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魔王に召喚されたギャル、討伐をやめてもらうため王都へ向かう  作者: 竹道琢人(たけみちたくと)


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第19話:華麗なる剣戟


 二本の黒炎が迫り来る。

 その不気味な輝きに臆することなく小さな背中が駆けていった。


 ———ぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょん!


 甲冑が跨るメタルスライムの高速移動。

 丸っこい小さな姿からは想像つかない速度で跳ねていく。

 そして、勢いを増す黒炎に向かって飛びかかった。


「フンッ!!!!!」


 矢と矢の間をすり抜けるように跳ねた甲冑。

 身体をねじらせ、手にした剣を流れるように振るった。

『神業』とでも呼ぶべき緻密かつ迅速な剣さばき。

 その光景はステージ上でのアイドルのターンか、もしくは映画のワンシーンの如くあまりにも華麗で美しかった。


「う、嘘だろ……そんなッ⁉︎」


「魔石のアシストがついた矢だぞ⁉︎」


 矢を放った騎士たちは驚きを隠せない。その気持ちはよくわかる。

 だって、彼らの放った邪悪な矢は一瞬で真っ二つに裂かれ、文字通り地に落ちてしまったのだから。


「どうですかヒカリ殿⁉︎ このメッタン、やってやりました!」


 着地した甲冑とメタルスライムが振り向き、猛烈に成果をアピールしてくる。

 イエ〜イとでも言わんばかりのピースポーズをぴょんぴょん跳ねながらしつこくとっているから、ここはきっと褒めるのが正解だろうな。そのままずっとやらせるのも面白いけど。うん。ひとまず褒めておこうっと。


「す、すごーいメッタン! 神業だねー!」


「ハッハッハ! そうでしょうそうでしょう!」


『メッタンってあんなキャラだったっけ』『アイツはたまにああなんだ』と、プイプイと密かに会話を交わしたとき、呆気に取られていた騎士団が動いた。


「矢が通用しないとすれば……」


「直接叩き潰してやるまでだよなぁ!!」


 矢を放った小柄の騎士と背丈の高い騎士が剣を抜き、小躍りする無防備なメッタンへ距離を詰めた。それも重量のありそうな鎧からは想像できない素早さで。

 脅威が迫る当の本人は……うん、まだ小躍りしている。やっぱり意外としつこ……じゃなくてマズい。不意打ちなんて喰らえばいくらメッタンと言えども流石にヤバい。


「メッタンッ! 後ろ後ろッッ!!!」


「ヒカリ殿、どうかご安心を」


 ルンルンでピースしていた鋼の騎士はこちらを向いたまま、妙に落ち着いた声でそう言った。

 対照的に鬼のような勢いの王国騎士が迫り、叫び、彼の背後で振り上げた剣を大きく降ろす。

 もう、回避する(いとま)はない。


「「死ねェェェェェェェェ!!!!!!」」


「メタルシンケンいちの型——————」


 スゥと静かに空気を吸うメッタン。

 そして、彼はそのささやかな剣を両手で大事そうに握り言い放った。



 —————————鎧剥がしッッッ!!!


 

 二本の剣先が襲い来る瞬間、メッタンは王国騎士の方に向き直して剣を数回振るった。

 縦に一閃、横に一閃、斜めに一閃くらいだろうか。

 かなり大振りな剣さばきに見えたが……実際は驚くほど異なっていた。

 えっと、マジのガチでどうなってんの?


「「ヒィィィィィィィィィィィィッッ!!!」」 


 王国騎士たちが纏っていた重厚そうな鎧は粉々に切り刻まれ、中身であるオジサン二人が出現した。しかも……インナーさえも纏わないまさに生まれたままの姿で。

 一瞬の出来事に理解が追いつかないのか、はたまた行き場のない恥辱を隠す手段がないのか、オジサンの心情を知る由もないが、素っ裸の中年男性二人はガクガクブルブルと小刻みに身体をを震わせながら(かろうじて陰部を両手で隠して)突っ立っていた。


「えー、解説のプイプイさんや」


「なんだ」


「解説を願います」


「解説もクソもない。メッタンの目にも留まらぬ超絶剣技で鎧から下の全てを斬り刻んだだけだ。もちろん肉体を傷つけぬよう慎重を期してな。正確な数はワタシもわからないが、恐らく数百から数千の斬撃を浴びせたんじゃないか」


 たった数秒の間にそれほどの斬撃を打ち込めてしまうメッタン。要するに動きが速すぎて逆にスローに見えてしまうという現象だったのかもしれない。

 っていうかあの子、ちっこくて可愛いツラしてるのにやることがえげつないな。とにかく怒らせたら怖そうなのはよくわかったかも。

 メッタンの実力をまざまざと見せつけられ、良い意味でヤバい奴が仲間になったと感心したとき小さな背中がおもむろに言った。


「ふぅ、ちょっとやりすぎましたかね」


 メッタンが手にした剣をシャキンと鳴らせて鞘に納めると、全裸のオジサン二人は意識を失い泡を吹いてその場に倒れた。遠目で見ても白目をむいているのがわかる。よっぽど恐怖だったのだろう。まあ……身包み剥がされたわけだから当然か。

 神業を披露しまくったメッタンは再びこちらに向き直し、『どうです〜ヒカリ殿〜』なんて言いながらピースしている。うん。確定。やっぱりアイツ、ヤバい奴だ。

 仲間の凄まじい活躍を若干引き気味に喜んでいると、もう一人の存在が視界に入った。そう、オジサンたちが小隊長と呼んだリーダー格の騎士がまだ残っている。


「もう戦うのやめようよ。アンタの仲間もご覧の通り戦えない。ウチらはただアンタたちの王様に繋いでほしいだけなんだって」


「……クッ、私の部下をコケにしておいて何を言うか! それに魔族は我ら王国の正真正銘の敵、滅ぼすことで平和と繁栄がもたらされるのだッ!!!」


「だからそれは違うでしょって!」


「ほざけ! 魔族に魂を売った餓鬼が!!」


 言葉が、届かない。

 争いたくない。戦いたくない。ただ、話がしたいだけなんだ。

 そう言葉を紡いでも彼らの耳に届かない。

 こうやって何度も何度も永遠に戦いを繰り返す。

 人間って……ここまで愚かだったっけ。


「ここで私が屈すれば部下も私も職を失う! 家族にメシを食わせるどころか、路頭に迷わせることになるのだ! 故に貴様らはここで……捕縛させてもらう!!!」


「ウチらはもう戦いたくないんだって!」


「魔族を従える奴が世迷言を! 部下の仇、取らせてもらうぞ!」


 リーダー格の騎士が空中に放り投げた物体が光を放つ。

 あれは……あの(よこしま)の輝きは人工魔石の輝き。

 大気が揺れ、ざわめき、どこか怯え始めているのがわかる。

 そしてウチの髪や肌や直感がピリピリと反応し、あれは危険なものだと教えてくれる。

 何かが、存在してはいけない何かがやってくる。



「さあ、出でよ——————」



 —————————機械式装甲兵、殺戮の(キラーマシン)傀儡人形(・ゴーレム)ッ!!


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