第九話 アストロベニア防衛作戦 3
赤級討伐も終わり私のやることが一段落したところで、アストロベニアの正門へ戻ってきました。
正門にはどうやら新米兵士だけが残留しており、一等兵や上等兵分隊長クラスの称号を持った兵士などは見当たりません、多分私が倒し損ねたというか残しておいた神罰を倒しに行ったと思われます。
やはりアストロベニアの殆どが新米兵士達で構築されているせいか正門の前はかなりの兵士が残留しております、こんないい機会が来たというのに新米兵士を実戦で導入しないとは、個人的には宜しくないと思いですね。
私があの提案をしたのは新米兵士たちを実践でも導入出来るようにするためであったのですが、少し残念な気持ちです。まあ、その他にも提案した理由は在りますが主にこれだと思います。
そんなことを考えながら私は正門近くで設営されていたテントの下へと入りました。
「お疲れ様です、霙様」
テントの下へ入ると出迎えてくれたのはイズマ中尉でした。
引率はどうやらノースフロウ偵察准尉殿とガルイ少尉殿の用です、イズマ中尉は変わらず椅子に座って机上に広げられた地図を見ていましたが、私が来ると否やキリッとした顔になり素早く椅子から立ち上がり労いの言葉を掛け敬礼をしました。
「はい、お言葉感謝します、イズマ中尉殿」
「ささ、椅子に御掛けになって下さい、お疲れでしょう」
私はその労いのお言葉と敬礼を返して、イズマ中尉に促されるまま椅子に着席します。
ノースフロウ偵察准尉とガルイ少尉がいないこのテントの下、私とイズマ中尉は対面で座る形となっています。
「今回の討伐はノースフロウ偵察准尉殿とガルイ少尉が行っているのですね」
「え、ええ、そちらの方が適任でしたので」
私は着席するとイズマ中尉にそう声を掛けます。
「イズマ中尉は行かなくてよろしかったのですか?今回の戦いで戦果を上げれば昇進出来たのでは?我が国の食糧庫と呼ばれるアストロベニアの危機を救う一人者になったというのに、ノースフロウ偵察小隊長とガルイ小隊長殿にその戦果を上げるのですね」
「え、ええ、まぁ、そうですな。ガルイ少尉とノースフロウ偵察樹准尉には今回には華を持たせてあげようかと、私もその方が良いと判断したもので」
「そうですか」
私の問いに関して、イズマ中尉は時折目を逸らしながら答えてくれました。
これは、嘘ですかね。華を持たせる気はないように見えます、真摯に向き合って答えていれば私を誤魔化せたかも知れませんが明らかに怪しい、これは二人の戦果を我が物にしようとしている根端が見えます。
上が上なら下も下でしょうか、カマル大尉に影響されたのでしょうかね、他の人の戦果を我が物顔で自分のモノにする悪知恵。
最も私がここに来た以上そういう行動は出来ませんがそう言うのわかって言っているのでしょうかこの人は。
「分かりました、二人の戦果に関しても私からもトロス様に言わせてもらいますね」
「あ、いえ、二人の戦果のご報告に付きましては私がやらせていただきます、霙様の御手を煩わせるには行きませんので」
私がそう言ってあげるとイズマ中尉は狼狽しながら申し訳なさそうに拒否を示しました。
「私が報告をするのはなにかご不満でもありましょうか?」
「いえ、とんでもありません!先に言った通り私はただ霙様がお手を煩わせるわけには」
「大丈夫ですよ、そんなことありませんから、いいですね?」
「は、はい‥分かりました。」
このような人物に対しては圧が手っ取り早いですね、今の状況じゃ私が権力を使ってイズマ中尉を脅しているような構図に見えるかもしれませんけど。
そんな状況の中一人テントの下に入ってくる影がありました。
「申し訳ありませんが、部下を虐めるのをやめてもらっても宜しいでしょうか霙様?」
そんな言葉と共にテントの下に入ってきたのはでっぷりとした体をしているカーキー色の軍服を来たカマル大隊長でした。あの城塞の頂上から急いで降りてきたのでしょうか、やや息を切らしながら脂汗を拭いています。
「いえ、虐めてはおりませんよ。カマル大尉殿」
私はそんなカマル大尉殿の言葉に変わらない声色で否定します。
無理に強く反発してしまうと、後々面倒事に発展しかねませんのでここは穏便に済ませたいところですが、相手がカマル大隊長ですから中々厄介な絡みをされそうです
「私から見れば、そのネームドという素晴らしい権力でイズマ中尉を脅しているように見えますが?そうでしょう、イズマ中尉?」
「は!は‥はい」
変わらず下卑た表情で、浮ついた声色で話してきますねこの人は、やはりイズマ中尉殿もカマル大尉に逆らえないのでしょうか肯定するしかないようですね。
まるで水を得た魚のようにカマル大尉の口からは嫌味口がつらつらと発せられていきます
「ネームドとあろうものが、そんなことしても宜しいのでしょうか?上の立場にいるからと言って私達を脅すなんて、それがネームドのすることでしょうか?ネームドというのは私達人類を導くものなのではないのでしょうか?そのネームドとあろうお方がこんな事していると世間へバレてしまったら、貴方はどうなるのでしょうか‥ね?」
イズマ中尉の肯定によってさらにカマル大尉の嫌味口の拍車が更に掛かっているように見えます。
やはり、この人の言葉一つ一つに虫唾が走ります。ですがこのような分かりやすい口車に乗せられてしまってはネームドとして恥ですから、優しくその嫌味口を諭してあげましょうか
「お言葉ですが、あの状況は私がイズマ中隊長の代わりにトロス様にノースフロウ偵察准尉、ガルイ少尉の戦果をトロス様にご報告させていただくと申したまでです。イズマ中尉を脅すように見えてしまったのは申し訳ございません。」
「何故、イズマ中尉を脅すような圧を掛けたのでしょうか?」
「それはイズマ中尉が私に御手を煩わせないためにと私からトロス様のご報告を頑なに拒否しましたので、申し訳ありませんが使わせて貰いました。ご報告程度簡単にできますので、お手を煩わせるなどありませんからね、これで宜しいでしょうか?カマル大尉殿」
私はカマル大尉の手を肩からどかして、何故あのような状況になったかを説明してあげました。勿論満面の笑みで、カマル大尉は私の説明を受けてから下卑た笑みからバツの悪そうな顔になっていました。
「左様でございましたか、疑ってしまい申し訳ありませんでした。この大隊長カマル深くお詫び申し上げます」
「ご理解いただけて何よりですよ、カマル大尉殿」
諦めが早い、少々驚きましたがこれは嬉しい誤算です。
これにてカマル大尉の謝罪も頂いたことですしアストロベニア防衛作戦の私のやるべきことは終わりました。
私は踵を返して、カマル大尉の横を通りテントの下から出ていきます
「霙様どこへ?」
「トロス様のご報告のため、一度街に戻り、荷物を持ってきてから首都トロスまで行こうかなと」
「左様ですか、では門が開くまで少々お待ちを」
「はい」
私はそう言って燦爛と輝く太陽の下へと足を延ばす、時刻はお昼時、太陽が空に天高く上がっているのが見えます、私は掌で小さな影を作って光を防ぎながらアストロベニアへと戻りました。
それからアストロベニアの街の中へと戻り、宿場へ足を赴き、荷物を受け取って、またあの固く閉ざされた門へ足を運びました。