第109話 回想
「?楽しいに決まってるじゃん。楽しいから打ちに来てるのよ。」
日差しのおかげか暖房をかけずとも快適な車内。ヨーケイに向かう道中であいつの言葉が脳内で再生される。・・・おれもそうだったよ。演出の結果に一喜一憂しながら楽しく打ってたさ。それが年月をかけて少しずつ勝ち方を覚えていく。そうなると勝ち額の上昇に比例するように勝てない時のストレスが大きくなった。いつからかは覚えてないけど演出なんかまともに見てないことに気づく。昔はプレミア演出や大量上乗せの度に写真撮ってたのにさ。
「ん。まぁ今日は設定気にせず遊ぶ日でもいいんじゃない?どっかの誰かが言っていた。「10%の遊び」が大事だって。」
・・・この言葉は少し衝撃だったな。「その通りかも」と思ってしまったよ。100%の遊びは金銭が動く以上ありえない。けど100%の作業だったらなりたくなかった社会人となんら変わらないもんな。生活していく以上、遊びではない。けれど10%ほどの遊びを取り入れることはこの生活を続けていく上では大事なことなのかもしれない。まさかスロットを教えたやつからこんなことを教えてもらえるとは。ふっ。おもしろ。
「なぁ。今日ゲーセンいかね。」
「わり。もう金なくてさ。」
おいおい。昔の回想なんてやめとけよ。スロットの演出だけにしとけや。
「そっか。また今度な。(今日は一人か)」
この頃は家に帰りたくなくてひたすらゲーセンで格ゲーやってたな。一緒に行くあいつも金がもたないのか一人で時間をつぶすことが増えた。そんないつもの学校帰り。セカンドバックに入れた私服に着替えて一人でゲーセンに。対戦相手の友人もいないし少し店内をうろうろしていると、ちょうどハマっている格ゲーのスロットがゲーセンにおかれているのに気付いた。鋼拳のスロット。これが始まり。
「なんだよ。これ。」
興味本位で遊んでみたが1000円入れても当たらない。当時のおれには大金だったから悔しかったなぁ。その日はゲーセンの喫煙所で時間をつぶして帰ったっけ。
「ザァー。」
あぁ今日もノイズが聞こえる。何故だか分からないけど当時父親からの言葉が全部ノイズになっちまって聞こえなかったな。自分じゃ聞き取れないから母親に聞いたことがあった。
「親父はおっかねぇ顔していつもなんて言ってるんだい。」
「「おれはこんなにも仕事で大変なのにお前らは楽してる。それなのにその態度はなんだ」って言ってるよ。」
多分社会人になりたくねぇなと思い始めたのはこの頃だな。社会では優秀な人でも家庭じゃノイズメーカー。こうはなりたくなかったんだよ。
「なぁ最近スロット始めたんだけど一緒に行かない?」
「え。あのお金かけて遊ぶ機械でしょ?さすがにやめとくわ。」
そう。この頃に誘ってたんだよな。まさか時を経て向こうから声がかかるとは思ってなかったわ。さて、それはさておきこの前ゲーセンで負けた悔しさで色んなことを調べた。どんな機種があるか。どんな仕組みで出玉が増えるか。どんなお店があるか。どんな人たちが遊んでいるか。そしてどうすればスロットを生業として生活していくことができるか。調べるほど決して簡単じゃないことは分かったが、社会人にならなくてもいいならばと思うと自然に行動に移していたっけ。
「なぁ、最近ゲーセン行ってなくね?」
「思ったよりスロットが楽しくてさ。ゲーセンに使う金と時間が惜しくなっちまったよ。すまんな。」
「楽しいことが見つかったならいいんじゃない?まぁたまにはゲーセンにも一緒にいこうぜ。」
そうだった。あの頃は楽しくて楽しくて。少しでも多くスロットを打つために下校したらすぐバイト。高校生のバイト代なんてたかが知れてて一日で一月分の給料がなくなってしまうこともあったな。逆に1日で倍になったりしたこともあった。悔しさも喜びもすべてが新鮮で充実していたと思う。この頃にノイズメーカーが死んだ。一応式には出た。今でも覚えている。泣いているのは会社の人だけ。母親とおれは瞳に浮かぶ涙の欠片すらなかった。
「もう好きに生きなよ。おれは一人で生きていくからさ。」
式の後。今日とは違う快適ではない車の中。今まで大変であったであろう母親にかけた言葉。心から出た言葉だった思う。
「・・・あんたがどう生きようとしているか分からないけど高校卒業まではうちに帰ってきなさい。それからはお互いに好きに生きよう。」
悪い提案ではないはずなのに。ノイズはもう聞こえなくなるっていうのに。心はまだどこかどんよりしていた。
時は経ち宣言通り高校卒業と同時に家を出た。この頃には少しずつ楽しさの中にストレスが紛れ込んでいた気がする。苦しかった時期も多く、掛け持ちでバイトもしたが、オリスロが流行りだしてからはこれ一本でなんとかなっている。
さて、回想終わり。ヨーケイだ。発展→「楽しんで勝利せよ!☆4」って感じかな。