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魔王に召喚されたギャル、討伐をやめてもらうため王都へ向かう  作者: 竹道琢人(たけみちたくと)


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第16話:バイコーンと下心


「ええっと……誰?」


 颯爽と目の前に現れた紺碧の馬っぽい何かに問いを投げかけてみる。相互理解を深める最初の一歩はやはり相手の名前を正しく知ることだもんね。うんうん。


「ミーの名前、知りたぁい? そんなにミーに興味を持ってくれるとは……まさかユー、ミーに惚れちゃった? やっぱりミーはモテすぎちゃって困るネ!」


 何がどうしてそういうことになってるのかは全くわからないが、ウチの問いの答えは飛び起きた頭上の小悪魔が会話をつなぐように答えてくれた。


「こんなところでなにやってんだバイコーン」


「オ〜ウ! これはデモンズの世話係! 久々ですネ! あれ、また小さくなりましタ?」


「誰が世話係だ、馬鹿者! まあ半分そういうところもあるが……ってやかましいわ!」


 またも個性的な魔族の登場にウチの口は空いたまま塞がらなくなっていたのか、メッタンが丁寧に解説を始めてくれた。ホントいいヤツ〜。


「ヒカリ殿、こちらのバイコーン様はですね、天翔けるユニコーンの原型や先祖あるいは先輩のような魔族で大変格式の高い方です。まあ、ご覧のとおり堅苦しくなくとても陽気で人間……特に若い女性とのコミュニケーションに積極的なことで有名ですね」


「ちょっと念のために聞くけどさ、彼はちなみに……オス?」


「バイコーン様ですか? バイコーン様はれっきとしたオスの魔族です」


「ただのエロジジイじゃねぇかァァァァァァァァァァ!!!」


 じゃねぇかァァァァ、ねぇかァァァァ、かァァァァ…………。

 と、天まで轟そうなリアクションを受けて馬っぽい何か改めバイコーンとやらが何故か頬を赤らめながら本題を切り出してきた。チラチラと送られてくる視線がむずかゆい。


「それでユーたちはこんな辺境の地で何をしているのですかァ?」


「それはワタシが尋ねた質問だが……まあいい。ワタシたちはこれからアルフェの工房へ向かうところだ」


「オ〜ウ! あのドワーフのところですかァ。それはまた遠いところへ向かうのですねェ。まさかとは思いますがァ、徒歩で行くわけではありませんよねェ?」


 ウチの全身を上から下まで……そう、まさに舐めるように見ながらバイコーンは言う。なんていうかその、目つきと見方の全てがヤラシイ。エッチ。変態。スケベ。


「バイコーン様が仰るように、我々は徒歩で向かうつもりです。確かに少々距離はありますが、それもまた旅の醍醐味と言えるでしょう」


 メッタンが言うように旅の醍醐味……なのはわからなくもないが、正直なところ100キロも200キロも歩きたくはない。だって、炎天下の中で道なき道を延々と歩くのは流石に脚パンパンで堪えるもん。

 ……まあ、武器が欲しいって言ったのウチなんですけども! そうですけども!


「フ〜ム、あまり余計なことは言いたくないのですがァ……歩きはやめた方がいいかもですねェ」


 鼻息の荒いスケベ顔が妙に深刻な表情を見せる。なんなんだその訳知り顔は。もったいぶらないで早く話したまえ。

 と、ウチの心の声を聞き取ったかのようにプイプイが続きを促した。少しずつわかってきたではありませんか、小悪魔さんよ。


「どういうことだ?」


「ここまで来る途中にですねェ、冒険者や王国騎士団らしきグループを目撃したのですよォ。それも何十といった数ですねェ。こんなに多くの人間がウヨウヨしているのは珍しいですからァ、無闇に歩けば恐らくエンカウントしますねェ」


『人間の動きが速いな……』と比較的低めの良い声で呟いたプイプイは、あくまでも推測と前置きした上でウチらにその状況を話してくれた。


 ……ふむふむ。ふむ。え。……マジ?


 端的に言えば、どうやらメタルスライムの里で王国騎士団の隊長クラスを撃破(事故だけど)したことが影響しているらしい。可能性としては、ウチらの存在が王国中に流布され始めていることや懸賞金がかけられていることもあり得るとプイプイは言う。

 その仮説が正しければ、王国側から見ればウチらは要するに貴重な人材を葬った悪であり『お尋ね者』ということだ。これから交渉しようというときに……この状況ってかなりマズいのでは? いやマジで。聞く耳持ってくれなくなるっしょ。


「これはどうにかして不可抗力かつ正当防衛で、事故であったことを証明しなければならなそうですね」


「ああ、そうだな……。その前に無事王都へたどり着けるか怪しくなってきてしまった。懸賞金がかけられているとしたら、騎士団だけでなく不特定多数の冒険者がワタシたちを襲ってくるからな」


 プイプイとメッタンの重たい話によって、ものすごくジメーッとした空気がウチらを包む。

 話から察するに、きっとこれからあのバニーオヤジみたいなヤツらが平気で押し寄せてくる。それはまた魔族たちを見境なく傷つけ、居場所をなくしていくことに直結する。

 そして、魔族と人間の溝がさらに深く濃く広がってしまう。それだけはダメだ。絶対にダメだ。

 だから一刻も早く王都に行き、誤解を解いて和平の道を探す。

 そのためにはやっぱり————。


 ——————ウチが強くならなくちゃ。


 魔族を守るために、人間に一方的に傷つけられないために。対等に話ができるようになるために。ウチがこのチカラを使いこなせるようにならないと。

 そう改めて胸に刻んでからウチは彼らに言った。


「見つからないルートとかない? とにかくウチらは武器を調達してサッサと王都へ急ごう」


「ヒカリ殿……」


「フン、言うようになったじゃないか」


 なんとなくウチらの結束力が強まった気がした瞬間、目の前の変態馬が鳴いた。


「ウゥゥゥゥゥン、いいですネェ! 事情はさっぱりわかりませんがァ、そこのお嬢さんの意気込みとツラとおっぱいがイイデスネ! すごくイイデス!!」


 突然のセクハラ言動に『は?』と素っ頓狂な声が漏れ出てしまったが、そんなウチを気にする様子もなく変態馬は畳みかけるように言葉を続けた。


「とても気に入りましタ! ミーの背中、乗ってもイイですヨ!」


「え⁉︎ 乗せてってくれるの⁉︎」


「もちろんですヨ! ただし、ひとつだけ条件がありますヨ!」


「……条件?」


 眉間にどうしても力が入ってしまう。なぜかと言えば……わかるよね?

 だいたいこういうときって、ロクな条件が提示されることはないから。

 アレソレをしてこい〜とか、ドコソコへコレを持っていってくれ〜とか、そういう時間と手間と労力のかかる面倒な条件を出されるに決まってるんだ。あ〜ヤダヤダ。期待して損した。


「ミーの条件、それはですネ……」


 足元の石ころを蹴り飛ばすような勢いで不貞腐れていると、変態馬はウチらの予想の斜め上を要求してきた。


「お嬢さんに『バイコーンさんカッコいい! なんてたくましいツノなのかしら! んもうステキ! 結婚してほしい! チュッチュッ〜!』と、言ってもらいたいのデ〜ス」


 興奮に拍車がかかりさらに鼻息が荒くなる変態馬。そのあまりにもセクハラすぎる要求を受けて、チラリと身内に目線を配ってみる。

 隣のメッタンは『ヒカリ殿、ここはご辛抱を!』の目、頭上のプイプイの首を掴んで引き摺り下ろすと『道中のリスクに比べれば安いもんだろ!』の目。

 おいお前ら、そういうのをこっちの世界では女性軽視って言うんだぞ。そういう扱い方は大問題で炎上することもザラなんだからな。……まあ、異世界の彼らに言ったところでしょうがないが。

 いっそのこと魔法で目の前の変態馬を爆散させてしまう手も思いついたが、それだと元も子もなくなってしまう。多少の怒りと呆れと不満をスゥと空気と一緒に飲み込んで、ウチは変態馬に近付き言った。


「バイコーンさん、そんなことを言わせなくてもあなたは十分カッコいいし、とっても立派なツノを持ってるよ。ステキだなってホントに思う。結婚はさ……まだウチら出会ったばっかりだから、もうちょっとお互いのことを知ってから決めよう? ね?」


 思ってもない言葉を羅列した後、エロウマのたぶん頬のあたりに挨拶がわりのキスをしてあげた。欧米かよ。……そしてウチ、もしかしてだけど実はそこそこ芝居の才能があったりするのかも?

 と、自惚れと自画自賛で自分に酔おうとするとき、またもエロ馬が鳴いた。


「ン゛ンゥゥゥ〜ッ!! イイ!! すごくイイ!! お嬢さん最高ネ!! さあさあ早く背中に乗ってヨ!!!!」


「え⁉︎ あ、うん! ありがと! 言い忘れてたけどウチの名前、神谷ヒカリって言うから!」


 わざわざ体勢を低くしてくれたバイコーンにひと匙くらいの紳士さを感じつつ、メッタンとプイプイとともに背中に乗り込む。すると間もなく、内臓が浮くような感覚を覚えた。足元が大地を離れ、眼下の地表がゆっくり遠のいていく。そう、ウチらはいままさしく空を駆けようとしているのだ。


「それじゃあひとっ走りするからネ! マイハニーはしっかりミーの首にでもつかまっててヨ!」


「うん! 安全運転でお願い……って聞けやコラァァァァァァァァァ!!!!」


 初めて体験する生身の空中散歩。空飛ぶ絨毯や流れ星のような……と表現すれば聞こえはいいけど、ただ速いだけで快適性のカケラもない荒い運転だったことはもはや語るまでもない。


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