EP1-6
その後は何事もなく各々で話して、
そろそろお開きかなーなんて思っていたら
「てかさー32歳と言えばさあ、まりあよ」
馬鹿にするように歯をむき出しにしながら笑ってこっちをみる成美。
来た。来る。
「え、まりあが何〜?可愛いやーん」
成美の言葉の意図もわからない同級生の男の子が返事をした。
「いやいや(笑)うちら可愛いって歳じゃなくね?てか成美思うんだけどさあー、30過ぎたら絶対髪伸ばさない方が良いって〜」
はいはい…
自称サバサバと称して《うちらおばさんだから》攻撃ですね
「は?年齢関係なくない?似合ってんだもんいいじゃん」
友梨が"ねー?"と言いながら援護に回った。
「いやね?別にね?ダメとは言ってないんよ、なんか他にもあるやん。そのセットの仕方も今時の若い子がやったら可愛いような大きいウェーブやん?意識しとんのちゃう?」
そのエセ関西弁も嫌いだしね。
『これ幼馴染にやってもらったんだ。普段なにもしないからってやってもらったの。でも気に入ってるよ〜私は』
雰囲気が悪くならないように"普段何もしないから今日ぐらい良いでしょ"を強調したつもり。
「なんかババアが髪伸ばすと重力下がって見えるから老けるらしいよ、切りなよ」
昔もこんなことあった。
成美は自分よりも髪を短くさせたいんだと思う。
この子まだこんなレベルで会話してるんだ…とうんざりしてため息が出そうになったのをグッとこらえた。
『まじ?老けるの?それはまずいね!!ショートで可愛い写真探さなきゃ』
これが私なりの精一杯の返事。
「てか今彼氏は?」
『いないよ』
「え、ま?ま?」
まじ?を省略して、ま?と言う顔にすごくストレスを感じた。
『うん、ま。』
「32で彼氏無しはやばいよ、性格やばいやつ認定されるから。成美の彼氏の友達紹介してやろうか?」
してやろうか?
こういう言葉の端々に下に見られてるんだなあと実感させられる。
『いや!大丈夫!まだ少しフラフラーっとしてから結婚相談所に課金する!』
「いや課金て!」と友梨がツッコミを入れてくれたおかげて、少し張り詰めた空気が和やかになった。
しかしどうして彼女みたいなタイプはこの状況で周りの空気が凍ってることに気付かないのだろうか。
「あとさ、さっき!デパコスのリップ使ってたよね?!」
『え?あ、うん!』
「ただのリップクリームもデパコスとかやっぱり独身は違うよね〜!良いリップ使っても彼氏出来るわけじゃないんだからね!?もったいないよ!!まじ金ドブ!成美なんてメンソレータム(笑)100円のやつ(笑)」
私が返事も出来ずに周りを見るとみんな完全に白けたようにお酒を飲んだり、男の子たちはぽかーんとしていた。
「婚活女子はリップにも気合い入れなきゃいけないのか〜…。成美も今は彼氏いるけど捨てられたらデパコス買わなきゃないのかー」
私もあっけに取られてポカーンとした後、
『いや、これは私の趣味みたいなものだから婚活とは関係ないよ!だからナルは買わなくて大丈夫!』
と慌てて言った。
「まじか〜あたし安物しか使わんからフラれないように気をつけないとやん。」
とまたエセ関西弁。
ブーっと携帯がなってチラッと見ると
【ブチ切れていい?】
と友梨からのLINE。
まあまあ、と宥めるように成美からは見えないように友梨の体をぽんぽんと叩いた。
「あとそのバッグね。同級生しか居ない場所に気合い入れて持ってきたんだろうけど、同級生は狙うのやめてよさすがに〜。別れたりしたら気まずくなるやんけ〜。そんなバック持ってるから彼氏できないんとちゃう?男はそんなハイブラ女嫌だもん絶対!!」
「いや、まりあこのバッグ貰い物だから価値わかってないよ」
と友梨が茶化すように間に入った。
「そうじゃん、やばい…。また思い出したら笑える」
向かい側に座っていた友達も思い出したように笑い始めた。
「貰い物!!??ええええ!!??32でパパ活してんの?!!!」
話の中心が成美から逸れるように笑いが起きた途端、店中に響き渡るような大声で成美が遮った。
「お前さあ〜、声でかいし…うるさい。まりあのこと集中攻撃してるけど僻み?」
とずっと黙ってた男の子が鼻で笑いながら言った。
「パパ活なわけなくない?そんな時間ないよ、普通に考えて。それともなに、ナルがパパ活できるほど時間持て余してんの?」
と友梨が続けた。
『いやいや、とにかくさ!今回はみーちゃんの送別会だから!!!みーちゃん海外行っても頑張ってね!年末年始は帰ってきたらまた飲もうね〜!!』
あ、そうだそうだ!
とみんながみーちゃんに別れを告げて
戦慄のプチ同窓会はお開きになった。