EP3-10
引越して1週間ほど経ったある晩。
コップの中のコーヒーが無くなったので、作業スペースを出て
リビングでテレビを見るレイの横を通りキッチンでコーヒーを煎れた。
コーヒーマシン買おうかなあ
どうせ家にいて仕事するならモチベも上がるし、
作業効率も上がりそうだし買っちゃおうかな。
スマホでマシンを調べながら、ふと思った
『《レイ、美味しいコーヒー飲みたくない?》』
ソファから振り返ったレイは少し考えたあとに
「《今飲みたいか?ってこと?》」と返した
私はコーヒーをコップに注いだ後に、それを持ってリビングのレイにスマホの画面を見せた
彼は少し眉間にシワを寄せて目を細めてスマホの画面を見つめた後、
隣に座ってとソファをぽんぽんと叩いてスマホを受け取った。
「《あ…コーヒーマシン?》」
そうそう、と頷いて座りながらレイの返事を待つ。
「《前にヒョンが少し安いマシンを買って失敗してたから良いやつ買った方がいいと思う》」
とスマホを返してきた
ヒョンは兄さんという意味だから、つまりはグループの先輩のこと。
「《あの、》」
とレイが言いかけてポケットから彼もスマホを取り出す。
「《僕も日本語の勉強をしたいから本を買いたい。》」
と言って、大きなオンラインマーケットの画面を出した。
『《いいんじゃない?》』
「《住所…》」
ああ、そうか届け先がわからなかったのか。
スマホを受け取って入力し、
支払い方法のクレジットカード番号を入力しようとするとすでに入力されていた。
『………?』
誰の?と視線で聞くと「《僕の》」とキョトンと返された。
そうじゃん。多分この子私よりお金持ちじゃん…
カードさえあればお買い物可能なんだ…。
私は勝手に着の身着のままのつもりでいたけど、カード番号なんて記憶しているだろうし現金なんかなくても大丈夫だったのか。
「《すっかりクレジットカードのこと忘れてて、お姉さんにずっと支払いさせてた。ごめんなさい》」
『《それは私がしたくてしてたからいいの》』
お姉さんじゃなくて名前で呼ばれたいな〜
なんて思っちゃったけどそこまで高望みしちゃだめだ。
『《置き配を選ぶと対面しないで受け取れるよ》』
と受け取り設定までしてあげてスマホを返す。
「《わかった》」
そう言った後に少し考える素振りをする。
「《あの…》」
レイは少し暗い顔をして
「《僕が外に出たらどうなる…と思う?》」
と言った。
『《多分ね、どうにもならないよ》』
不安そうにするレイをあえて笑い飛ばして返す。
不安そうな顔を少し解いて顔を上げる彼にさらに続けた。
『《ここは韓国じゃないし、ましてや東京でもないし、さらに郊外だし。こんな場所にレイがいるなんて誰も思わないよ。かっこいいお兄さんだね〜って言われるくらいかな》』
レイは私の言葉を噛み締めるように受け止めたあと
「《次の夕飯の買い物に行く時に一緒に行きたい》」
と言った。
彼が日本に来て間も無く1カ月。
彼の時間が動き出そうとしていた。
その事実が嬉しくて、目頭が熱くなる。
『《うん、わかった。一緒に行こう》』
と明るく言うつもりが、目尻を伝って熱い涙が溢れてしまった。
「《なんでお姉さんが泣くの》」
と笑って返したレイも少し涙目で
このままずっと彼が前を向いて進めるように暖かい日常が続きますようにと改めて願った。




