事を好ましくないとは思っているが、それなりには認めている。生活態度には少々問題であるが、文武両道。単純な学業成績ならば学園トップクラスである。本来なら生徒会に入ってもおかしくはないのだが、生活態度が著しくない彼女は除外されている。

 さらに、今回の事である。彼女の父親の会社は軍関係に従事しているし。翔一が乗っていたFTT『99式疾風』がその会社で造られた事ぐらい(社交界などが行われる場合自分とは無縁の知識でも知っておく必要がある)は把握しているから、咲耶の動揺に拍車を駆けていた。

 (お。御婆様、お話が違いますわ!!っは。もしかして、これは試練なのですね。柿田川の方も杉田先生を狙っているのですね、分かりましたわ。きっと、勝利者になってみせますわ!!)

 と心の中で叫んで入る。


 「では、これで。今度は始業式かな?会えるのは」

 「は、はい」

 「では、生徒会の仕事をがんばってくれ」

 と言って翔一は、手を差し出した。なんだか、空気がおかしくなって来たので一刻も早く此処から出たい気分なのである。

「分かりました。ありがとうございます」

 咲耶は差し出された手を握った。

 翔一達が出て行った後、咲耶は握った方の手をじっと見つめて。

「大きくて、硬かったですわ」





 翔一も握られた手を見ていると、視線を感じたので、そちらの方向を見ると白糸が翔一を半眼気味にジッと見て、いや睨んでいた。

 「なんだ?」

 「センセイって生徒会長みたいなのが好みなのぉ?」

 幾らか怒気が含まれている声色に翔一は背中に冷たさを感じる。スタイルが良くて胸もある女性が好みか?聞かれれば「YES」と言える。まぁ、生徒会長の扶桑咲耶は顔も良い、あれだけ女性に好意をもたれれば嬉しいだろう・・・・だが。

 「あのなぁ。俺は教師だぞ?学生を相手に出来るわけないだろう?」

 「ふ〜〜ん。でも会長は顔も良いし、スタイルも良いし。おっぱいだって大きいし・・・それに、亡命貴族の血も引いてるんだよ?」

 「へぇ・・・」

 と、気のない返事をするが、「やっぱりな」と思うのが心情だった。


 亡命貴族・・・・はヨーロッパが北の超大国インペラトールが完全な帝政を布いていたため起こった問題である。50年ほど前、当時はインペラトールは帝政を布いているわりには好調な経済、片や慢性化している不景気、インペラトールと陸?がりで、いざ開戦となったら自国が戦場になりかねない状況が発生した場合、未だに王制、貴族が残るヨーロッパ諸国で巻き起こった「王侯貴族排斥運動」である。秋津国、合衆国、インペラトールは共産化を恐れたが彼らが求めたのは完全な「民主主義共和国」であるからだ。行き場所を失いつつあった王侯貴族は財産を持ち出して逃げ出したのである。

 合衆国嫌いが多かったヨーロッパの王侯貴族は逃げ場所を秋津国に大量に流れ込んだのである。だが、財力だけでは自活は不可能である。そのため、秋津国の財界の中に入る事で自分達を維持することに成功したのである。

 その為、財界には欧州系の顔立ちをした人間いるのだ。彼女はその系譜に属していると言える。

 

 

 

 「なぁ・・・・おい」

 「なに?」

 気だるげに翔一は白糸に問う。

 「いつまでついて来る気だ?此処から先は男性職員寮だぞ?」

 「だって、センセーの部屋見たいんだもん」

 「あのなぁ」

 呆れ気味にため息をつくのだが、一応規則違反居はならないらしいが、女学生が進んで入るべき場所で花井湖とは確かだ、

 だが、男性職員寮の玄関につくと、そこには申し訳なさそうな顔をしたメイドが立っていた。

 そして

 「申し訳ありません」

 と、開口一番に彼女は頭を深々と下げた。翔一、白糸、上田はそのメイドを注視した。そして、この三人の中で初めに口を開いたのは上田だった。

 「どうかしましたか?」

 「そ。それが・・・」

 

 メイドが言うには本来、翔一が入るべきだった部屋に別の職員が入ることになったそうだ。翔一の方に優先権があり、その職員には別の場所が充てられるはずだったが、その職員は拒否、どうも有力な人間の子息であることを利用して、自分を寮に翔一をその場所に移させたそうだ。

 

 「なぜ、連絡をしなかったのですか?」

 上田の声色には怒気が含まれている。その声にメイドは怯えるように声を絞り出した。

 「は、はい・・・・大城田様、杉田様の部屋の一件で混乱してしまい。御報告するのを失念してしまいました」

 と、メイドはさらに頭を深く下げる、

 「申し訳ありません。杉田様、どうお詫びすればいいか」

 と、上田までが頭を下げる。

 「いや、まぁソレはいいけど俺の部屋は何処になるの?」

 戦争中、急な命令変更、自分たちの官舎に高級士官が来るので寝泊りをしている場所を明け渡して、自分たちはテント暮らし(FTTのパイロットなのに)など不遇な面にあったためトラブルに対して感覚が麻痺している翔一は「気にするな」と言った極めて軽い口調で応対した。

 「は、はい!此方になります」

 

 

 

 案内され場所に流石に翔一も眉を寄せる。

 「おい、此処は」

 案内されたのは女学生用の寮である。当然でhあるが、男性の入館は厳しく制限されている場所だ。

 「いえ、此方ではなく・・・・・その・・・」

 此処までを案内したメイドが示す先には平屋の一軒家があった。簡易な事務所と言ったほうがしっくり来るかもしれない概観である。

 「此処かい?」

 「は、はい」

 未だに謝辞の感覚が消えないのか、眉がハの字になっている、笑顔をでいれば可愛いのにと思った翔一だが。

 ギュ

 不意に腕に痛みが走る。元凶となった相手に目線を送ると、白糸が翔一を睨んでいた。

 「センセー、えっちぃ目になってる」

 「なぁ!?」

 




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ