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探偵ぺんぎん

作者: ぺんぎん3号

夜の街は静まり返り、闇が全てを包み込んでいた。

いつもやってくる依頼は私利私欲のためのものばかり。どいつもこいつも自分のことしか考えていない。

古びたオフィスビルの一室で、やり場のない苛立ちを抱える探偵ぺんぎんの目に一通のメールが止まった。


タイトル:「感染が広がっている」

自然とメールをクリックする。


「ワクチンなんて存在しない。接触や飛沫による感染なんて甘いもんじゃない。それは目にしただけで、耳にしただけでも感染していく。私はこの感染を世界中に蔓延させるつもりだ」


背中に一筋の冷たい汗が流れる。


いたずら?それともウイルス兵器を使ったテロ予告なのか。嫌な胸騒ぎを感じながらも、ぺんぎんはそのまま眠りにつくのだった。


翌日、新たなメールが届く。

「明日の15時にお一人で下記の住所までお越しください。住所は…」


決定的な謎の答えが見つからないまま、メールにある住所へと足を運ぶことにしたぺんぎん。


そこには古びた教会が建っていた。

教会の中はカビのにおいと静寂が支配しており、ぺんぎんの足音だけが建物全体に響いていた。


まだ誰もいないのか…いや。

教会の一番前の席に一人の老人が静かに座っていた。


「謎は解けましたか?」

彼の声が響く。


「それが、まだ…」


彼は微笑みながら、ゆっくりと話し出した。

「私はここで長年人々に優しさについて教えてきました」


「優しさ?」


「そう、人々がほんの少しの優しさを持つことで、それが周囲に広がり、次第に社会全体を循環していく。しかし、悲しいことに誰かの幸せの裏には必ず別の誰かの不幸が存在する。それは避けられない現実です」


彼の言葉は重く響いた。


「人は今、自分のことだけで精いっぱいだ。それでも私は諦めたくない。思いやりが広がり、皆が少しずつ幸せと不幸せを分け合うことで、誰もが笑い合える世界を作りたいんです」


ぺんぎんはその言葉に心を動かされた。


「わかりました。あなたの夢のために協力させてください」


探偵ぺんぎんは調査の中で、気付いたことがあった。

いや、気づいていなかったことがあったのだ。


意識しなければ見落としがちだけど、実は小さな優しさが街中に溢れている。


「この街もまだまだ捨てたもんじゃないな」


確実に優しさは感染する。

しかし、それはこの世界で最も美しい感染症なのかもしれない。


この素敵な感染症を世界中に蔓延させていこう。そう心に誓うぺんぎんだった。


THE END

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― 新着の感想 ―
[一言] 最初は不穏な雰囲気でしたが、最後は温かい気持ちになりました。優しさという感染症が広がると良いですね。
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