虫の知らせ
その日は、莎雪の十八歳の誕生日だった。
二学期が始まってすぐに行われた、数学の小テスト。
夏休みの課題から出題されるはずのそのテストは、意外なほど難しかった。
莎雪はもともと数学が得意な方ではなかったし、多少応用を利かせた問題ではあったけれど、今まで以上に計算途中の細かなミスが目立つ。
小テストでこんなに苦戦するのは初めてだった。
(ああ、もう時間なくなっちゃう……)
ちらりと時計を見れば、残り時間はあと僅か。
やっとの思いでたどり着いた最後の問題に取り掛かろうとした時、教室の後ろの引き戸が勢いよく開かれた。
「新堂。 新堂莎雪はいるか?」
入ってきたのは教頭先生だった。
威圧的な言動と、生徒指導に厳しく力を入れている所為で、ほとんどの生徒から敬遠されている先生だ。
静寂を遮った教頭先生は、いつもとは少し違った、なんだか落ち着かない様子で莎雪の姿を探していた。
「新堂、プリントを提出して」
「は……はい」
授業監督の先生に促され、莎雪は緊張感しつつ椅子から立ち上がった。
床に擦れた椅子の足が不協和音を奏でる。
「すぐに荷物を持って事務室に来なさい。緊急の電話が入っているから」
「はい……」
小テストのプリントを監督の先生に手渡し、莎雪は教頭先生に指示されるまま、鞄に私物を詰め、教室を後にした。
その一本の電話が莎雪の今後を大きく左右する事になるなど、この時の莎雪はまだ、知る由もなかった。