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魔王に召喚されたギャル、討伐をやめてもらうため王都へ向かう  作者: 竹道琢人(たけみちたくと)


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第28.5話:紅髪のスカーレット(後編)


 到達した光の先、洞窟の深部に信じられない銀世界が広がった。

 メタル一色の家屋、道路、公園と思しきスペース、それから……奥に見える荘厳な城。

 スケールこそ人間の半分から3分の1程度にやや小ぶりだが、目の前に広がる光景は完全に人間の『街』のデザインだった。


「魔族が人間の模倣をしている……?」


 多くの魔族は自然と共存しながら独自の住環境を形成するのが定説だ。それは任務をこなす中でこの眼でも確認してきた。だが、それがなぜこんな人間の真似事を……。

 これまでの常識を超えた不可思議な『街』を歩くと、またも異様な光景を目にした。

 メタルの建築物の所々に大規模な破損が見られるのだ。大半は巨大な何かで叩き壊した様な跡。……ということは、ゴンザブロウ一派が好き放題に暴れ回ったと見るのが正解か。

 それから血痕が街中のあらゆる場所に染み付いている。この色は恐らく魔族のものだ。血だらけの街中と言っても差し支えない凄惨な光景。その何度見ても慣れることはない光景に頭が痛くなった。


「……また虐殺か。やり方を改めろと私はあれほど……」


 繰り返される殺戮と強奪。彼ら魔族から奪い取り続ければ、いつか手痛い仕返しを喰らうぞ……と、異論を唱え続けるものの女の私の意見は聞く耳すら持たれないのが実状だ。


「王国の根本を変えるしかない……のか」


 嘆きながら目も当てられない惨状の街中を歩く。やはりどこにも生気を感じない。生き残った魔族も、ゴンザブロウ一派の気配も感じられない。メタルスライムは集団で移動、一派は全滅……ということだろうか。


「おい、誰かいないかッ⁉︎ 私はドンハルト王国騎士団2番隊隊長のスカーレットだ。誰かいたら返事をしてくれ」


 静まり返る街中で私の声だけが響く。繰り返し何度か呼びかけたものの、結果は同じだった。

 そうこうしているうち、街で一際存在感のある『城』にたどり着いた。『城』があるということは『王』のような中心的あるいは象徴的な存在がいたのかもしれない。

 城の入り口へ続くと思われる長い階段を上り、開放されたままの重厚な門をくぐった。


「これは……」


 激しい戦闘の名残。玄関ロビーと思しきメタルの空間は傷だらけだった。柱は折れ、壁は凹み、床は抉られ、街中と似たような光景が広がった。

 だがしかし、ひとつだけ異様な存在感を放つモノがそこにはあった。


「……槍か」


 鋼の床に突き刺さった一本の槍。確か資料には槍を使う僧侶の存在が記されていた。つまり、ゴンザブロウ一派はここまでたどり着いたということになる。……が、肝心な本人たちの姿がない。

 仮に戦闘で敗北したにせよ、亡骸のひとつも見当たらないのは(いささ)か変だ。違和感を覚えた私はひとまずロビーのさらに奥、城の中枢と思われる部分へ歩みを進めた。

 奥へ続く扉もやはり開け放されたまま。扉の向こうには赤いカーペットが敷いてあるだけで、ロビーとさほど変わらないメタルな廊下が数メートル続くだけだった。


「この品性のカケラもないやり方……やはりヤツだな」


 廊下の先で待ち構えていた重厚で厳かな門。その門に冠と髭が足された様なスライムのシルエットが彫られている。恐らくはメタルスライムたちを束ねる者の部屋だったのだろう。その高貴で風格漂う部屋の門が……徹底的に破壊されている。

 直径も質量もケタ違いのヤツの専用武器、『破壊の棘鉄球(モーニング・スター)』によって。

 それは即ち、ゴンザブロウがここに到達した証だ。この場所で音信が途絶えたとしたら、何かしらの手がかりが残されているかもしれない。

 私はもはや門とは呼べない仕切りの隙間をくぐり、その部屋へ進入した。


 同時に、(にわか)には信じ難い光景が視界へ飛び込んだ。


「まさか……本当にヤツが墜ちたというのか?」


 何の音も、熱も、気配もない、ただ激闘が繰り広げられたことだけが伝わる厳かなメタルの空間。

 その中央に、主人を失くしたひとつの武器が遺されていた。

 そう、戦闘狂とも言えるヤツの……5番隊隊長ゴンザブロウの『破壊の棘鉄球』が。


「……間違いない。これはヤツの得物だ」


 私は鉄球に近づきながら、その周囲を注意深く歩いた。

 鉄球はその重さと落下時の衝撃からか、鋼の床でも平気にめり込むように佇んでいる。

 そして、床に飛び散った赤い血痕。赤色(せきしょく)ということは人間のものだが、どうも様子がおかしい。

 血液は通常、時間が経つと空気中の酸素と反応して赤黒く変色する。それなのにこの飛び散った血液は鮮やかな赤色のまま。ハルト王の書面が届いてからは、少なくとも24時間以上が経過しているはずだ。


「……妙だな」


 不審な血液を訝しく思った私は、棘鉄球を動かすことにした。

 もしもヤツが下敷きにでもなっていれば、この()が見るに堪えない肉片を捉えるだろう。

 しかし、そこに何もなかった場合——————。


「……クッ、やはり重いな。だが……ッ!!!」

 

 鋭い棘に気を配りながら、私は渾身の力で鉄球を投げ飛ばした。

 静まり返った空間に響く豪快な衝撃音。その鈍く重い音が棘鉄球の威力を物語るようだった。

 ……と、そんな悠長なことを語る場合ではなかった。


 この空間の中央、つまりは先まで棘鉄球が沈んでいた場所。そこに……ヤツの姿はなかった。


 姿も、むくろも、肉片さえも残っていない。

 その事実が指し示すのは、ひとつの大きな可能性。それは——————。


「——————ヤツが生きている、だと?」


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