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魔王に召喚されたギャル、討伐をやめてもらうため王都へ向かう  作者: 竹道琢人(たけみちたくと)


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第27話:救済の雷


 無数の雷槍が巨人を地表に繋ぎ止め、その身体を灼熱の炎で焦がしていく。


 もう、動ける余地はなかったはずなのに。

 もう、戦わなくて良かったはずなのに。

 もう、彼らが涙を流す必要はなかったはずなのに。


 火炎に包まれた巨大な背中は、それでもなお戦うことを止めようとしなかった。


 ————————ア゛ァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!!!!!!


 耳をつんざく雄叫びが響き渡った後、ウチは自分の眼を疑った。

 いや、目の前の光景を信じたくなかった。

 巨人の頭部が、ゴロウの顔が…………180度回転したのだから。

 業火の中でも紅く妖しく輝く瞳。人間を目の敵にした憎悪の瞳がこちらを見ている。

 それだけではない。ガガガギギギ……と不穏な音を立てると、巨人の顔の口元が左右に開き始めた。何かが中から顔を覗かせる。あれは……砲門だ。殺意を伴った発射口がウチらに向けられている。


「ウソでしょ……まだ戦うっていうの……?」


 口元に黒く濁った禍々しい光が集束されていく。それはどこか大気中の魔力を強制的にチャージしているようにも見えた。

 怯えた大気を感じ取ったウチの身体が震えている。そして直感が報せる。あの黒い光を発射させてはいけない、と。

 巨人が焼け崩れるのが先か、あるいはあの光が発射されるのが先か。追加で魔法を喰らわせるとしたら『核』が破壊されはしないか。


 ——————そもそも本当に『核』はあるのか?


 眼前で肥大する恐怖に脳がエラーを起こす。まともな判断ができず、挙げ句の果てに仲間の仮説と自分の作戦を疑い始めるという始末。……ああダメだ、こりゃ。足だけでなく頭まですくんでいる。

 それでも冷静でいようと自らの頬を叩くとき、黒い光がわずかに揺らいだ。マズい。マズいマズいマズい。これは発射の……。……え?


「バカヤロウッッッ! ゴロウッ! お前、そろそろ目ェ覚ませッッ!!!」


 ウチの胸元から頭上高くまでプイプイが飛び出した。

 羽ばたきながら殴りつけるように巨人へ言葉を浴びせていく。


「お前ほどの魔族がなんで人間に好き勝手やらせてるんだ! そんな無様な姿とやり方で好き放題暴れやがって……。それでもお前は格式高いタイタンの親衛隊長なのか!? 恥を知れ、恥をッッ!!!」


 巨人の黒い光は依然と集束をやめない。……が、発射間際の揺らぎは収まったように見えた。

 プイプイの言葉が届いているのかもしれない。もっとも、希望的観測に過ぎないのだけど。


「だいたいお前は昔からトロくてノロくてモタモタモタモタ……。脇が甘くて隙が多いからそうやって人間につけ込まれるんじゃないのか。それに偉くなったことを口実にどうせまともに訓練しなかったんだろ!? このサボり魔めッ!!!」


『それは流石にディスでは?』と言いかけたが、ウチは口を閉じた。ここで水をさすのは野暮ってものだから。


「でもな……。ワタシはそんなお前が好きだった。寡黙で口下手で気の利いた言葉のひとつも言えないが、身体を張って仲間を守ろうとするお前が好きだったんだ。ワタシたちの村を守ろうとしたあの時も、ダークエルフの救助に向かったあの時も、ゴブリンの集落に駆けつけたあの時も……」


 プイプイらしい言葉の数々。涙声が混じり始めたのは、きっと彼が本心で語っているから。

 その熱が、その愛が、わずかに残る巨人の自我へ届いているとウチは信じたくなってしまう。


「……だからさ、きっとお前が一番悔しかったよな。守りたい仲間が、憧れの存在が、自分自身が犯されて奪われていくんだもんな。……ごめん。……ごめんな、ゴロウ。ワタシたちがもっと早く気付いて救援に向かえていたら、お前はこんなことにならずに……」

 

 恐らくずっと堪えていた感情(なみだ)が溢れ出したプイプイ。

 きっと顔をグシャグシャにしながら言葉を紡いでいるのだろう。

 ひたむきなその後ろ姿に声援を送ってしまいたくなるのは、仕方のないことだと思う。


「ゴロウ……ワタシと一緒にデモンズ様の元へ帰ろうッ! デモンズ様ならきっと喜んで迎えてくださるッ! まずは身体をゆっくり休めてさ、それから今日の償いを始めたって……え?」


 ——————ア゛ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!!


 プイプイの言葉が最後まで紡がれぬまま、巨人は雄叫びを上げ口元の光を揺らした。

 最悪のタイミングで最凶の攻撃が、来る。

 それはつまりゴロウの手でプイプイを葬ってしまう、ということ。

 親友が親友を殺める悲劇を生んでしまう、ということ。

 憎しみの連鎖が繰り返される、ということ。


 ……そんなの、ダメだ。止めなきゃ。ウチが……止めなきゃ!!


「ゼッタイやらせないッ!! ウチが二人とも救ってみせるッ!!!」


 イメージは単純。巨人を貫く雷槍の再現。

 そしてあの禍々しい光の阻止と、彼の(コア)の解放を。

 傷つけるためではなく、救うための奇跡をここに。

 悲しみの連鎖を断つ(いかずち)、いや……救済の雷をいまここにッ!!!


「すぐ来い、いま来い、ただちに来ぉぉぉぉぉぉいッ!!!!」


 かざした右手の延長線上、つまり巨人の上空に魔法陣が出現。

 これまでに類を見ない速度で空に広がり、間髪入れず見覚えのある形状を生成していく。

 この間、わずか数秒。バチバチと鳴りながら、巨大な蒼い稲妻が巨人へ落下した。


 ——————バリバリバリッ、ドゴォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!


 轟く雷鳴、空を裂く雷、地に響く衝撃。そのどれもが規格外。

 圧倒的な規模と速さで生成された雷槍は、巨人の脳天から地表を容易く貫いた。

 禍々しいあの光は当然に消滅。巨人の紅い瞳は輝きを失くし、完全に停止した様子。

 ウチとプイプイは無事。周囲に光が発射された形跡はナシ。どうやら最悪の事態は回避できたらしい。

 灼かれる巨体の中心で青白く輝き続ける一閃の稲妻。あまりにも(むご)い光景であるにも関わらず、見惚れる自分に気付くまでそう時間はかからなかった。


「……ゴロウ」


 焼け剥がれていく巨人の装甲(からだ)。朽ちていく彼を見上げながら、プイプイはかつての友の名をこぼす。

 ウチは肩を落とす小悪魔にそっと歩み寄り、かける言葉を探した。


「ごめん。ウチ、啖呵きっておきながら……」


「……いや、オマエは本当によくやってくれた。あのまま何もしなければワタシたちがやられていただろう。だが……こんなことってないよな、あんまりだよな。ゴロウが人間に何をしたって言うんだ。アイツはただ仲間を守りたかっただけなのに……」


 再び涙声が混じる。その涙は悔し涙か、はたまた悲しみの涙か。……違う。どちらかではない。そのどちらもだと気付いて言葉を探したが、やはり気の利いた言葉のひとつも見つからなかった。


 ……。


 沈黙。ウチらの間で言葉は続かず、巨体の焼け崩れる音だけが響いた。



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