106話 運とは3
少し沈黙タイム。サイレントゾーン。追加注文したかっぱ巻きのきゅうりを口の中で転がしていると後輩が口を開く。
「少し考えてましたがその考え方、ストレスの軽減にはいいかもですが本来の立ち回りからずれてません?例えば今は運が悪い流れだと思えば荒波AT機の設定6より技術介入機設定4とかの方がいいってことですよね。そんな機械割を無視したような立ち回りでストレスを軽減するために期待値を捨てるのはどうも納得いかないですよ。」
・・・言われてみるとそうだな。そうゆうニュアンスに聞こえるよな。さて、どう返すかな。
「そうだな。設定6と4を比べて明らかに期待値が違うものも運の流れを理由に4に座るかと言ったらそれは違うかもな。間違いなく6ならAT機でいいと思うよ。前提として機械割がおおよそ同じだと思われる時にどっちを選ぶか、くらいの気持ちでさ。」
難しいな。答えがないゆえに柔軟であるべきだとは思うけど。「運の流れ」と「期待値」。どう落としどころをつけるか。
「そうですよね。計算されて目に見える期待値とつかみどころのない運の流れじゃどっちに重きを置くか。それは期待値ですよね。」
少しは元気になってもらおうっていう目論見は失敗してしまったかも。まぁこの際全部吐き出してもらうこともそれはそれですっきりするのかな。わさびと混ざった醤油。頭の中もこんな色。
「せやな。けど「運の流れ」に身を任せる人もそれは決して馬鹿にはできないと思う。だって運の個体差があるのは感じてるんだ。少なからず期待値だけでは説明がつけがたい何かはあると思ってるんじゃないかい。」
後輩、ショートフリーズ。数秒の沈黙を破り回りだすのはリールではなく舌。
「・・・まぁ馬鹿にするつもりなんてないですよ。たしかにこっちが確率通り引けなくて苦しんでる最中に隣に座った方がすぐにフリーズからタコ出ししてるのとか見せられちゃうとね。けどそれに重きを置いてしまったら戻れなくなる気がして。・・・逆に先輩はどうなんですか。むしろ先輩こそ「運の流れ」に頼った打ち方はしてないと思うんですけど。」
・・・たしかにおれは調子がいいかなって時もあんまり荒い台打たないな。ここ最近はアケうにょばっかり打ってたしそうも見えるか。
「・・・そうかもな。アケうにょは運の流れに左右されづらい台の代表格かもね。けど気にするようにはしてるよ。運の流れ。「不確かだから無視していいもの」ではないとは強く思っている。まだ手探りの中ではあるけどさ。」
同じようなこと何回も言ってない?遊技説明かって。まぁ許してくださいな。・・・二人とも注文する手が動いていない。そろそろか。
「まぁ結局のところ「運」は無視できない要因なのは間違いないよね。おれは運のなさを嘆くより流れる運とうまく付き合っていきたいなっていう感じ。コンジの運も上向く時期があると思うんよ。できるだけ楽しんでいけたらいいなってこと。」
無理やりしめた。今はまだお互い自分の考えはあれど完全には自分の中に落とし込めてないってとこだろうか。また半年後とかに同じ話をしてみたい。お互い今より運の本質に近づけているのか。それとも運を切り捨てているのか。
「・・・そっすね。もうちょい気楽に考えつつしばらくは堅実にメダルを増やすことに専念したいと思います。」
相変わらず少し複雑な表情の後輩。元気になればという目論見は達成できなかったがこれはこれで有意義だった。・・・さぁそれではごちそうさまでした。帰りますぞ。会計を終えて車を走らせる。もう食べる前のような張り詰めた空気ではない。後輩よ。これからも楽しんでいこうな。