EP1-3
私は手に持っていたお酒を置いて、
胸に抱えたままだったタブレットを立ち上げた。
『よーし…やるぞお!』
お酒と少しのおつまみ。
肌触りのいいブランケット。
賑やかなライブDVDをBGMにして、
タブレットで彼の絵を描くのが私の幸せな時間。
書いてるだけは勿体無いと思い、SNSも始めた。
最近では応援コメントまで付くようになった。
私の情報は"ただの絵描きが趣味"とだけ。
性別も何も公開してない。
それでも日に日にフォロワーは増えてるから更にやる気がマシマシになってしまうのが人間。
悲しそうに、でも1フレーズずつ大切そうに歌う彼を想って絵を描いた。
この曲を歌う時に彼はなにを思い浮かべているんだろう。
レイ君があまりにも悲しそうに歌うから私まで泣きそうになってしまう。
『んんんんん〜…っ!』
"明日の貴方も幸せに包まれてますように"
一言だけ添えて、描き終えた絵をすぐSNSに投稿すると、直後にコメントが来た。
【なんだか○○の歌を歌ってるレイ君で脳内再生された!絵を見てるだけで歌まで聴こえてきそう!!】
『きゃーー!!そうそう!まさしくそうだよー!!』
早速付いたコメントに嬉しくなって、タブレットを抱きしめて足をバタバタしてしまう31歳。
『…………………。』
そんな自分を客観視したらあまりにも悍しくてスッと真顔になり、抱えてたタブレットをそっとテーブルに置いた。
『レイ君は…見てる訳ないよな…』
ファンミーティングの時に渡した手紙に、このアカウントを書いた。
たまーに自信なさそうな顔をする時もある彼に、あなたは私にとってこんなに素敵に見えてるよ!って伝えたくて。
テーブルの上に置いたタブレットから通知音が鳴り始めた。
投稿した絵に対してのリアクションがついた通知。
『レイ君よかったね〜!みんなレイ君のこと大好きだね!』
どんどん増えていくアクションのハートがこのまま全部彼に届けばいいのになあ。
なんて考えて幸せに包まれたまま眠りに誘われるのだった。