イケメン女子の幼馴染に告白することを伝えたら様子が変わった。
俺の名前は志村京汰、普通の高校3年生だ。学園生活は普通に過ごせているし、友達もいる。何も不満もない高校生活だ。今唯一いないのは恋人である。そんなことを嘆きながら生活するほどではなかったが、流石にこの高校生活中で出来るといいなとは思っていた。
ちなみに気になる人はいるのだが…
「また告白されたんだな」
「うん、思いを伝えてくれるのは嬉しいんだけどさ」
はぁ、と俺の隣でため息をつくのは俺の幼馴染の島峰京香、ウルフカットが特徴的でスポーツも勉強もでき、顔もとてつもなくクール、故にモテる、女子に。だからなのかよく告白されているらしい。ちなみに俺の幼馴染でもある。高校に行ってから疎遠になるかと思っていたが、なんだかんだこうして一緒に帰る仲だ。
「…そういえばさ、もう明日で卒業だね」
「そう…だな、いざ卒業ってなっても実感ってないんだな」
「私も実感がないんだ」
俺達は明日、南芸高等高校を卒業する。本当に良い仲間に恵まれたな。何よりその仲間たちのお陰で俺の高校生活を彩ることができた。この高校生活は本当に楽しかったな。唯一思い残したことといえば恋人を作ることくらいだ。
「そういえばさ、京汰は何かやり残したことはあるかい?」
と京香が質問してくる。
「やり残したことかぁ…」
いざそう質問されるといっぱい出てきそうで案外出てきたりはしない。
「明日でもう卒業だからさ、思い切ったほうがいいと思うよ?」
と悪魔の囁きのように伝えてくる。確かに明日でもう会うことはない、だからもう振られようが振られまいが思い切ったほうがいいのか。
「…一つだけあるな」
「ふーん」
それは何?と聞いてくる京香は少し俺に近づいて耳を傾ける。
俺は少し呼吸を意識した後に恐る恐る口を開いた。
「…じゃあ明日、俺は気になっている人に告白でもしようかな。どうせ明日で会うのが最後になってしまうなら」
「…え?」
と京香が鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
「…ん?どうしたんだ?」
「そう…なんだ…」
と浮かない顔をしていた。
「…告白、成功するといいね。また明日」
と浮かない顔をして何処かへ走ってしまった。京香はなにか誤解をしているようだが、俺の気になる人は島峰京香、つまり俺の幼馴染のことだ。
「…お前のことなんだけどなぁ」
と誰にも届くことのないつぶやきは、夕焼けとともに無くなった。
南芸高等高校の卒業式当日、式が終わり帰る時間になった。打ち上げを前々から企画している人がいれば友達をワイワイ帰る人も、一人で寂しく帰るやつもいれば恋人と帰るやつもいる。
俺は打ち上げに誘われていたが断っていた。
「社会人になってもダチでいようぜ!」
といい感じに別れたので大丈夫だろう。
「…そういえば京香が見当たらないな」
俺は京香を探していた。学校の校舎前、盛り上がっている生徒をくぐり抜けて探すがどこにもいない。
「どこにもいない…」
探しても探してもいない。京香がいなければいけないのに…。
「…もう終わった?」
後ろから声が聞こえたので振り返ると京香がそこにいた。今こそ…
「待たせないほうが…いいと思うよ」
と斜め下に目を逸らしながら呟く。何か寂しそうな目をしているのはよく分かる。だからこそ、今言うべきだろうな。
「…何か勘違いをしているかもしれないが、俺が告白したい相手っていうのはお前…のことなんだけど…」
「…え?ほんと?」
と昨日と同じような驚いた顔をしていたが、そんな彼女の顔には安堵が見られる。それどころか少し動揺しているようにも見える。
「…ちょっと恥ずかしいが、俺は京香のことが好きだ。俺と付き合ってくれるか?」
「…不束者ですがお願いします」
その時の彼女の顔は初めて、茜色に染まった。