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魔王に召喚されたギャル、討伐をやめてもらうため王都へ向かう  作者: 竹道琢人(たけみちたくと)


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第35話:静寂に響くデモンズライン


「ふぅ〜、温泉気持ちよかった〜」


 アルフェ姉さんに案内された工房地下の寝室。

 やや大きなベッドに仰向けで寝転がると、彼女の香りが鼻をくすぐった。

 もしかしたらここは彼女が普段使っている部屋なのかもしれない。

 シンプルにベッドだけが配置された空間。休息を取るためだけの部屋。

 ぶっきらぼうな部屋ではあるものの、肌に触れる寝具の柔らかさやベッドの寝心地は抜群によかった。それはまるで、着飾ることなく本質を追求する職人の彼女そのものみたいで何だか急に愛おしく思えた。

 ……新たな推しのシゴデキお姉さんと裸の付き合い。冷静に考えれば爆発してもおかしくない悶絶イベントを体験したわけだが、温泉で彼女が放った一言はウチを現実に引き戻していた。


『——————王都で幽閉されてんだ』


 彼女の唯一の肉親である弟のオルフェさん。最愛と言える存在が王都の人間に攫われ、もうかれこれ100年以上も地下で加工魔石の製造を強要されているらしい。

 魔石の乱獲とオルフェさんによる加工魔石の製造。このふたつが両輪となることで王国は一気に繁栄し、人口は増加。青天井で軍事力も拡大を続けているのだという。

 オルフェさんを人質に取った王都側は、アルフェさんに魔族討伐用の武具生産を命令。対価が発生するものの、それはスズメの涙ほど。人間と魔族のハーフゆえに人間と似たような暮らしをするアルフェさんには酷な話だ。

 王都の非道はこれだけに収まらない。仮にアルフェさんが王都の要求にノーで答えた場合、それはそのままオルフェさんへの酷い罰や仕打ちとして降りかかるというのだ。

 これは、もはや奴隷契約。『対等など有り得ない』『王都に一生服従しろ』というあちら側の意図が透けて見えてしまう。当然、アルフェさんは反抗しようがない。


『王国の人間はオレにとっての食い扶持(ぶち)』『王都はクライアントだ』


 ……と、彼女は当初、割り切った様に言っていた。

 だが、それはあくまで表向きの話。腹の底では強い怒りや憎しみが燻っている。

 王都の人間だけでなく、事態を収束させない魔族……つまりはオッチャンにも。


「……そりゃあフラストレーションたまるよねぇ」


 口から溢れた言葉が天井に向かって小さく響き、静かに消えていく。

 誰にも何にも頼れず王都の無茶な要求に応えながらも、せめてもの抵抗として信頼できる魔族へ密かに武器を卸す日々。

 弟の帰還をただ願い続ける彼女の日常と心情を想像するほどに、瞳に溜まった雫は頬を伝い枕を湿らせていった。


「ウチ、ホントに帰れるのかなぁ……」


 この世界の人間と魔族のあまりにも深い溝。

 これをただの女子高生ごときが埋められるものだろうかと、珍しく弱い自分が顔を覗かせる。

 だが、埋めないことには帰れない。

 相反する自分の思考が衝突を繰り返すとき、パジャマの胸ポケットから硬質の物体が落ちた。スマホだった。


「いっけね。充電充電……って、しなくても大丈夫なんだっけ」


 オッチャンの気まぐれによって半永久的な動力を得たらしいウチのスマホ。

 タップすると、何ら変わった様子もなくいつも通りのロック画面が表示された。

 パパ、ママ、ウチ、弟に妹。……今はすっかり遠くなった家族の笑顔が端末の中に浮かぶ。


「みんな心配してるよなぁ……早く、早く帰らないと」


 かけがえのない家族が手の中で笑顔を見せるうち、顔認証によってロックが外れた。

 ホーム画面で一際輝く『デモンズアプリ』の数々。デモンズショップもデモンズペイも開いたことすらないが、ひとつだけ使ったものがある。オッチャンとの通話機能を搭載したデモンズラインだ。


「メタルスライムの城の中でも通じたわけだし、ここからでも繋がる……よね?」


 これだけ過酷な『おつかい』を押しつけられているのだ。

 いたいけな女子高生の心細さや弱音を聞いてケアする義務くらいオッチャンにはあるだろう。……いや、絶対ある。ないとおかしい。


「こうなったら……深夜の愚痴吐き大会じゃ!」



 ——————ツテテ、ツテテ、ツテテ、ツテテ、トゥルリン♪



 スピーカーから流れるコール音がいつまでも響く。

 深夜だから眠っているのか、あるいは何か別の用事にあたっているのだろうか。



 ——————ツテテ、ツテテ、ツテテ、ツテテ、トゥルリン♪



 一向に出る気配がない。前回は割とすぐに出たはずなのに。



 ——————ツテテ、ツテテ、ツテテ、ツテテ、トゥルリン♪


 ——————ツテテ、ツテテ、ツテテ、ツテテ、トゥルリン♪


 ——————ツテテ、ツテテ、ツテテ、ツテテ、トゥルリン♪



「あれ……オッチャン……なんで……でないの……。ウチ、もう……ねむく……」


 単調なコール音だけが不気味に響く中、瞼は重くなっていく。

 次第に遠くなる意識。もうこの瞼を開き続けるのは無理かもしれない。


「オッチャン……ごめん……ねちゃう……かも……」

 

 まるで遠慮のない睡魔が容赦なく襲いかかる。

 抵抗する(すべ)を持ち合わせないウチは、ただ身を任せることしかできなかった。

 どこまでも深い眠りの海へと堕ちていく感覚。


 ああ、悔しい。


 悔しいけれど、今はこの睡魔の誘惑に乗ってしまう他にない。



 例え、この胸に—————————得体の知れないざわめきがあったとしても。



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