探偵ぺんぎん
夜の街は静まり返り、闇が全てを包み込んでいた。
いつもやってくる依頼は私利私欲のためのものばかり。どいつもこいつも自分のことしか考えていない。
古びたオフィスビルの一室で、やり場のない苛立ちを抱える探偵ぺんぎんの目に一通のメールが止まった。
タイトル:「感染が広がっている」
自然とメールをクリックする。
「ワクチンなんて存在しない。接触や飛沫による感染なんて甘いもんじゃない。それは目にしただけで、耳にしただけでも感染していく。私はこの感染を世界中に蔓延させるつもりだ」
背中に一筋の冷たい汗が流れる。
いたずら?それともウイルス兵器を使ったテロ予告なのか。嫌な胸騒ぎを感じながらも、ぺんぎんはそのまま眠りにつくのだった。
翌日、新たなメールが届く。
「明日の15時にお一人で下記の住所までお越しください。住所は…」
決定的な謎の答えが見つからないまま、メールにある住所へと足を運ぶことにしたぺんぎん。
そこには古びた教会が建っていた。
教会の中はカビのにおいと静寂が支配しており、ぺんぎんの足音だけが建物全体に響いていた。
まだ誰もいないのか…いや。
教会の一番前の席に一人の老人が静かに座っていた。
「謎は解けましたか?」
彼の声が響く。
「それが、まだ…」
彼は微笑みながら、ゆっくりと話し出した。
「私はここで長年人々に優しさについて教えてきました」
「優しさ?」
「そう、人々がほんの少しの優しさを持つことで、それが周囲に広がり、次第に社会全体を循環していく。しかし、悲しいことに誰かの幸せの裏には必ず別の誰かの不幸が存在する。それは避けられない現実です」
彼の言葉は重く響いた。
「人は今、自分のことだけで精いっぱいだ。それでも私は諦めたくない。思いやりが広がり、皆が少しずつ幸せと不幸せを分け合うことで、誰もが笑い合える世界を作りたいんです」
ぺんぎんはその言葉に心を動かされた。
「わかりました。あなたの夢のために協力させてください」
探偵ぺんぎんは調査の中で、気付いたことがあった。
いや、気づいていなかったことがあったのだ。
意識しなければ見落としがちだけど、実は小さな優しさが街中に溢れている。
「この街もまだまだ捨てたもんじゃないな」
確実に優しさは感染する。
しかし、それはこの世界で最も美しい感染症なのかもしれない。
この素敵な感染症を世界中に蔓延させていこう。そう心に誓うぺんぎんだった。
THE END