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 「召喚されたと言ったわね。何でそうだと思ったの?」

 『今は猫になっているようだが、さっきも言ったように元々は人間の男だ。それに自分がここへ来た時、足元に魔法陣というものか?何か複雑な模様が描かれている円形のものが光っていた。姿は見ていないが、その場で聞こえた多分若い男の怒声の中に『召喚』という言葉が入っていた………それが根拠だ』

 「判ったわ。………貴方、悪い人ではないようね。魔力はかなり多いけど………魂が綺麗だわ」


 ………そうなのだろうか。

 良くは判らないが、彼女がそう判断しているのならばそうなのだろう。


 武道鍛錬をしている時以外は人畜無害だと良く言われていたが。

 あと魔力が多いと何かメリットやデメリットがあるのだろうか。

 

 ………色々聞きたいが、まずは現状確認をするべきか、と思い直し、問いかけてみた。


 『ここは何という地なのだ?ああ、自分は………イチロウという』


 今更自己紹介もないのだろうが、苗字は………騒動ネタになるお話しを読んだことがあるので、ここは伏せる。


 「イチロー、ね。わたくしは主レイ・トライトンの契約精霊、エーア。………ここはアルナージ王国の練兵場よ」


 レイ………レイ・トライトンという名前が出てきたが、何処の誰なのかは判らないし、国の名前を言われても………確か自分が覚えている中にそんな名前の国はなかったと思う。


 全世界約200ヵ国の名前全てを覚えている訳ではないが、少なくともヨーロッパにそんな名前の国は今も昔も存在はしていなかったと思う。


 『アルナージ………王国………?』

 「………どうやら本当に知らないようね。ともあれ………ええと、貴方が禁忌魔法で召喚されたのなら、騎士団総長………クリス殿に報告しなければならないわね。主には後で状況を何かしらの手法で報告しておくとして………ともあれ、貴方、動けるの?」

 『大丈夫だ』

 「なら、わたくしを乗せてくださいな」


 そう言って彼女は自分の頭の上に乗ってきた。


 頭の上というのはちょっと驚いたが………彼女のサイズ的にそこへ乗るのがちょうどよいのだろう………まあ気にせずに木から降りる。


 『どこへ向かえばいい?』

 「あの入り口へ向かって」


 そう彼女は砦のような場所の重厚な扉を指す。


 丁度そこで………さっき演習のようなものをしていた者たちが終わったのか、こちらへ向かって歩いて来た………が、自分の姿を見ても頭の上のエーアがいるせいか、特に反応を示さず………というか凄く生暖かい目で見られた。


 ………遠目で見えた通り、騎士の恰好をした者たちも居るし、軽装備の者たちも居る。

 手にしている得物はやはり木で作られた訓練用のモノであるのが判った。


 「演習が終わったみたいね。今日は確か、合同訓練日が」


 エーアがそんな感想を漏らす。


 『ふむ、定期的にこういう訓練が行われるのか?』

 「そうよ。それなりにこの国周りの情勢は落ち着いているけど、人間に敵意ある………言葉の通じない魔物が街に近づいたりしていたら冒険者や傭兵団、騎士団が出張ることになるから………」


 なるほど国防の意味では当たり前だろう。

 その集団達は仲が悪い設定の物語も多いが、いざというときに互いに連携が取れなければそれぞれの職業になっている意味がない。

 

 『………アルナージ王国の人口はどのくらいなのだ?』

 「………わたくしはあまり詳しくないから、クリス殿に聞きましょうか。………貴女、済みませんがドアを開けて下さるかしら?」


 丁度こちらに向いて歩いて来た冒険者っぽい恰好をした女性にエーアが頼むと、彼女は心よくドアを………重厚なドアの端にある通用口っぽいドアを開けてくれる。


 「申し訳ないですわ。ありがとう」

 「いいえ………それにしても今日はマーモキャットの上に乗れて楽ですね、エーア様」

 「うふふ」


 顔見知りという訳ではないみたいだが、その気安さから考えるとどちらの彼女もよくこの練兵場とやらに来ているのだろう。

 また魔物であろう自分の姿を見ても動揺したり攻撃をしてこなかったところを見ると、同じような事が過去あったという事だ。


 それが自分のような猫………マーモキャットであるかどうかは判らないが。


 ………エーアと自分はそのドアの中に入る。

 ドアはその女性が閉めてくれたようだ。


 一瞬薄暗く感じるが、すぐに目が馴染み、真直ぐに伸びた廊下が視界に入る。

 

 「このまま真直ぐ………あの正面のドアが騎士団………近衛騎士団の分隊と合同だけど………それらの団長執務室よ。この時間ならクリス殿、パトロールに出ていないだろうから………少しここで待機していて、話しをしに行ってくるわ」

 『承知した』


 エーアはまたすう、と浮かび上がり、正面のドアの方へ飛んでいく。


 床は………ちゃんと掃き清められているようで、汚れや埃っぽいものは見当たらない。

 何となく蹲って彼女を待つ。

 確かに執務室に魔物たる自分がいきなり入るわけにもいかないだろうから。


 彼女はドアの前に到着し………ドアを殴るようにして3回ほど叩くのが見えた。


 ドアが開いて、顔を覗かせた女性騎士と何かしらの会話をしているようだ。

 

 エーアが自分を指しながら何かしら説明をしている………その女性騎士は、一瞬え?というような顔をしてから真面目な表情になり、腰の剣に手をやった。


 砦入り口からその執務室とやらの入り口までは多少の距離があるので会話は聞こえないが、女性騎士は少々緊張と困惑した顔のままエーアに二度三度頷いて一旦部屋の中の人物へ問い合わせているようだ。


 ………よく考えてみれば当たり前だ、国防の要であるこの砦のような場所の執務室に、小さいとは言え急に現れた自分のような動物………魔物?を入れる筈もない。

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