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<4・え、勇者倒したら終わりじゃないの?>

「たたたた、助けてええええええええ!」


 盗賊二人は慌てて逃げ出すが、そういうわけにはいかない。いやほんと、せっかく見つけた暇つぶし――じゃなかった、お仕事をここで奪われては困るのだ。


「〝Restraint〟!」


 エルが逃げる二人の背に向けて魔法をかける。大量の白い手が彼らに伸びていき、その体を拘束せんと動く。


「うわあああっ!?」

「トイ!?」


 盗賊の一人が足を掴まれ、もろに転倒した。もう一人はギリギリのところでジャンプして避ける。なるほど、反射神経はそれなり程度にはあるらしい。


「た、助けてくれええええっ!コンドルうううう!!」


 ずるずるずるずる、とエルの方に引きずられていく男――名前はトイ、というらしい。このままでは彼の顔面がミキサーになってしまう。ここで気絶されたら面白くないので、ひっくり返すようにエルに指示をする。


「面倒くさい!ていうか、弱いのにこんなところまで来ないでくださいよ!」


 エルはぷんぷん怒りながら、トイの体を仰向けにする。岩で刷られまくった男の体は、額も頬も鼻も擦りむいて真っ赤になっていた。あれは痛そうである。

 そして、既に目を回していた。あまりにもつまらない。


「く、くそお!」


 しかし、一人を捕まえたのが功を奏したらしい。もう一人、コンドルと呼ばれた男が剣を構えてこちらに向かってくる。

 嬉しいことだ。最近は剣を打ち合える相手もいなくて、本当の本当の本当に(以下略)退屈しまくっていたものだから!


「いらっしゃいませえええええええええええ!」


 ガロンは闇の剣に手をかけると、居合切りの要領で一気に振り上げた。てっきり、コンドルはその剣を受け止めるか、回避してくると思ったのである。

 ところがどっこい。この盗賊ども、メンタルもヘタレなら戦闘能力もヘタレだったらしい。


「え」


 ガロンが振り上げた剣は、男のロングソードの刃に当たり――さっさと弾き飛ばしてしまっていた。


「おい、ちゃんと剣くらい握っておけよ!何簡単に吹き飛ばされてんだよ!弱すぎるだろどうやってこんなところまで来たんだオマエ!?」


 ここは魔王の城下町手前の上級ダンジョンのはず。なんでこんな技量の人間がここまで来られたんだと思わず八つ当たり気味に叫んでしまう。

 するとコンドルは情けなく叫んだのだった。


「ぼ、ボスに守って貰ったんだもん!」

「もんとかいうな中年が!じゃあそのボスは強いんだな?さっさと呼んで来いよ!」

「このダンジョンの入口で魔物に襲われて死んじまったんだよおおお!」

「あああああああああもうA班手柄持ってくんじゃねえええええええええ!」


 思わず別動隊への恨みを喚くガロン。というか、A班のメンバーにあっさり殺される程度なら、結局そのボスも大したことはなかったのだろう。

 あまりにも許しがたい。コンドルは失禁しながら、這いずるようにして逃げていこうとする。その間、エルはトイに拘束プレイをして遊んでいた。――あっちもあっちで気の毒と思わなくもないが、ここでもう一人を逃がすわけにはいかない。

 だって暇つぶしができなくな――げふんげふん。


「逃げるな!な、もうちょっと遊んでいけ、俺と!いっぱい魔法と剣浴びせてやるから!ほら、〝Darkness〟!〝Chaos-Flare〟!〝暗黒剣!〟あ、召喚魔法も見せてやるぞ、えっとえっと……ダークバハムート!」

「うわあああああああああああああそんなのいらねえええええええええええええええええええええええええええええ!」


 力は、余り余っていた。

 ガロンは笑顔で魔法と剣術、ついでに召喚魔法を連打した。コンドルはきりもみになりながら何度も吹っ飛び――最終的には完全な消し炭になってしまったのだった。

 残酷と言いたければ言え。こんなに弱っちいのにこんなところまで来たこいつがいけない。なお、エルが相手にしていたトイという青年は最終的にゾンビとなって腐り果て、地面の土の一部になったようだ。


「なんだよ、つまんね……ん?」


 そして。久しぶりの『お客様』にテンション上がっていたガロンたちは、肝心なことに気付いていなかった。盗賊たちがやってきた通路の奥に、もう一人隠れていたということを。


「あ、わわわわわ」


 そいつはツンツンした黒髪に、銀色の大剣を背負った十六歳くらいの少年だった。そして、キラキラと輝く銀の鎧。あれは、とガロンは目を見開く。あの外見的特徴。そして、何より青い宝石のついた銀色の大剣――あれは勇者が女神に渡される聖剣だったはず。

 ということは、つまり。


「おい、チョットマテ、勇者!」


 なんと、このタイミングで勇者まで自分たちのところに来てくれたのだ。あいつを倒せば、自分達のこのブラックすぎる任務も終わる(はず)というもの。ガロンは喜び勇んで勇者に声をかけるが。


「俺たちと戦……」

「ぎゃああああああああああああああああああああああああ!怖いよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「え、ええええええええええええええええええ!?」


 なんと、勇者は盗賊たちがズタボロになって死んでいくのを見てびびってしまったらしい。そのまま絶叫して、洞窟の奥へ逃げ帰ってしまった。


「うっそだろ!?ちょ、まてよ、ここまで来たんだから俺達と戦っ……うっそ待って!?いや待ってください、ねえ!?」


 まさか、ここに来て勇者を取り逃がすとは。ていうか、世界を救う使命を帯びているはずなのにあのびびりっぷりは一体何なのか。


「うっそだろ……?」

「え、えええ……?」


 ガロンとエルは、茫然と勇者が消えた奥の道を見つめる他なかったのだった。




 ***




 せっかく、勇者と戦えると思ったのに。

 そしてこのクソつまらない任務が終わって、洞窟の外に出られると思ったのに。


「……はああああ……」


 小屋の中に戻ったガロンとエルは、向かい合って座り――深々とため息をついたのだった。


「敗因は、なんですかね……」


 エルは遠い目をして言う。


「やっぱりあれですかね。ゾンビ化させて、全身引きちぎって大地の養分にしちゃったのが間違いだったでしょうか……」

「やりすぎたな」

「それはガロンさんもですよね?いくらテンション上がったからってバハムートまで呼ぶ必要ありました?消し炭になった後も踏みつけてましたよね?」

「……やりすぎたな」


 久しぶりに戦えると思ったのに、相手がザコすぎたのがいけなかったんだよ、とヤケクソ気味に思う。ああ、まさか勇者をびびらしてしまうほどだったとは。

 だが、あの勇者もけして強いようには見えなかった。前のダンジョン、一体どうやって突破してきたんだろうか。彼にも強い味方がいたとか、秘密の通路があったとか、なんか特別な能力があってショートカットしてきたとかそういうことだったのだろうか。


「まあ、あの勇者弱そうだったしな」


 ペットボトルのお茶を開けながら言うガロン。残念ながら、この小屋の中では飲酒喫煙も許可されていない。


「あんなヘタレじゃ、洞窟から脱出もできんだろ。A班やB班の奴らにブチ殺されておしまいだ、きっと」

「まあ、僕等が倒さなくても、ミッション完了にはなりますよね。そしたら、この洞窟おヒキコモリもおしまいになるはずです」

「そうだな。……まあ、この任務が終わっても、魔王軍の仕事続けるかはわかんねーけど」

「……以下同文です」


 いやほんと、こんなにパワハラ横行しているとは思ってもみなかった。これはもう、この任務が終わり次第転職した方がいいかもしれない。

 給料良いし、魔王様の力になれるいい仕事だと思ったんだけどなあ、とガロンは遠い目をしたくなる。

 その時だった。


 るるるるるるるるるる!


 部屋に備え付けられた内線電話が音を立てる。この電話は、同じ魔王軍の仲間と魔王城の総司令部としか繋がらないようになっている。しかも、任務と関係ない電話をしたら減俸だときつくきつく言い渡されているのだ。

 どういうことかといえば。これが鳴るタイミングは、非常に限られているというわけで。


「ま、まさか……」


 ガロンは慌てて電話に飛びついた。聞こえてきたのは、上司であるチョーの声だ。このタイミングでの電話ということは、まさか。


『あ、元気にお仕事しとるか、ガロンにエル』

「ま、まあなんとか……」


 その言葉に、うっすら殺意を覚える。元気にお仕事させたいならもう少し待遇をなんとかしろと言いたいのを、ぐっとこらえるガロン。


『そんでな、今連絡入ったんやけど』


 そんなガロンをよそに、話を始めるチョー。


『今、B班から連絡入ってな。勇者が死んだらしいねん』

「え?」

『せやから、勇者が死んだんやって。B班がなんかする前に、洞窟のトラップに引っ掛かって溶岩の海に落ちとったらしいねねん。まあ、あれは即死やろなー』

「なんと!」


 ガロンは慌ててエルを振り返る。勇者が死んだらしいぞ、と告げるとエルも理解してか目を輝かせた。

 ならば、自分達の仕事も!


「だ、だったらもう俺達お役御免ですよね!ここで撤収してもいいっすよね、ね、ね?洞窟の結界解いてくれるように魔王様に言って……」

『は?終わってへんに決まっとるやん』

「……エ?」


 喜んだこちらに対し、チョーは「何言ってんのこいつ?」と言わんばかりの冷たい声を向けてくる。


『勇者はいっぺん死んだだけや。ゲームオーバーになったらすぐコンテニューされるに決まっとるやろ?セーブしたところからやり直して、もっかいそのうち挑んでくるに決まってるやん。あいつが諦めて投げ捨てるまで、なんべんだって倒さなあかん。何言ってんの、自分ら』


 いや、その。


――ちょ、ちょっと何言ってるのかわからないんですけど?


 ゲームオーバーになったらコンテニュー?よくわからんがそれってもしや。


「勇者、復活……するんです?」

『するで。なんや知らんかったんか?あいつら、女神様の加護があるねん』


 茫然とするガロンに、そういうわけで、とチョーは無慈悲に言う。


『あんさんらも気張ってなー。勇者がそこに来たらきっちりぷちっと殺したってな?報告はそれだけや、ほなな!』


 あっさり切られる通話。ガロンはしばしフリーズする他なかった。


「……ドユコト?」


 わかっているのは一つだけ。

 自分達の絶望的すぎるミッションは、まだまだ当分終わらないということである。


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