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1-9

 夜が明けた。


 ある程度歳をとると、不思議なもので日が昇る頃には自然と目が覚める。


 目が覚めたら元に戻っていた………というのを期待したが、どうやらそれは叶えられなかったようだ。



 ………来賓室………ミューに案内されて入った瞬間、場違い感が半端なかったが………の、天蓋(てんがい)付きのベッドの上で猫が良くやる動作………前足を目いっぱい前に伸ばし、姿勢を低くする動作をしてから、眠り心地は良かったがいささか居心地の悪いベッドを飛び降りる。



 ………昨夜自己紹介しあい、エーア以外の契約精霊達とも話しをしたが、皆中々に個性があって面白かった。


 彼らの夕食は終わっていたようで、そのままクリスは帰り、そして皆もそれぞれの部屋へ入っていった。


 精神的にかなり疲れていたからか、自分はベッドの上に飛び乗ってバタンキューだった。



 朝の鐘が鳴る頃、朝食だそうだ。


 ………ただ自分には食事の必要がない。

 魔物や契約精霊はちょっとした食事をすることもできるそうだが、自分はあまり必要性を感じなかったので………とりあえず面にでて、少し瞑想というか、ちょっと考え事をしようと思い、ドアノブをジャンプして下げてドアを開け、廊下に出た。

 レバー式のドアノブで助かった。


 「おや、おはようございます、イチロー殿。良くお休みになられましたかな?」


 何処までも続くような廊下をひたすら歩いていると、銀髪の、かなり歳を取った男性とかち合う。

 彼が昨日………カレラが言っていたセバスという家令である。

 昨晩挨拶だけは交わしている。


 『おはようございます』


 エーアや他の契約精霊達がいないので会話ができそうにない。

 だから伏せをして謝意を伝えると、彼も軽く笑って頷いた。


 「お早いですな。散歩ですかな?」

 『そうです。少し庭に出てみようかと』


 頷くと、彼は人当たりの良い笑顔を浮かべてこの屋敷の正面玄関横………店の入り口とは少し離れた場所にある東屋が、日当たりが良くてよろしいですよ、こちらへどうぞ、と言うので彼についていく。


 本館から別館?のような建屋の間にある短い渡り廊下から庭へ出る。


 昨日ここへ来たのは夜だったので全貌がよく判らなかったが、流石公爵家の御屋敷、かなり広い、しかも手入れが良く行き届いた庭だ。

 カレラの趣味なのだろう、東屋の横の花壇には美しい花が咲いていた。


 ………昨日の宰相との話しの中で、この国では季節はほぼ無い、言い方が古いがとこ春の国らしい。

 明確に四季があった日本の事を話すとかなり驚かれた。


 太陽………ソルに対しての地軸の傾きがほとんどないのだろう。


 この世界中見渡せばこのアルナージ王国より遙かに暑い国もあるし、寒い国もあるとのことだったのでそう結論せざるを得ない。



 ………朝の空気は少しひんやりして心地よい。


 セバスがここです、と言い、美しい緑に囲まれた場所に案内してくれた。


 柱と屋根はあるが壁などは何もない。

 据え付けの背もたれのない椅子とテーブルがあるが、全て石でできている。


 「では、わたくしは失礼させて頂きます。まだ朝食の時間にはかなり早いので、ごゆっくりどうぞ」

 『ありがとうございます』


 頷くと彼は笑顔を浮かべて一礼し、去っていった。


 ………もう一度伸びをしてから、日当たりの良い場所を選んで蹲り、目を閉じて精神を落ち着かせる。


 若い頃、躰道(たいどう)師範から、心技体を整えることは万事に良い事だと教わってから、ほとんど毎日欠かさず(こな)しているルーチンワークのようなものだ。


 それからイメージトレーニングと言うべきか、躰道の型を頭の中でなぞる。

 まあ、この身体ではそれが限界である。


 ………4半刻………30分ほどそうしていると、ミューと言ったか、あのメイド&店員のような子が自分を呼ぶ声が聞こえた。


 何かあったのかな、と思い声のした方へ歩く。

 と………藍色の髪とマリンブルーの瞳を持つ契約精霊………確か名前はカイリと言ったか………が自分を見つけ、ミューに教えていた。


 ………レイやカレラとの関係は不明だが、背はレイの肩より頭一個分位低い、若いと言うより幼い感じの、セミロングの髪も瞳も茶色の女の子である。


 昨日も思ったが、明るい笑顔がおじさんには眩しい。


 「おはようございます、イチロー様。先程セバスさんからこちらへご案内したとお話しを伺いましたので」

 『おはよう、ミュー嬢。元居た世界での日課みたいなもので、散策と少し考え事があったので東屋に居た。………で、何か用事か?』


 エーアの代わりにカイリが自分の言葉をそう通訳してくれる。


 「はい。元居た世界では私たちと同じ人間だったというお話しでしたが、朝食にはどんなものを召し上がっていたのでしょうか。それをお伺いしたくて」


 この御屋敷………昨日紹介されたカレラの使用人の中にコックもいたし、自分に食事は必要ないと昨日言った筈だが、どうやら彼女は、主であるレイの為にいつもと変わった食事を作りたいらしい。


 コックは確かにいるが、時々皆の食事はミュー嬢が作っているとのこと。


 『………ふむ。ここでの主食はなんだ?』

 「パンですね。コックのマイアさんが毎朝仕入れてくれます。後、卵もミルクも新鮮なものが手に入ります。………イチロー様の所では違ったのでしょうか?」

 『ああ、自分の所では米という穀物が主食だったが………砂糖や塩、胡椒などの調味料はあるか?』

 「調味料関係は一通りありますよ。かなり高いものもありますから、カレラ様みたいな御貴族様位しか手に入れられませんが。あと………こめ?は聞いたことがありません。麦はパンやエールがあるので普通に流通していますが………」


 なるほど、やはり食事事情も近代+現代混じりの中世ヨーロッパのような感じらしい。

 米も………他所のお話しの転生者のようにどうしてもすぐに食べたいという訳ではないが、やはり、それと味噌醤油で育ってきているので、あれば安心するのだが………まあ彼女達に認知されていなければ今の所どうしようもなかろう。


 「それらの食材で何か、変わった美味しい食事は作れないでしょうか?」

 『それだけで結構美味い食事はできるぞ。ベーコンもあるのだろう?』

 「ありますよ。御貴族様の食事では当たり前ですね。あと野菜等も普通に市場から仕入れられますのでサラダ等も大丈夫です。マイアさんが朝一で調達されているようですので、問題ないと思います」

 『だったら………自分のような魔物が厨房に入るわけにもいかないから、今から言う作り方でレイ殿に朝食を作ってやりなさい。喜ぶかどうかは判らないが』


 流石に魔物………動物であるこの身で貴族館の厨房に入るのは憚られるのでそう答えると、彼女はにっこり笑って首を振った。


 「大丈夫ですよ。一緒に厨房に言って朝食を作ってみましょう」


 何を根拠に大丈夫なのかは疑問だが、とにかく彼女は自分を抱き上げる。


 小柄な彼女にも平気で抱きかかえられるこの身なのだなあ、と思いつつ、一緒に厨房へ行かざるをえない。


 少し恰幅の良い、コック服を来た女性がそこに居た。

 

 「おはようございます、マイアさん」

 「ああ、おはようミュー。カイリ様もおはようございます。それからイチロー様でしたね。どうしてこちらに………?」

 「今朝応接や来賓室を掃除している時、イチロー様の毛が付着している様子など何かしらの汚れ等は見受けられませんでしたので、ここでも大丈夫だろう思い、お連れしました。異界の朝食を教えて貰いたくて」


 ああ、なるほどそれが彼女が大丈夫と言った理由か。

 普通の動物ならともかく、魔物は抜け毛などは心配する必要がないということなのか。

 後ノミなんかのことも心配しなくていいらしい。

 魔力で生きているので、普通のそういう害虫類は寄り付かないらしいのだ。


 色々不思議で便利な生態なのだな、魔物という生き物は。


 「抜ける毛だけが心配だったんだけど、問題ないね。ああイチロー様もおはようございます、コックのマイアです」

 『この身体でさすがに厨房に入るのは(はばか)られるが………今日はここで口を出すだけになるだろうが、よろしく頼みます』


 元の世界の自分と同じくらいか、少し下くらいの女性である。

 もちろん厨房(ここ)の主なので、敬意は払う。


 「私も異世界の食事の作り方には興味があるからね。よろしく頼みます」

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