EP7-7
お兄さんに家まで送ってもらって、家に入るとまりあが誰かと電話していた。
音を立てないで廊下を進むと、
『だから結婚はもうちょっと待ってよ…』
「……ッ…?」
『違う、別に結婚する気がないわけじゃなくて…。もう少しだけ見守ってあげたい子がいるの』
『分かったって、最後まで見届けたらするから。そんなに急かさないでよ。うん…わかるよ。もらった指輪はちゃんとしまってあるって。別に付けなくたって何も変わらないよ、大切にしてる。ありがとう。』
『子供の話ももう何回も聞いたよ。分かってる、ちゃんと考えてる。何人欲しいっていうのも覚えてるってば。』
『うん、わかった。週末ね。……いや、泊まらないでその日に帰るよ』
リビングの少し開いた扉の隙間からそんな話し声が聞こえた。
受話器から漏れる声は男の声だった。
全身が震えるような感覚に奥歯を強く噛み締めた。
やっとお兄さんからきっかけを貰えてまりあに伝えるだけなのに。
『うん、そろそろ帰ってくる頃だから切るよ。またね、週末に。うん…、おやすみ。風邪ひかないようにね』
まりあはふうーとため息をついてぼーっとテレビを見た。
見ているけど多分何か考え事してる感じだ。
わざと音を立ててリビングに入ると
まりあはビクッと肩を揺らした
「……ただいま。」
ソファに座るまりあの後ろ姿に問いかける。
『おかえり…!』
まりあも振り返って少し気まずそうに笑った。
「電話してた…?」
『ああ、うん!少し』
ソファに座る彼女の前に無言でしゃがむ。
『どうしたの?』
びっくりしたように瞬きを繰り返す。
まりあが結婚?
しかももう指輪まで受け取ってるってことは、僕が出ていけばすぐにでも結婚するつもり?
誰と?
僕じゃない誰かと?
また体が震えるような感覚がした。
『わたしたち、少し話そうか…。』
「いやだ…。聞きたくない」
彼女はそう言う僕に困ったように優しく笑う。
「好きだよ。まりあ。」
ソファに座る彼女の両サイドに手をついて
覗き込むようにしてまりあにキスをした。
わかりやすく手からスマホを落として、見たことないくらい驚いた顔をしている
『レ、レイ…』
慌てたようにスマホを拾おうとした手を握って体を引き寄せた。
ソファに座っていたまりあを引きずり下ろすように自分の足の上に座らせて、僕の名前を呼ぼうと開き掛けた唇に、噛み付くという表現が近いキスをする
「今日はごめんね……《だけど好きなのは本当。お兄さんと話して改めて自覚した。どうしようもないくらい、まりあが好き。今以上に幸せな場所をもう見つけられない》」
唇が触れそうな距離で一方的に話して、そのまま唇を重ねた。
まりあが体を押して離れようとするけど、彼女の背後にはソファがあって逃げ場を失ったみたいだった
苦しそうに眉を下げる彼女の目が色っぽさを増して、ザワザワと熱が体中を駆け巡ってるような感覚になった
一度唇を離して角度を変えて噛みつこうとする僕とまりあの間に差し込まれた手のひらが邪魔をした。
『ストップ…っ!』
まりあは少し息が上がったのを落ち着かせるようにして、怪訝そうに僕のおでこに手のひらを当てた。
『熱はない…よね…?』
「…え?」
手の甲を僕の首に当てたり、頬に手を添えたりして変な行動を繰り返す。
『どうしたの、変だよ…?』
「変じゃない」
『じゃあどうして突然こんな事したの?』
「こんな事…?まりあにとってはこんな事かもしれないけどっ…」
『あぁ、違う違う。そうじゃない。小さく見積もったわけじゃなくて』
「誰と?」
『なにが?』
「誰と結婚するの」
『誰ともしないよ?』
「嘘だ。優ちゃん?」
『だからなんで優ちゃんッ…っ』
今まで経験したことのないくらいの嫌悪感で頭がおかしくなりそうだった。
まりあが優ちゃんと結婚?
考えなかったわけじゃないけど、こうやって現実的に見せつけられると到底我慢して受け入れられる事じゃない。




