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第7話:この先揺れますので、おつかまりください。



「猿ッ! とにかく急いでくれッ!!」


「わかってるってば! だからこうして走ってんでしょうに!!」


 悲鳴が響いた後、ウチらはメッタン先導のもと『王の間』へと向かった。

 メタルの天井、メタルの壁、メタルの道。鋼色で埋め尽くされた空間に赤く厳かなカーペットが長くどこまでも続いていた。たぶん、王様という里で一番偉い存在が通る道だからだろう。

 ……でも、コンパクトな城の外観に対してこの廊下はあまりにもありえなくない? こんな奥行きあったっけ?


「ねぇ〜、メッタンさ〜。この道いつまで続くの〜?」


「————」


 ウチらの先をぴょんぴょんぴょんぴょんと凄まじいスピードで器用に飛び跳ねていくメッタンの返事がない。……が、なにやらブツブツと呪文のように独り言を繰り返し唱えていた。


「ワガアルジモウシワケアリマセン、ワガアルジモウシワケアリマセン、ワガアルジ……」


「……お〜い、メッタン? どした? だいじょうぶ?」


 速度を上げてメッタンの横に並ぶ。上の甲冑はメタルスライムにまたがるだけで表情も何もあるわけではない。が、下のスライムは自分の主人の安全をひたすら案じているのか、いまにも泣き出しそうなほどだった。

 こういうときどんな言葉をかけるのが正解なのだろう。気の利いた言葉なんて到底見つからない。まだまだ子どもだな、ウチも。でも————。


「そんな心配しなくとも大丈夫だよ。これは直感だけど……王様は無事だし、どんな奴がいてもウチとプイプイがやっつけちゃうからさ。だからそんな思い詰めなくていいよ。ピースピース!!」


「ヒカリ殿……」


「おぅい! ワタシを頭数に入れるな! ワタシは非戦闘員だ!」


「はいはい、わかったわかった。そうでちゅね〜」


 あまりにも単純であからさまな気休め。とはいえ、今のウチにはこんな言葉しか見つからなかった。あとは一刻も早く王様の元に辿り着ければいいのだけど————。


「ねぇメッタン、王様のところまであとどれくらい?」


「そうですね……あと100キロメートルくらいでしょうか」


「は???」


 んー? いま100キロって言った? 待って待って。一回さ、落ち着こうか。走りながらだけど深呼吸して……スーッ、ハーッ。……っていうかこの世界、メートル法だったのか。

 いやいやいや。待て待て待て。そうじゃないな。ちょっと待って、もう一回空気吸わせて。スゥーッ(たっぷり吸う音)。



「はやく言えやゴラァァァァァッッッッッ!!!!!」



 ゴラァァァァァ、ゴラァァァ、ゴラァ…………とウチの声が謎に木霊する。山か谷かなここは。

 ウチの声量が大きすぎたのか、はたまた鬼の形相だったのかはわからない。とにかくメッタンの下のスライムは怯えた表情でガクブルし、上の甲冑はガタガタと音を鳴らせて震え上がっている。そんな中プイプイは……あれ、白目むいてる? え、やば。


「ごめんごめん、ビックリさせちゃったね。でもさ、王の間へ行く手段ってこうやって地道に走って行くしかないわけ? 近道とかワープとか、そういうショートカットする方法はひとつくらいあったりするんじゃないの? だって……あまりにも遠くて不便っしょ」


 純粋な疑問をメッタンに投げかけてみると、下のスライムは怯えた表情からこわばった笑顔になりながら、上の甲冑は身体全体を振るわせながら答えてくれた。おい、そんなにウチが怖いか。


「こ、この道は王の間へ続く唯一の道となっていまして、特別な近道や隠し通路のようなものは残念ながら……。ひたすらに長い廊下を空間魔法で作っているのも侵入者の精神を狂わせて断念させるため……と我が主から聞いたことがあります。とはいえ、今回その設計は間違っていたということが証明されてしまいましたが……」

 

 ……。意外とエグい設計思想だし、不便極まりないなこの城の内部。あ、ちょっと待って。いま、魔法でこのクソ長い道ができてるって言ったよね?


「魔法でこの廊下ができてるってことはさ、魔法を解くこともできるってことだよね?」


「魔法の原理から言えばそうなります。ただ、この空間魔法は展開した術者でないと解けない特別な仕組みが施されているそうでして、私の方でもどうすることもできず……」


「そっか……」


「かつて()()()使()()とまで呼ばれた我が主の力が裏目に出てしまいました。面目ありません」


「ううん、謝らないで。メッタンは悪くないよ。……とはいえなぁ、どうしたもんかなぁ。このまま走るのもアレだし……。ねぇ、プイプ……。そうだ、気絶してるんだった」


 うーむ。困った。非常に困った。このまま走り続けるのもしんどいし、何よりもダルい。もっとこう何かないのかな。一瞬でパッとどこにでもたどり着けるドアみたいな魔法。

 アドバイザーな小悪魔はこんな時に白目むいてるし……。こういう困ったときのお助け有識者はいないものかね。……ん? いたわ。全ての元凶。


「……ヒカリ殿? 一体、何を?」


「ふふん、ちょっと待っててね」


 ウチは走りながらスカートのポケットにしまったままのスマートフォンを取り出してみせ、すぐにある存在へ電話をかけた。



 ————プルルルル、プルルルル。



『おお、娘か。早速かけてきおったな。どうした、何かあったか?』


「どうしたもこうしたもなぁぁぁぁい!! めっっっちゃ困ってんの!!」


 かくかくしかじか。事の顛末と現状をざっくばらんに魔王ことデモンズのオッチャンに伝えると思いも寄らない返答がきた。


『おお、メタルスライムキングの王の間へ続く廊下か……。そこの魔法はワシでも解除するのが難しくてな。いや、解除できないことはないのだが世界が滅びかねん。解除という選択肢は現実的ではないのう』


「えー、じゃあさ。ワープとかないわけ? こう、ビューンッて一瞬で到着できそうなやつ!」


『ふむ、転移魔法だな。それなら娘でもできるぞ』


「ホント⁉︎ どうやってやるの⁉︎ コツは⁉︎」


『ただ、アレだのう。目的地の光景や目的の存在が明確にイメージできんと、どこに飛ばされるかわからんのじゃ。ちと今の娘の状況とは相性が悪いのう』


 ウチ自身が『王の間』の景色も王様の姿もわからず、ましてや刻一刻を争う現状だと転移魔法とかいうワープの選択肢はギャンブルか。

 はぁ……やっぱりそんな都合よくいくわけないよね。たださ、あと100キロだよ? 考えてもみようよ。走って行くにはさすがに無理があるってば。


「じゃあ……マラソンランナーもビックリの100キロを完走せにゃならんってこと? それで王様の救出間に合う?」


『ふむ。もっと単純に考えてみてもよかろう。もしもその脚が天翔けるユニコーンの足だったなら、あるいは雷の如く光の速さの脚力があったのなら……と想像してみたらどうじゃ?』


「……えっと、つまり???」


『魔力を娘の脚に込めるのじゃ。今よりもっと速く走れたなら、一瞬で100キロを走破できる速さがこの脚にあったなら……そういう想像力と意識を娘の脚に集中させてみせい。想像ができるのならそれは実現可能ということじゃ』


 オッチャンの言葉がなぜだかスッと染み渡る。……そうだ。得体の知れない魔法を組み立てるまでもない。この両脚がとんでもない脚力を発揮したら……って想像してみればいいんだ。

 それならさっきのお姉さんへのビンタと同じだ。この手にわずかの魔力を込められたように、回転する両脚に意識を向けて魔力を集中させてみる。じんわりと脚に熱を感じる。温かい。

 そして、わかる。このままアクセルを踏むように、ギアを入れるように踏み出せば……ウチの身体はバケモノみたいな速さで駆けていく。よし、いける。なんとかなる。


『ほほう。もう大丈夫そうじゃの。娘の呼吸でわかるわい』


「うん! たぶん大丈夫! あんがと!」


『引き続き頼んだぞい。あ、それとじゃな。プイプイによろしく言っといてくれ』


「おっけー! 頭の上で気絶してるから後で言っとくよー! じゃあねー!」



 ————ツーツーツー。



 ウチとオッチャンの軽快なやり取りが余程気になったのか、メッタンが不思議そうに声をかけてきた。下のスライムがぴょこぴょこ跳ねながらもキョトンとした眼差しでウチを見ている。


「ヒカリ殿、いまどなたとお話を? ものすごく親しげなご様子でしたが」


「ああ、うん。デモンズのオッチャンだよ。魔族のみんなのボスだからわかるよね?」


「なるほど。デモンズ様でしたか……って、ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ⁉︎⁉︎」


 驚きを体現……というか、歩くビックリもしくは走るビックリみたいになっているメッタン。そんなにオッチャンと通話するのが珍しいことなのだろうか。まあ、この反応から察するにきっと希少性のあることなのだろう。……って、そんなこと今はどうでもいい。

 今は『王の間』へ、王様の元へとたどり着かなきゃ。


「よ〜し、じゃあちょっとひとっ走りするよ〜」


「え、え、ヒカリ殿⁉︎」


「だいじょ〜ぶ、だいじょ〜ぶ。振り落とされないようにね!」


「いいい、一体何を⁉︎」


 ウチがメッタンの甲冑の首元をつかむと、甲冑は下のメタルスライムを抱える様な姿勢をとった。あくまでもどんな時もニコイチか。うんうん。仲が良くてよろしい。……さてと!!!


「それでは特急ヒカリ号、王の間へと発車いたします。この先揺れますので、ご乗車のお客様はお近くの手すりにおつかまりください。……なんちって!!! そんじゃいっくねー!!」


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 メタルな空間でどこまでも続いていそうな紅の道の上を、ウチらは稲妻の如く(たぶん)光の速さで駆け抜けた。


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