EP1-2
幼い頃から
絵を描くことが好きだった。
物語を読むことが好きだった。
物語は私にもう一つの人生を追体験させてくれるようなそんな存在だった。
本を読んでる時は心が穏やかでいられたし、
登場人物みんなの気持ちになって楽しかったり悲しかったり
いろんな気持ちを体験したつもりになれた。
国を助けるお話し、学生生活の何気ない日常をまとめたお話し、好きな人がいるのにうまく行かないお話し。
挙げればキリがないほどの色々な物語で溢れていて。
その度に風景を沢山想像したし、続きを妄想したりした。
そして気付けば自分が物語を紡いで世に送り出す側になっていた。
あの時の主人公とこんな恋愛がしたい。
あの時の女の子でこんな人を助けたい。
私の全ての物語は自分の妄想から始まっている。
作品を作る時は登場人物達に会いに行く気持ちで作るから仕事は何も苦じゃなかった。
むしろ幸せな時間。
ただ締切に追われるのは今でも慣れない時がある。
それでこその達成感があるのも事実だけど。
アニメ化が決まった途端、目がまわるような忙しさになった。
打ち合わせが終わればまた違う打ち合わせ。
キャラクターのディテールだったり声優さんのオーディション映像の確認、連載の作業も並行して行うし、コミックの新刊が出る時はさらに発売前の表紙制作などの作業に追われる。
アニメ化にともなうコラボカフェの依頼、それの限定グッズの発売…
忙しすぎて目も回してる暇なんてないときだってあった。
だけどそれでも作業に追われる日々がなんて幸せなんだろう、と毎日毎日噛み締めながら仕事した。
そうこうして毎日を過ごしてるうちにあっという間に31歳。否、あと半年後には32歳だ。
テレビに映る彼をいつまでも追ってていい年齢ではない。
『かっこいい…。かわいい…。妖艶…。なんでそんなにハイブリッドなの?レイくん…』
ワイングラスに唇をつけたまま、推しの名前を呼んだ。
FABLEという5人組韓国グループのマンネ(末っ子)のレイ君。私の推し。
カムバックのたびに違う顔を見せてくれて、その度に胸を撃ち抜かれてる。
いまもテレビのなかで真っ白い歯を見せて屈託の無い笑顔を振り撒いて私をドキドキさせてくる。なんて暴力的な美しさなの。
横顔を見るとフェイスラインから耳、そして首筋にかけてのラインは雄々しいのに、正面から見るとぱっちり開いた目は少し鋭くて少し釣り気味で、
さらには鼻筋まで通っちゃってミステリアスな顔をしてる。
薄い唇がまた妖艶で、もういてもたっても居られない。
ファンミーティングが当たった時、
彼の正面に立って目を見て地道に勉強した韓国語で《好きです愛してます》って言うだけで目眩がした。
その時の彼は《もっと愛してください》と言ってニッと笑った。
その時握手した手は、歳下というにはあまり大きくて、男女の体格差をまざまざと見せつけられたような感激のような美味しいような助かる気持ちだったのを今でも覚えてる。
肩幅も広くて身長も大きくて、前に立つだけで包み込まれそうなほど。
頑張ってしたオシャレも、ヘアもメイクも、彼の前ではなんっっの意味もないくらい彼は美しかった。
そう、私は仕方がないくらい
とにかく、彼が好きなのだ。