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 「ああ、調査班編成が始まったようですね」


 ………例の屋敷の調査か。

 この国の騎士団はあちらの警察のような仕事もしているのだろう。


 「クリス様、各班編成完了しました。これより、調査に向かわせます。それから、宰相殿よりやはり王城へお連れしろ、との命が下りましたので、今馬車を用意しております」


 マーリンとボウマンはほどなく部屋に戻って来て、そう報告する。


 「了解。………そういう事ですのでイチローさん、御同行お願いします」

 『承知しました』


 ………組織としての命令系統はかなりしっかりしているようだし、速い。

 自分が元居た世界ではスマホで電話やメール、SNSでの情報伝達が当たり前の世界だったが、早馬やその他、何かしらの連絡手段があるのだろう。

 もしかしたら魔法的な何かかも知れない。


 「それから通訳できるのがエーア様しか居ません。できましたら御同行をお願いします」

 「わかったわ。………宰相殿に会うのも久しぶりね」



 ………それから自分は、さっき入って来た扉の前………隊舎前に横づけされた2頭立て四輪馬車………ちゃんと屋根がついて四輪であるところを見ると、それほど詳しい訳ではないが確か、キャリッジタイプかチャリオットタイプと呼ばれる馬車なのだろう………に乗せられる。


 ………馬は元の自分の世界にいた重種馬………サラブレットよりもっと骨太で大柄なばんえい馬と良く似ていた。

 自分を見ても驚いて暴れたりすることはないようで、しっかりした調教を施されているようだ。


 シートを汚す訳にもいかないと考え、床の片隅に蹲ろうとすると、ボウマンらに何かしら指示を出したクリスが笑顔でシートに座ることを勧めて来たのでシート上に登る。


 ビロード仕立てのシートに毛が付かないかなとどうでもいい心配しつつ、それでもずいぶん昔に某テーマパークで乗った馬車との違いをあちこち見ていると、クリスが面白そうに言った。


 「………馬車は珍しいですか?」

 『ええ。向こうではある場所にしかない乗り物でしたので。………大昔はこれが主流だったようですが』

 「ほう、では、元の世界ではどのような移動手段を?」

 『色々ありましたよ。自分も普段は、自動車………燃料を燃やしてその力で車輪を回転させて走らせ、それを運転する乗り物乗っていましたし、駅という場所から他場所を軌道で定期的に結ぶ鉄道という乗り物、あるいは自動車と同じように燃料を燃やして推進力を得、空を飛ぶ飛行機という乗り物もありました。………速度はそれなりに早く、全世界を遅くても2~3日あれば網羅できていましたし、一度に乗せられる人も多いのです』


 自分もさほど詳しいわけではないが、細かい理論を説明しても理解できないだろうし、その位なら世間話として問題はなかろうと思い、当たり障りない感じでそう答えるとクリスはじめ皆が目を丸くする。


 「そんな便利な所だったのですか、イチロー殿が居た所は………」

 『ええ。ただ、それは………これまでに発展してきた技術ですので………聞いた話ですが、自分の居た世界も以前はこんなような馬車が往来を走っていた筈です』


 馬車………例えばチャリオット、いわゆる戦車は紀元前………古代からあったものだが、ガソリンエンジン車は19世紀、蒸気機関車も19世紀、飛行機に至っては20世紀に入ってから作られた技術である。


 流石に詳しい発明年までは記憶していないが、確かそんなものだったと記憶している。


 「………なるほど。こちらでは竜………訓練された亜竜が人を乗せて飛べますが、1人か2人ですね………このタイプの馬車で4人乗りです。また長老竜やその眷属ならば一度に何百人と乗せることは可能ですが、彼らはまず人間を背中に乗せるようなことはありませんから………」


 ………竜がいるのか、やっぱり。

 本当に異世界に来たのだなあ、と改めて思う。


 国の規模が判らないので何とも言えないが、それで色々なことが賄えているのならば自分はどうこう言える立場ではない。


 『まだ自分はこの国にどれくらいの人が住んでいるか判らないので何とも言えませんが、国や世界の規模や移動の必要性の問題ではないでしょうか。より便利に、より速く、より多くを追及していくとどんどん技術が進んでいく。必要は発明の母、という言葉が自分達の世界にはあったぐらいですから………』


 ………そんな事を話していると、王城と呼ばれる場所だろう、立派な………練兵場に至る前に見えた尖塔のある建物の前を通り過ぎ、少し陰に隠れるような位置にある通用門のようなところへ到着した。


 大手門はもちろん、城の入り口にはほぼ全て警備兵………門兵?がそれぞれ居るが、彼とマーリン女史が敬礼すると相手も敬礼を返し、自分たちを素通りさせてくれる。


 話しは先程通っていると言っていたので、彼らにも何かしらの指示がでているのだろう。

 ………宰相の執務室へ直接案内されるようだ。


 自分が入っていいのか?と思いつつ、どんどんと彼らが歩いていくのでついて行かざるを得ない。


 やがて、砦の門より更に重厚な扉の前に止まる。

 警備兵らしき騎士らにクリスが何かしら一言二言告げると真顔の彼らは頷いて、中に向かって結構大きな声で来訪者があることを告げる。


 「騎士団総長、プロキオン殿、御成り!」

 『………来たか、入れ』


 中から少しくぐもった男の声が響き、警備兵らによって扉が左右に開けられる。


 ………騎士団の執務室とあまり変わらない造りの部屋だった。

 正面のデスクに、明らかに国のえらい様という恰好の初老の男が座っていた。


 「騎士団総長、クリストファー・プロキオン、入ります」

 「同じく副長、マーリン・ストラトス、入ります!」


 クリスとマーリンはそう名乗り、中へと入っていく………自分も頭にエーアを乗せたまま入っていく。


 「………そのマーモキャットが報告の………」

 「ええ、紹介します。この度………どこかの世界から召喚されたというイチロー殿です」


 中に居た初老………元の自分と同じような年齢の男が立ち上がって自分達を迎えてくれる。

 威厳のある顔、体つきが、かなり色々な経験を積んできたんだろうと思わせる。

 何やら言いかけて一瞬詰まったが………とにかく自分を紹介してくれたので、軽く頭を下げるように動かした。


 「なるほどこちらの言葉は理解しておられるようですね。私はアルナージ王国宰相の身分を頂いているレイバック・アヴェンシスと申します。レヴィン王も興味を示されているし、謝罪をしたいと仰られています。………エーア様も御無沙汰しております」

 

 頭の上の彼女はそんな偉い存在なのだろうか。

 一国の宰相が頭を下げ、丁寧語を使われる存在なのだから。


 「………ふふ、イチロー、ちょっと特殊な存在だけど、そんなに偉い訳じゃないのよ、わたくし………わたくし達は」


 その考えが漏れたのだろうか、彼女はそう言ってポンポンという感じで自分の頭を軽く叩くと、すう、と浮かび上がって宰相の顔の前に寄る。


 「レイバック宰相、お久しぶりですわ。………一通りの事はクリス殿から報告が上がっているかと思うけど、わたくしの口からも彼の言葉を伝えるわ」

 「承知しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします」


 執務室の一角に備えられている応接セットのような所へ行き、自分はこれまでの経緯を再々度説明する。

 ………多分国王の前でも同じ事を説明しなくてはならないだろうなと思いつつ一通り話し終えると、時々メモを取りながら聞いていたレイバック宰相が難しい顔で頷く。


 「………委細承知しました。本当に何処の………貴族がそんなことをしたのか………ともかくそれはこちらの責任。むしろ被害者なのですから、イチロー殿は気に病む必要はありません。何より我が国の者が迷惑を掛けて申し訳ない。………それから………イチロー殿には謁見が終わった後、こちらの常識となっている金銭単位や時間単位などを教えさせて頂きます。しばらくはあちこち動くこともままならないでしょうが、何も判らないと色々と暮らしにくいでしょうから」

 『感謝します。ご迷惑をお掛け致しますが、よろしくお願いします』


 先程クリスとの会話でも思ったが、王城関係者もその一部貴族とはとても仲が悪いようだ。

 また何か言いかけ………口を噤んでかなり苦々しい顔をして謝って来た。


 ………この分だと国王とも仲が悪い………お互の意見と存在、その他諸々に不満があるのだろう。

 

 地球でも過去、何処の国でもあったようだが、100の大きな組織があれば、100の考え方があり、そしてその中にも………各リーダー達に対する反乱分子が必ずいるはずなのである。

 

それでも………それらを全て排除しては王宮が………いや、国、組織そのものが機能しなくなる。

必要悪というべきかなんというか………組織運営は何処でも難しいものだ。


その組織が巨大になればなるほど。

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