EP9-5
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カウントダウンライブが終わってステージを降りると、僕のマイクを外しながら音声さんが
「《配信のコメント、レイさんで溢れてましたよ》」
と興奮気味に話してきた。
「《アンチですか?》」
「《いやいや!1番は雰囲気が変わった事についてですよ!なんか男らしいって言うか…男の色気増しましたよね》」
その男性スタッフは興奮したように話しながらも、テキパキとマイクのコードを纏めていく。
「《そう…ですか?》」
「《別人かと思いましたよ!休養中に何かあったんですかぁ〜?》」
「《あー…。大切な人が出来たんです》」
「《え…!!!???》」
「《それだけです。お疲れ様でした!》」
彼は「あっ…」と口を開いたが続く言葉が見つからなかったのか、そのまま僕に会釈だけを返した。
その足で楽屋に戻る途中で一緒に歩いていたシウ兄さんが無言でスマホをぐいっと目の前に差し出した。
【長かったけど、やっとここまでこれた。
ずっと彼を支えて来てよかった。
今日の発表はみんなをびっくりさせてしまったかもしれないけど、これからも彼の決めた事と私達を優しく見守っていただけると嬉しいです。とってもかっこよかったよ。明日の収録でたくさん褒めてあげなきゃ…!】
と書かれた女のInstagram。
コメントは祝福が少しと、批判がほとんどだった。
「《なにこれ。》」
「《先手打たれたな》」
どこまで邪魔するつもりなんだこの女。
「《さすがに次の事務所に移るまでに対応考えないと》」
「《大丈夫、もう手は打ってあるよ。その女がどんなに頑張っても辻褄合わせられないように》」
「《そうなのか?こんな事していずれレイが自分のものになると思ってるところが危ない人間だよなー…。》」
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その後、
日も登らない真夜中にテレビ局に移動して、今度は年明け番組の生放送。
そして放送を終えてテレビ局を出る時に、
知らない女性アイドルに手を掴まれた。
「《レイオッパ。明日ここ予約してるからご飯行きましょう》」
振り返ると知らない女性だった。
誰だこいつ。
手を振り払ってヒョン達の後に続いた。
「《無視するの!?ねえ!!》」
ヒステリックな大声に、ヒョンもマネージャーもみんな驚いて一斉に振り返る。
「《え…ユナちゃんじゃない…?あの…ほらあそこのグループの。》」
「《誰の知り合いですか?》」
「《いやどう見たってレイ、お前目当てだけど》」
「《え!?僕?!名前だってたった今知ったのに!?》」
「《名前知らないのお前だけだよ…。いや〜…キツイぞ。売れっ子の自覚あるからあの子は絶対引かないぞ》」
ヒョンたちは女に聞こえないように小さい声で話した。
「《レイオッパ!私とご飯ぐらいは行くよね?!》」
カツカツとヒールを鳴らして近寄って来て、ぐいっと腕を掴まれる。
「《ユナちゃん…落ち着いて。》」
ヒョンが後ろから宥めるように声をかけた。
「《オッパは黙ってて!ねぇ、レイオッパ!ご飯来てくれるよね?私からご飯誘うなんてレイオッパぐらいだよ!あの女なんかにレイオッパは勿体無いし、私の方がお似合いだと思うもの》」
自信過剰、勝手な理想像の押し付け、傲慢さ。
全部が不快な気持ちにさせてくる。
「《ねぇ、オッパ!なんか言ってよ!私せっかくお店予約したんだよ!?私の誘いを断るなんて言わないよね?!》」
つい口をついて「頼んでねえよ」と言いかけそうになるのをグッと堪えた。
もし言おうものなら、この場にまりあが居たら怒りながら全力で止めて来るだろうから。
「はあ〜…」
キンキン響く耳障りな声についため息が出る。
それにビクッと肩を震わせて、女は泣き始めた。
「《なんでそうやって冷たくするんですか?》」
「なんでそうやって大声で怒鳴りつけてきたくせに思い通りに行かないと泣くの?」
わざと日本語で返すと、日本語の意味が理解出来ずに頭???を浮かべたまま、必死に可愛く泣こうとしてる姿に嫌気がさした。
「《お前さ…》」
と言いかけたところでヒョン達が間に入って僕たちを引き離してくる。
「《はいはい、ごめんごめん〜!今こいつも問題の後で気が立ってるからやめてあげて〜?別にユナちゃんが嫌で断ってるんじゃなくて、レイはみんなにこうだから!今日のところは収めてくれない?》」
「《は…?みんなに…?なんなの?!何様?自分のことかっこいいとでも思ってるの?信じられない…!最低!調子乗らないでよ!!》」
「《調子に乗ってんのはお前だろ》」
「《……!?ひどいっ…!!!》」
後ろからヒョンに口を抑えられて「余計なこと言うな」と耳打ちされる。
走り去る女の後をそのマネージャーが追いかけて行き、うるさいのが全員居なくなった。
何しに来たんだあの傲慢な女。
本当に理解不能すぎてイライラする。
「《お前さあ…わかるけどもうちょっと言い方あるだろ?》」
「《だって、あんなの誰だって頭にくるよ…》」
「《まあね。誘って断られたことないんだろうなあ〜そして若いから怖いもの知らずときた》」
「《ああ…もう…帰りたい…》」
深くため息をついて顔を覆う僕を、ヒョン達は笑いながら《まあまあ。もうちょっと頑張りまちょうね〜》と子供をあやすように抱きしめてきた。




