103話 やめるのか
「向かう前に一服行ってくる。車で待っててよ。」
後輩に愛車の鍵を渡し喫煙所に向かう。・・・なんか泣きたそう見えたからさ。少し一人にさせてあげた方がいい気がした。すっきりしてもええんやで。
喫煙所で煙の深呼吸を繰り返しながらウニの提供がある回転寿司屋を検索。・・・まぁ少し距離があるけどこの時間なら道はガラガラ。ここにするか。30分もあれば着くかな。ふぅ。吐き出した煙を眺めながら後輩のことを考える。ほぼ一緒にオリスロを始めて約半年、めっちゃ楽しんだことは間違いない。けど、ここ2か月ほどの後輩の負け額は相当ヤバい。40万円くらいは負けてるんじゃなかろうか。今日火花を選択したのもすでに資金が尽きかけていたからかも。運がないならせめて技術で取り戻そうと思ったところ、今日の実践で金も心も折られたってとこだろうか。ウニ食って元気になってくれるといいんだが。・・・よし。そろそろ戻るか。
回転寿司へ向かう道中。今日は車で流す楽曲の音量を少し下げた。後輩の声を聞き逃さないように念のためってやつさ。
「先輩はアケうにょで結構勝てるようになってきてますよね。」
いつもとあまり変わらない声のトーンで後輩に尋ねられる。きたな。
「まぁな。もともと「やりこめば勝てるようになる」を実現したかったようなコンセプトの台だし。大爆発はないけど少しずつ増やしはしてるね。」
次に後輩が発する言葉がなんとなく想像できる。
「正直羨ましいです。もちろん練習とか考察の成果もあるとは思いますが、ある程度確率通りに引ける普通の運を持っていて。・・・私は運には見放されているみたいですから。今日はそれを覆す技術もないことが判明してしまいましたし。」
予想はできていてもすぐに返す言葉は出てこなかった。今までこういうこと言うタイプじゃなかったからなぁ。今回は結構へこんでることは分かる。個人的には運の悪い偏りは一時的なものだと思うし、これからも続けてほしい気持ちが強いけど。後輩の生活や今後を考えるとオリスロと距離を置いた方がいいのかもとも考えてしまう。
「コンジはこれからどうしたい?」
あえて後輩を名前でよんで問いかけてみた。(漢字だと献治、最初は「ケンジ」かと思った。)後輩は賢い。おれがどうこう考えるよりも、最後は自分で正しい答えを出すと思った。
今度は後輩が沈黙。
「・・・やめた方がいいんだろうなって思ってます。」
だろうな。なんとなく感じていた。
「・・・そっか。とめたりはしないよ。うん。結果は散々だったかもしれないけどおれは一緒に打てて楽しかっ。」
「とめてくださいよ。」
言わせんとばかりに後輩が割り込む。おれは「?」を浮かべながら次の言葉を待っていると静かに笑った後輩が続ける。
「もう一度言います。やめた方がいいんだろうなって思ってます。けどね。続けたい。まだ楽しい時間を過ごしたいんですよ。これだけ負けててもね。あ~あ。先輩とオリスロ遊び始めてから馬鹿になっちゃったみたいです。」
・・・後輩よ。それでこそおれの後輩よ。