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魔王に召喚されたギャル、討伐をやめてもらうため王都へ向かう  作者: 竹道琢人(たけみちたくと)


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第21話:あの夏のあずきのアイスバー


「カッチコチの……アレ?」


 不思議そうにプイプイが頭上から覗き込む。まあ、わからないのも無理はない。

 だって、この世界にはきっと存在しないものだから。……でも、待てよ。ポトフもカンパーニュもある世界で絶対にないとは言い切れな……いや、ないな。ないない。絶対ない。


「まあ、見てればわかるって。それよりしっかり捕まっててよ。まずはアイツの頭までひとっ飛びしないといけないんだから」


 メッタンは『召喚者の無力化』の選択肢も提示してくれたものの、あの召喚騎士は巨人のずっと後方にいる。それをピンポイントで狙えば恐らくただちに巨人のカウンターがあるだろうし、接近して無力化するにしても巨人に背後を取られかねない。

 いずれにせよ巨人と接触するリスクがある以上、まず最初に巨人を無力化した方がきっと安全だ。

 そして最後に重要なのはタイミング。観察して気付いたのは、巨人による銃弾の雨は必ずどこかで一瞬止む。弾の装填時か、あるいは射線軸が変わるとき。ともかく一瞬だけ止まる。その瞬間がウチの反撃チャンスだ。

 特に……そう。メッタンが急に旋回して銃口の向きを変えざる得ない……今みたいな時ッ!!


「プイプイ、走るよッ!!!!」


「ちょ、待っ……おわぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」


 クラウチングスタートの最初の一歩の如く。

 足先に全身の魔力を集中させて……踏み込むッッッ!!!

 草原を吹き抜ける風のように。

 闇を駆ける一筋の閃光のように。

 一瞬で巨人の足元へ間合いを詰める。


「次ィ!! 頭ァ!!」


 跳躍。バネのように膝を曲げ、伸ばし、20メートル級の高さへ飛ぶ。

 同時に頭の中のイメージを魔力で具現化していく。

 

 あの死ぬほど暑かった夏の日。

 ばあちゃんが出してくれたロングセラーのあの氷菓。

 キンキンでカチンコチンのあの氷菓。

 当てればテーブルが傷つくほどの凍てつく鈍器。

 冷凍庫から出したての歯が折れそうなあの強度。

 砂糖、水あめ、塩、小豆しか使わないからこその強度を。

 いまここに再現する——————。



 ——————あの夏のあずきのアイスバー。



「ゴーレム、ごめんね! ちょっと痛いかも!!!」


「おいおいおいおい、おまおまおまっ……なんじゃあこりゃァァァァァァァァァ⁉︎」


 巨人の約半分ほどの大きさで再現した巨大なあずきのアイスバー。

 木製の棒だって両腕で抱えるほどデカい。これをハンマーの如く頭部へ振り下ろす。

 召喚されたとはいえ、相手は魔族。本当ならこんな乱暴なことはしたくない。

 でも、今はやらなくちゃ。やらなければこの子は悲痛な叫びを上げ続けてしまう。そしてウチらは進めない。だから、やらなくちゃ。この子の暴力を止めなくちゃ。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」


 巨人の紅い瞳と視線が交わる。

 瞳の雫が悲哀に染まったものだと感じた頃には、巨大な小豆色の氷菓は脳天に達していた。

 禍々しいその仮面を垂直にぶっ叩く。



 ——————バキィィィィィィィィィィィィィィンバリバリバリバリッッッ!!!!



 巨人の仮面と氷菓(に寄せて再現した魔法)の二つの物質が衝突する。

 特撮映画でも観ているような、巨大で密度の高いもの同士のぶつかり合い。

 衝撃、振動、風圧、反響、当たり前にそのどれもが体験したことのないスケールのものだった。そもそもの身体能力強化がなければ、きっとウチは反動でボロボロになっていたかもしれない。ちっこいあのオッチャンにはホント感謝だ。

 とはいえ、反動によるビリビリ感が皆無ではない。ある程度のジーンとした痺れを両腕に覚えながら着地したとき、巨人を見上げたプイプイが言った。


「……止まったか⁉︎」


 頭部に衝撃を受けた影響か、何の躊躇もなく無数の弾丸を放っていた巨人は停止。

 亀裂の入った仮面が音を立てながら剥がれ落ちてくる。


「おっとっと、あぶねーあぶねー」


 咄嗟に数メートル後退。巨人の素顔がよく確認できる位置まで下がったとき、頭上のプイプイが急に飛び出し翼をはためかせ言った。


「やっぱり……お前だったのか」


 巨人を見上げるその背中は妙に切なく泣き出しそうに見えた。

 プイプイが見上げる視線の先、(あらわ)になった巨人の素顔は岩のブロックで組まれたようなゴツゴツしたものだった。目、鼻、口らしきものはかろうじて判別可能。だが……顔の至る所が酷く欠け落ち、へこみ、抉られていた。

 そう、まるで……何か大事なものを守るために必死で抗ったような跡だった。

 あまりにも悲惨な姿に口元を手で覆ってしまう。が、目を背けるわけにはいかなかった。


「……ひどい。ひどすぎるよ。ねぇ、誰がこんなことを」


「そんなの……決まってるだろ。人間しかいない」


 プイプイの語気がいつも以上に荒い。

 彼の魔族を想う心、セーブしてきたであろう怒り、憎しみ、悲しみ、そして殺意にも似た感情が背中を震わせている。

 いや、それだけではないかもしれない。彼の中の一際強い確かな気持ちがあるように思える。


「あのゴーレムの名前はな、ゴロウって言うんだ」


「……え?」


「ワタシの……かけがえのない親友だ」


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