撃墜王、免職になる
戦争は珍しいものではない。
歴史の紐を解いてみれば分かる事だ。
徴兵と言うシステムを解さない秋津国にとって戦争と言う事象は一般人にとっては理解の範疇外にある。
だが、彼は戦場の空を飛んでいた。戦術航空騎兵、フライング・タルティカル・トルーパー、FTTなどと呼ばれる人型の空飛ぶ戦闘兵器に乗って。
蓬莱大陸での戦争が3年目に入り、秋津国、インペラトール、蓬莱連邦、蓬莱帝国の四カ国は終戦、もしくは休戦を考えた行動を起こすようになっていた。
それが、インペラトール、蓬莱帝国の最後の大攻勢。
秋津国、蓬莱連邦とって『悪夢の一日』と呼ばれた戦役だった。秋津国、蓬莱連邦は事前に察知し、この攻勢に備える事になっていたが、絶対的に戦力不足があったため、秋津国のもう一つの軍隊である『近衛軍団』にも参戦させたのが、彼らの展開の遅さはあまりにも酷かった。
「ドクトル、増援はどうした」
『HQは持ち堪えろ、一点張りだな。向こうも混乱しているよロックマン』
ドクトルが本来ならロックマンを管制機から支援する彼のコールサインはドクトル・ライトなのだが、もう一人のドクトルは違う場所でフォルテ隊を支援している。その為、単にドクトルと呼んでいる。
『ロックマン!!10時方向!!』
「ッツ!」
僚機の割り込んできた指示で機体を後方に引かせる。オレンジ色に輝いている弾丸が眼前を通り過ぎる。攻撃してきた敵機に反撃をするが当らないが、すぐに別な方向から攻撃が来る。あっと言う間に穴だらけになった敵FTTは黒煙を上げながら落ちていく。
「ロックマン2すまない。ロックマン3よくやった」
『いえ、隊長が落されたら、俺達が女神様から見放されそうですからね』
『ありがとうございます。美味しく頂きました』
心強い僚機から軽口が叩かれるが、安心できる状況には程遠い。仮にこの制空戦に敗北するならば地上の連中はもっと酷い目に遭う。本当なら敵の重砲群を潰してやりたいところだが。今、対地攻撃隊を出したりしたら、七面鳥の如く落される。だから、自分たちが踏ん張るしかない。
『皇軍連中はどうしたんですかね?』
皇軍と言うのは近衛軍団のもう一つの呼び方だ、近衛軍団は自分達をその様に呼ぶ事が多いのが、彼ら以外が呼ぶ時、半分以上は嫌味で使われる。
「使えない連中の事は考えるな、ロックマン2それよりも一機でも多く叩くぞ」
『了解』
3機の99式<疾風>が敵陣に突っ込んでいく
『悪夢の一日』よばれた大攻勢の秋津国、蓬莱連邦の死者、行方不明、重軽傷者の累計は2万2千人以上であり、敗北といっても差し支えない損害を出していた。
戦後
判決が言い終わった後、初老の男性は鎮痛そうに口を開いた。
「すまないな・・・・・貴官を守る事が出来ないのは我々の失態だ」
制帽を脇に抱え一等軍礼服に身を包んだ青年は一切の表情を持たずに、彼らを見ている。陸海空軍の大将級が揃い踏みしている。
ここは軍事法廷の場だ。彼らの様な人間が来て、まして謝罪をするなどありえない。
「納得しろとは言わん。だが理解して欲しい。この不名誉除隊は貴官を守るためだ」
「ご心配いりません、閣下。納得も理解もしております」
「そうか」
安心したのか肩を落とす。
これは、軍法廷は近衛軍団を道化師にするため・・・そして何より蓬莱の空で撃墜王となった青年・・・杉田翔一を守るためだ。軍人は軍法、刑法、民法で裁けるが、民間人は軍法でさばくことは出来ない。近衛軍団の元帥をコケにした彼を裁く事は出来なくなる。刑事事件でも裁けるだろうが、世間一般は翔一を支持している傾向が強い。
「不名誉除隊の為、規約により貴官に退職金が支払う事が出来ない。貴官は大学への進学志望だったな?」
「はい」
大将は満足そうに笑う。
「君には大学での学費をすべて軍が負担する事となった」
大将が右に視線を送ると一人の仕官が頷く。翔一に差し出されたのは契約書だ。「感謝します」翔一は受け取る。入隊してから、蓬莱での大戦まで自分の銀行には十分な蓄えがあるが、大学に行って生活をする事を考えるとキツイだろう。
「それでは」
大将が立ち上がる。同席している将軍、士官達。
「空の英雄たる杉田翔一軍曹に敬礼!」
皆が同時に敬礼をする。
翔一周りを見渡す。制帽を被りなおし背筋を伸ばし、答礼をした。
軍事裁判所の門を抜けると空軍の制服を着た男が立っている。
「よう、二等兵どうだった?」
人の悪そうな笑みを浮かべ、右手を軽くあげる。
「これは、これは、少佐なんですか?」
「『なんですか?』じゃないだろう?・・・・・結果は?」
笑みが消え、真剣な面持ちになる。翔一は逆に人の悪そうな笑みを浮かべた。先ほど渡された書類を男に渡す。男はいぶかしげに書類に目を通すと・・・・
「ック・・ハハハハハハ!!!」
腹をかけて笑い始めた。
「笑いすぎですよ」
「いや、悪い・・・・しかし。これなら連中も貴様を裁けんか。三嶋元帥の真っ赤になる顔が目に浮かぶよ」
「温情処置ですからね・・・・大学の学費まで面倒を見てくれるのだから、文句は言えませんよ」
「大学か・・・・美大でも受けるのか?それとも、親父さんみたく漫画家を目指すのか?貴様は絵が上手かったからなぁ」
部隊ごとのシンボルマークなどをデザインして機体に描いたり、現地の子供に秋津国でも人気のマンガのキャラクターを書いてやったりなど、妙な才能を見せていた。
「漫画家・・・はね?親父が有名すぎて出る気にもなれませんよ。苦労も知ってますからね・・・・・それに、絵は自由気ままに描きたいんで、専門的なゴメンです」
「じゃぁ、どうするんだい?」
「そうですね・・・・歴史は好きなんで・・・そっちの方向で」
「歴史ね」
ケラケラと笑う。
だが、襟を正し背を張り、敬礼をした。
「ドクトル・ライトはロックマンの幸せを祈るよ」
「ありがとう、ドクトル」
翔一は答礼をする。先ほどの将官や士官達には感じなったものが込み上げてくる。だが、涙は見せない。母親から受けた教育の賜物だろう。戦場でも役に立った感情のコントロールだが、今ぐらいは放棄しても良いのではないか?と思ったが、いざ実行しようとすると出来ない事である。特に『泣く』という行為は。
翔一の背を見る男。
「こんな時でも、涙は見せないのか・・・・・まぁ、仕方ないか」
後頭部を掻きながら呟くと、携帯電話が着信を知らせる。
「はい・・・・ああ、ボス。ええ・・・・今し方・・・・・・・はい、分かってますよ。ウチの戦友の落とし前は附けさせてやりますよ」
最後に男は『必ずね』と付け加えて携帯電話の通話を切った。
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