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………全ての講義というか、半ば意見交換に近いようなそれを終え、漸く自分達は今夜から寝泊りできるという場所に行くことになった。
一日が終わりかけ、もはや夕暮である。
どこかの軒先を貸して貰えればそれで構わない、と言ったのだが、そんなことはさせられない、と真顔で言われてしまった。
………宰相はまた近々、国王らと協議の上、クリスや他の役職の人間が自分の所に来てくれて何かしらの質問などをする事になるかもしれない、と言っていた。
自分がここかもしくはしかるべき場所に出向くと言ったが、しばらく王城に登城しない方が良いということだった。
マーモキャットという魔物を城内に入れるのは、やはり多々問題があるらしい。
今回は緊急事態であり、国王命令でここへ呼び出されたようだったが………そういう場合はまあ………仕方ないのだろう。
それからさっきの説明・話し合いの中で、エーアはこの世界で最上級の契約精霊であるというかなり驚きの事実が判明した。
契約精霊とは、かなり値の張る契約石という魔法媒体の中に宿る意思のようなもので、その契約石と相性の良い資質を持った人物と契約することで魔法行使の媒体となる宝石のようなものらしい。
この世界の生き物は多かれ少なかれ魔力を持つが、契約石がないと大きな魔法は使えない。
小さな魔法なら魔法陣と魔石があれば使えるらしいが。
契約石は特定の場所にしか産出せず、しかも上になればなるほど産出量が減る。
エーアのような一級品の契約石は、国どころか世界中を探しても、この先まず出てこないであろう、という事である。
1級から5級まであり、5級は意思さえ持たず、相性さえよければ契約すらせずに持っているだけで使えてしまうため、5級品までの管理は国、魔法省によって厳重に管理されているようだ。
逆に言うと4級以上は皆意思のようなものを持っており、4級で片言念話、3級で通常念話、2級で不定形の光………精霊のようなモノ+会話………1級でエーア達のようなヒトガタをした契約精霊として自由に動き回り、面と向かって通常会話ができるようになるらしい。
どんな大きなものでも使用限界を越えると砕け散り、再製は2度とできないが、欠片にもチカラは残っているのでこの欠片が魔道具を動かす動力源………向こうの世界でいう電池のような感じで使われているようだ。
産出場ではそれなりにそういうクズ契約石も産出するらしい。
沢山集めれば魔力供給源としては使えるようで、あの男………自分を呼び出した貴族はこの辺りの契約石を多量に使ったのではないか、という話しだった。
………あの男は奴隷も使ったとか言っていたが………この国には犯罪者への懲罰としての奴隷制度しかない………この辺も国管理なので外へ連れ出したりは如何に貴族といえどもできない………ものの、他の諸国では当たり前に他の仕事に使われる事があるらしい。
いわゆる護衛とか、おとりとか、その他諸々、胸糞悪い仕事にも従事させている国が存在するとか。
何かしらの禁忌の魔法陣や魔道具………魔法省や錬金省に聞かなければはっきりとは言えないが………それらを使えば彼らの魔力を吸い出して集めるような事も可能ではないか、と言っていた。
体内魔力を全部使い切ってしまうと行動不動になり、それでも限界を超えて行使しようとすると今度は生命力を糧にするため、最悪死亡するという恐ろしい結果となるようだ。
最悪あの貴族は非合法で集め、自分を召喚するチカラとして使ったのかなと思うと中々不条理でやりきれないモノも感じる。
ともかく、貴族でもない限り等級のある契約石を買う事は難しいようだが、ただ、クズ契約石と魔法陣と道具を組み合わせた魔道具というものが販売されているようだ。
一般庶民はこれらを使って火をつける、手洗い水を出すなど駆使して、生活を営んでいる。
そしてそれらを発売しているのがレイという男の店、らしい。
他にもあちこちにそういう店があり、魔法・錬金省の管理下に置かれているようだ。
「………ではプロキオン殿、案内を頼む。明日にでも、魔法省と錬金省の人をやって、イチロー殿の魔法資質などを調べさせる。レイ殿にもよろしく伝えておいてくれ」
「承知しました。………マーリン、私が責任を持ってレイ殿の店に案内する………恐らく少し時間が掛かると思われるので、そのまま直帰する。夜番に申し送りは頼む。それから調査報告は明日の朝、聞こう」
「はっ!了解しました。では、エーア様、宰相殿、そしてイチロー殿、失礼します」
マーリン女史はきっちり敬礼をして執務室を出て行き、自分らもその後退出する。
「………さあ、イチロー殿、参りましょう」
『承知した』
………門を出るまで、問題らしい大臣や他の貴族達と出会わなかったのは良かった。
とりあえず来た時に乗っていた馬車に再び乗り込めた時はホッとした。
そこから………どこをどう通ったのかはちょっと判らなかったが、恐らく貴族街の外れ位まで馬車が進み、トライトン魔法用具店と書かれた看板が掛けられた屋敷まで来た時には日がとっぷりと暮れていた。
「さあ、イチロー殿、着きました。ここがレイ殿の店、トライトン魔法用具店と、エグザンディアの館です」
………暗目に自分が呼び出された館より遙かに大きい屋敷が見え、その敷地内に大き目の明らかに店舗らしき構えの建屋が見える。
その部分の塀は撤去されており、通りに面して門戸を開いている。
流石に夜に訪れる客はほとんどいないようだが、ちらりほらりと店を出入りしている人間が見えた。
そして、何やらこの身にチカラが流れ込んでいる感じがある。
魔力というやつだろうか、不思議な感覚がする。
「………気付かれたようですね。レイ殿はここがこの国の地脈の集結点だと言っていました。私にはよく判りませんが………」
『………地脈………自分の国では霊力という………まあ同じようなチカラの集結点というのがあちこちに存在していて、そこにいるとチカラを蓄えられると聞いたことがあるが、こちらでもそういう考え方もあるの 「………あらイチロー、貴方そちら方面にも詳しいの?」………』
………エーアが自分の言葉に被せるようにそう言って来た。
『いや、さほど詳しくはない。専門的なことを言われると判らないとしかいいようがない。ただ、色々なお話しの中でその手の話しが良くあったので、軽く覚えているだけだ』
主にライトノベルやゲームなどでそういう設定はよくあった。
………魔力がこの地点に集中しているようだ。
先程王城でも少し感じていた感覚………何かしらのチカラのようなモノが満たされていく。
恐らくではあるが、王城にも地下とかに行けば、同じような感じの所があるのだろう。
「主やコーさんと話しが合いそうね」
「そうですね。私もそちら方面に疎いので、何となくチカラが高まるなと感じるだけですが、私の妻やコーニッシュ殿など、魔法を使える人間には良い場所なのでしょう。さあ、入りましょう、報告はしてある筈なのでレイ殿はいるとは思いますが」
そう言い、彼はドアを開けて店の中に入っていく。
当然のようにエーアもそれについていったので、自分の入る。
………それにしてもクリスの奴、やはり結婚していたのか。
失礼かもしれないがそれも驚きの事実であった。