EP1-7
居酒屋を出ると成美は
「あ、ごめんごめん。ウチ彼氏迎えにきてるからここで!」
といって店の前に止まっていた車に乗り込んだ。
乗る直前にも「8歳も歳下となると心配性でね〜」と聞いてもない捨て台詞を残して。
「なにあれキツいんだけど」
と友梨。
「パワーアップしてたね〜。てか軽自動車じゃん。ダサ…」
と同級生。
「まあまあ8歳年下ともなれば仕方ないってもんよ…」
「成美は年下彼氏でご満悦のご自慢大会だったけどね」
「てか彼氏の顔見た?くそ芋いの。よくあれでまりあに紹介とかなんとか言えたよね」
「「てかまりあ生きてる…?」」
私は2人の会話にも混ざれないほどグッタリとしていた。
『あ、ごめん…聞いてはいるけど頭回ってない…』
「お疲れさん、ほんとに偉いよお〜」
「ほんとだよ、泣けちゃうよお〜」
そう言う2人に両サイドから肩を抱かれて、少し癒された。
『2人が居てくれてほんとに助かった』
「あいつまじでなんなの?」
「メンソレータム、とか言ってる時の顔ムカついたわ。だから唇カサカサで皮むけてんじゃねえのかよ」
と元ヤンの同級生が友梨に続いた。
「でもさ年末か年始にもでかい同窓会あるらしいじゃん」
『ええぇぇええぇ…』
「「くるよね?」」
2人の圧に押し切られ首を縦に振り、
2人とは駅で解散したのだった。
「ありがとうございました、またお越しくださいませ〜」
駅近くのコンビニで水を買って、一口飲むとドッと疲れが押し寄せた。
『なんだあれ…かなりパワーアップしてたじゃん』
地元はみんな、なんだかんだこの歳になってもそれとなく繋がりもあって仲良しで
県外出てる人も少なかったり、
出てたとしても結構頻繁に帰ってきてたり。
そんな地元が好きだけど、全部が全部愛せるわけじゃない。
最初の方の楽しかった会話は全部、
成美で塗り替えられてしまって悔しいような悲しいような
なんかそんな気持ちで泣きそうになりながら家まで歩いた。
楽しかったのにな、楽しかったはずなのにな。
思い返せば成美からの言葉になんて返そうか戸惑ってた自分ばかりで。
私はこうやって家に帰れば嫌な事を言ってくる人から逃げられるけど、レイ君とかの誹謗中傷とかは家に帰ってもSNSがある限りどこまでもついて回るんだろうな。
私が成美1人を切るのとは違って
レイくんが誹謗中傷から逃れるには手放さなきゃないものがたくさんあるんだよね。
そうすれば仕事も失うし、仕事を失った後でも街は歩きにくいだろうし
彼らの逃げ道はどこにあるんだろう。
レイ君にはそんな逃げ道があって欲しいな。
彼女でもいいし、グループのメンバーでもいい。
とにかく誰か、レイくんが逃げたい時はそばに居ますようにと願うことしかできない。
ファンミーティングの手紙にもそんな事書いた気がする。
大大好きなレイくんを失いたくなくて
『どうしても全て嫌になったとしても、最期の選択は絶対しないで。「その選択以外もう残ってない」としか思えない時は一度この手紙を思い出して、日本に逃げてきて。レイ君のことはなんでも助けたいし、どうせなら最期だと思うならその時間少しでいいから私にちょうだい。美味しいものたくさん食べて、一緒に逃亡しよう!』
って言う馬鹿げた内容。
でも今日思った。
もしそう言う時は逃げる選択をして欲しいなって。
生きてるだけでいいんだよ〜って見守ってあげたいな。
酔いが回った頭でふわふわになりながらも、
寝る支度をして無事自宅で眠りについた。