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魔王に召喚されたギャル、討伐をやめてもらうため王都へ向かう  作者: 竹道琢人(たけみちたくと)


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第13話:さらば王様、また会う日まで。


「終わった……のか?」


 プイプイはそう呟くと、パタパタと翼をはためかせ鉄球の周囲を飛び始めた。

 きっと、戦闘の終了を確認してくれているのだろう。

 ウチも協力したい。でも、どうにもこうにも身体が言うことを聞いてくれない。

 なんだか意識もぼんやりモヤがかかり始めている気がする。

 たぶんこれが……張り詰めていた糸がプツンと切れる、ってやつなんだろうな。


 「ハハハ。よかった。まだちゃんと人間なんじゃん」


 ……ん? ウチ、いまなんて言った?

 自分の口から不意に溢れた言葉も思い出せない。アカン。疲労が限界突破してる。

 フゥーッと、肺に溜まった息をひとつ吐く。直後、現実がウチを襲った。

 砕かれた鋼鉄の床、赤く染まった鉄球の棘、無惨に飛散する血痕。

 そして、さっきまで人だった存在の破片(かけら)

 人が……人が死んだ。目の前で死んだ。

 上手く素早く無力化できなかったせいで、死んだ。

 ウチのせいで、死んだ。


「オ゛ォヴェッッ……ガハッッゴホッ……ハァ……フゥ……」


 あー、しんどい。

 事態を飲み込もうとすればするほど、身体は拒否反応を起こす。

 吐き出せるものなど胃の中には残っていないというのに。

 深い呼吸を何度か繰り返すうち、戻ってきた小悪魔がパタンと何かを投げ置いた。

 薄汚れた布の小袋だった。


「さっきのオッサンの私物だろうが、中にエリクサーや薬草が入っている。森で乱獲した物だろう。これからオマエの役に立つからありがたく頂戴しておけ」


「……うん」


「オマエはよくやってくれた。結果的に人間の生命は失われてしまったが、オマエのせいじゃない。先に手を出してきたのは向こうの方で、我々はあくまで自分の身を守っただけ。正当防衛だ。そしてこれはその過程で起こってしまった事故。オマエが気にする必要はない。我々も……尊い犠牲を払ってしまったわけだからな」


 ……そうだ。アイツの仲間はメタルスライムを散々傷つけ、アイツに関してはメッタンを問答無用で殺した。メッタンはただ王様を守りたかっただけなのに。

 事故とは言えど傷つけられたから傷つけて、殺されたから殺して。これでおあいこ。どっちもどっち。


 でも……本当にそれでいいのだろうか。


 答えの出ない自問自答に頭が熱暴走しそうになったとき、またも大きな質量の接近を感じた。

 穏やかでどこか丸みのある気配。王様だった。


「ヒカリさん、でしたかな」


「……うん」


「プイプイ様、そしてヒカリさん。此度は我が里を危機から救ってくださって本当にありがとう。このメタルスライム族の王、メタリカが一族を代表して感謝の意を捧げたい」


 鉄球の大きさと遜色ない王様はそう言って身体を前に傾けた。

 たぶん、人間で言うところの『頭を下げる』みたいなことだろう。


「ウチは……守れなかったんです」


「オマエ……」


「……メッタンのことですかな」


「メッタンだけじゃない。里の入り口の子たち、里の中の子たち……みんなを守れなかった」


「……ふむ。しかし、貴方がたが来なければ吾輩たちは全滅していたのもまた事実。生き残った者がいるのは間違いなく貴方とプイプイ様のご尽力の賜物(たまもの)ですぞ。それに本来なら里を守る責任は吾輩に所在すること。非難されるべきは戦わずして恐れ慄き隠れ続けていた吾輩なのです。ですからどうかご自身を責めるようなことはしないでくだされ」


「でもさ……」


「ふむ。ヒカリさんは責任感が強く真面目な方ですな。それはとてもステキなことですが、時に貴方を苦しめる要因になるやもしれません。まあそのことはさておいて、せっかくなのでメタルスライム族についてちょっとだけお話しましょう」


 と言って、王様は羨ましいくらいのパッチリまんまるの目を閉じた。

 そしてゆっくりと開けると……ウチらはいつの間にか真っ暗な空間に飲み込まれていた。


「え、ちょっ、なにこれ」


「キングの固有結界だな。さすが空間魔法の第一人者だけある」


「フォフォフォ、それももはや昔の話。今はもう死に損ないの老いぼれでしかありませぬ。さて、これからお話しするのは——————」


 王様が話し始めると、暗闇の空間にぼんやりした映像がいくつも浮かび始めた。

 どうやらメタルスライム族のこれまでの歴史らしい。なんだか視聴覚室での授業ぽいな。


 ……ふむ。ふむふむ。なるほどね。


 要約すると、メタルスライム族は魔族の中でも長い歴史を持つ部族でその誕生はデモンズのオッチャンの次くらいに古いらしい。長い時間を生き抜いて来られたのは持ち前の素早さと硬さ、それから高度な魔法まで習得できる賢さにあったのだとか。

 だけど人間が誕生してから状況が一変。一族の遺伝子に刻まれた生き抜く知恵、高い基礎ステータス、存在の希少性などが作用して人間たちにとって都合のいい経験値稼ぎターゲットになってしまったらしい。

 よって、人間たちはメタルスライムを見つけると血眼になって乱獲を始め、現在では一族の総数がグンと減少。その希少性がさらに高くなってしまった、と。

 どこへ行くにも何をするにも人間からの危害と隣り合わせ。一族の絶滅を避け再興を図るために秘密裏に里を開いてからは、王様は安全優先で城に引き篭もるようになってしまった……というのが今日までの経緯なんだって。なるほどな……。


「戦うことを避け続け城の奥に隠れる日々。どれだけの時が経ったのか最早わかりませぬ。巧みに使いこなした魔法も忘れていくばかりです」


「王様……」


「吾輩はただただ老いた。残された時間も少ないでしょう。そうしたとき、今回の悲劇が起きた。もう潮時なのかもしれませぬ。この里も、吾輩が王で在り続けることも」


 王様が寂しそうに遠い目をすると、ウチらを覆った空間は何かを悟ったように静かに消えてなくなった。


「ヒカリさんが現れたことも恐らくこの世界の変化の前触れ。老いぼれはさっさと引退して若者にバトンを託すタイミングなのです」


「キング、あなたまさか……」


「フォフォフォ。プイプイ様、魔族のよしみで最後にひとつお願いがあります。この里を……どうか閉じてくだされ。そして生き残ったメタルスライムたちの面倒を見ていただくわけにはいかんでしょうか」


「……わかった。責任を持ってその務め、果たさせてもらおう」


「フォフォ。ありがとうございます。これで安心して()くことができます」


「え、なに? どゆこと?」


 王様とプイプイで何やら話が進んでいる。しかし、ウチには何やらさっぱりわからない。

 脳内に浮かんだハテナを解消できず首を傾げていると、王様がゆっくりと穏やかに移動を始めた。メッタンの亡骸の方だった。


「ああ、メッタン。お主にはたくさん苦労をかけたな。不出来な王で本当にすまなかった。償いにはならぬかもしれんが、吾輩の生命(バトン)をどうか受け取っておくれ—————」



 —————究極魔法、魂の再誕(アニマ・リナセント)



 健やかな表情をした王様が次第に淡い金色の光へと変わっていく。

 光は泡のように無数に広がり散らばり、生気のないメッタンの身体を優しく包み込んでいった。

 もう輪郭さえ見えない。だが、光の方から確かに王様の声がした。


「そうそうヒカリさん、貴方にもお願いがあるのです」


「……うん。なに?」


「メッタンが目を覚ましたら、きっと此奴(こやつ)は貴方についていきたいと言うかもしれません。そのときはどうか、その願いを聞いてやってはくれませぬか」


「ウチはいいけど……いいの?」


「此奴はあまり口にしませんが、人間の文化に強く興味を持っているのです。人間が装着するような甲冑を乗せているのもその証左。里の町中もこの城も人間の建築風に寄せられているでしょう。元は素朴な里だったのですがね、メッタンのアイディアと尽力でここまで発展できたのです。きっと貴方の存在が此奴の知的好奇心をさらに刺激することでしょう。貴方の王都までの道中にも役立つはずですから、どうか一緒に旅をさせてやってください」


「……そっか。うん、わかった。メッタンのことは任せておいて」


「ありがとう。お願いばかりも気が引けますから、ひとつお礼をさせてもらいましょうぞ」


 金色の光の群れから野球ボールくらいの光がフワッと浮かび、そのままウチの胸をめがけて衝突。そして消えた。光だからなのかぶつかった感触も衝撃もない。むしろどこか……温もりさえ感じる。


「なにしたのー?」


「貴方にお守りをプレゼントしたのです。使い切りで大したことのないささやかなものですが、いつかどこかで貴方の身を守るでしょう」


「そっか。よくわかんないけど、あんがと!」


「フォフォフォ、実に気持ちの良い娘さんだ。……おっと、そろそろ時間のようです」


 メッタンを包んでいた光が連なり昇り、王の間の高い天井へと消えていく。

 もう王様の面影も輪郭も何も残っていないというのに、光が魅せる表情はどこか微笑んでいるように見えた。



「それではよろしく頼みます——————」



 ————————————若者たちに未来あれ。



 そう言って王様の光は滲むように儚く消え、ウチの視界は真っ暗になった。

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