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1-4

 中の人物………1人なのか複数人なのかは不明だが………と確認が取れたようで、エーアが再び自分の方へ飛んできた。


 「クリス殿に了解が得られたわ。部屋へ入りましょう」

 『いいのか?』


 さっきの女性騎士の態度からするとかなり警戒されているように感じたが………。


 「大丈夫よ。中にいる人たちは皆強いから。それにわたくしが居るし、ちゃんと説明したから問題ないわ」


 ………まあ今更逃げたり攻撃するような行動をとる気もないが。


 てとてとと廊下を歩き、女性騎士が開けてくれたドアを潜って中に入る。

 かなり広い部屋だった。


 正面に重厚そうな机があり、細身の男性が座って何かしら書き物をしていた。

 

 文官のような………鎧はつけていないがかっきりとした恰好の男女がいたが、自分に視線が集まっているのが判る。


 平然………という訳でもないが大人しくその中を歩いていき、男性の机の下で再び座る。


 「ああ、エーア様………その魔物が………」


 彼は椅子から立ち上がってこちらを注視してきた。

 

 「ええ、さっき偶然出会ってね………彼、イチローっていうらしいんだけど………どうやら召喚魔法を使ってどこかから呼び出されたようなの」

 「召喚魔法!?………禁忌魔法じゃないですか!!」


 どうやら召喚という魔法は本当に使ってはいけない魔法らしい。

 がたん、と音を立てる勢いで彼は立ち上がる。


 「………しかも、どうやら別世界から………ね」

 「別世界から?そんな事が………」

 「信じられないかもしれないけれど、彼の話しを少し聞いた限りではどうやらそんな感じなのよ。別世界からとは言っても何故かこっちの言葉は理解しているし、彼の思念はわたくしが読み取れるわ。………少し話しを聞いてあげて欲しいのよ」

 「判りました。………では、応接の方へ」


 執務室の一角にあるソファと机がある場所へと導かれ、自分とエーアはそれについていく。

 

 「………イチロー、この机の上に乗れる?」

 『大丈夫だが、乗っていいのか?』

 「話しづらいでしょうから………いいわよね、クリス殿」

 「構わないですよ」


 彼の許可が出たので、私はぴょん、と飛び上がり、机の上へ着地する。


 きちんとペン立てに立てられた羽ペンとインク壺が乗っている、良く応接室にあるような立派で重厚そうな机だった。


 『このような場に乗せて貰い、ありがとうございます。とりあえずこの身に起こった事をお話しします』

 

 同時通訳のような感じでエーアが自分の思念を読み取って話してくれた。


 「………なるほど、確かに中身は普通の魔物ではないようだ。………では、なぜ、貴方がここに来たのか、経緯をお話し下さいますか?」


 彼………クリスは自分達の対面に腰掛けて手を組み、話しを聞く姿勢を取ってくれる。

 女性騎士も彼の横に座り、メモ紙のような紙を数枚手元に置く。

 

 見た目は刑事ドラマでよく見るような事情聴取だなあ、と変な感想を抱きつつ、ここに来るまでの経緯をできる限り説明した。


 『………そんな感じでここに居ます』

 「………なるほど、そういう経緯ですか。………ふむ、宰相と魔法省報告案件………ひいては国王報告案件だなこれは。それと………マーリン、騎士団一班から三班を招集しろ。それから彼を………イチロー殿を呼び出したという男………おそらく貴族だろうと思うが………そちらも調査しろ。後できれば、例のバカ貴族共にはこの情報が漏れないよう徹底してくれ。王城とレイ殿の所にも緊急で連絡を入れるように」

 「はっ!」


 どうやら副官らしき女性は、マーリンというらしい。

 

 例のバカ貴族、という言葉を使った所を見ると、冒険者や傭兵とはそれなりに仲が良いようだが、貴族………言い方からすると一部の者らしいが………とはとても仲が悪いようだ。


 敬礼をして部屋の外へ出ていくマーリンという女性を見送ると、中々鋭い目でクリスがこちらを見る。


 ………なるほど見た目で人を判断できない良い例のようだな。


 近目で見る限り、腕などががっしりしているのが判る。

 マーリンと同じくらいの背丈だし、華奢には見えるが、全く見た目通りではなかろう。


 細マッチョと言うやつか?ともかく、動き一つ見ても鍛えているのがよく判る。


 「イチロー殿、どちらからこの砦に来たか判りますか?」

 『………おそらくこの方向だと思います。距離や掛かった時間はよく判りません。歩幅が違うし、何より自分はこの世界の時間の単位を知らないので』


 執務室の窓から見える景色………元の世界の都会のように高い建物がないので見通しはいいが………自分がここへ来て登った木が見えたので、多分この方向だと思える方向に前足を掲げる。


 『それから呼び出された場所は、貴族様の御屋敷のような作りでしたが、おそらく人は住んでいないと思いました………窓という窓に全て板が打ち付けてあり、塀の一部は半ば崩れており、庭も整備されていませんでしたので。………ただ、青緑の屋根の、三階建てのかなり立派な御屋敷でした』

 「ふむ………大体この方向にある貴族の旧屋敷ですか………」

 『はい。それからその御屋敷から外へ出た時………日の光は多分、天頂から少しだけ傾いているように感じました』

 「なるほど………ソルの傾き………という事は約1刻前か………」


 どうやらこの世界の太陽は、ソル、という名前で呼んでいるようだ。

 地球でも確かラテン語では太陽の事をソルというらしい………良くライトノベルなどで出てくる表記なのであまり違和感は感じない。


 1刻前というのがよく判らないが、まあ………今は質問は控えるべきだろう。

 聞き始めたら際限なくその手の質問をしそうで………ここに自分がいる時点でかなりの非常事態のようだから、色々時間が惜しいだろうし。


 「ふむ………ボウマン、今の情報も追加。宰相と各班長に伝えて共有しろ」

 「はっ!」


  部屋に居た文官らしき男女の内男性の方にクリスが言うと、彼もまたマーリンと同じように敬礼して廊下へ出て行った。

 ………彼はボウマンというのか。


 「………イチローさん、色々お話しいただきありがとうございます。おそらく宰相か国王から直接話しを聞きたいと命があると思いますので、その際は御同行をお願いしたいのですが………」

 『………礼儀を知りませんし、自分のような魔物が王城に入ってもよろしいのでしょうか?』


 一応社会人としての礼儀作法教育は受けていたが、流石に国王というか、それに準ずるような方々にお会いしたことなどある訳がないし、失礼があってはと思ってしまう。


 「一部の貴族はともかく、国王や宰相はそのようなことをあまり気にする方ではありませんので………私が居れば大丈夫だと思いますよ。それから………召喚魔法は確か、それに対する送還魔法が認知されていませんので………恐らくは………」


 なるほど、送り返す魔法はないという事だな………これで確定したな、自分は………元の世界には戻れないのだろう。


 向こうの世界の………色々あちこちに迷惑をかけることになるが………それを認めざるをえないという事だ。

 何より弟よ、すまん。


 『………承知しました。それから自分の思念を他人に伝える魔法や道具のようなモノはないのですか?何時までも彼女に迷惑をかけるのは忍びないので』

 「ふふ、わたくしはちっとも迷惑と思っていませんのでいいですよ。逆に仲間たちに良い土産話しができましたので、喜んでいます」

 「………王や宰相との謁見が済んだ後………いや、明日になると思われますが、魔法省か錬金省に話しを聞いてみましょうか」


 エーアを気にしてそう考えると、彼女はニコニコと自分の前に浮かんでそう言い、またクリスもそう苦笑いを浮かべて頷いたのだった。


 「魔物は魔力を糧に生きているとは聞いていますが、何か飲んだり食べたりすることはできるのでしょうか?」

 『判りません………そうか、魔力を糧に………召喚されてからこっち、喉も乾かないし空腹も感じないので変だなと思っていましたが………』

 「マーリンとボウマンが連絡と報告から戻ってくるまでに少し時間がかかりそうですから、もう少し休ませてもらいましょう。………エーア様もいらないですね」

 「そうですね。わたくしも今は必要性を感じませんわ」


 契約精霊とやらも別段食物は必要ないらしい。

 

 「では失礼して、私のみお茶を入れさせていただきます。………アズ、お茶を入れてくれ」


 今度は女性の方にクリスが言うと、彼女は頷いてカップにお茶のようなものを注いでクリスの前に置く。

 なるほど彼女はアズ、というのか。


 「しかし突然こんなような事が起こったのにあまり動転されておられないようですね」

 『流石に呼び出された瞬間は驚きましたが………その後ちょっと冷静になったら大騒ぎしてもリスクが増えるだけだと割り切れましたので。………向こうでは50歳近い年齢だったのもあるかも知れません』

 「50歳………ですか。私より年上ですね」

 

 クリスは35歳だそうだ。

 この歳で騎士団総長を勤めているところを見ると、やはり相当”できる”人間なのだろう。

 外見からではとてもそうは見えないが。

 

 「先程も言いましたが………そして今日そうなるかは国王と宰相次第なので判りかねますが、王城からの呼び出しがあったら一緒に登城させて頂きます。それまでは………ええと、とりあえずここで過ごしてください。エーア様はレイ殿の所へお帰りになられますよね?」

 「そのつもりですわ。元々ここへ来たのも、主から王女警備隊のオルティア殿へ書簡を届けるためでしたので………」

 「了解です」


 話しているうちに、ちょっと外が騒がしくなった。

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