第七話 アストロベニア防衛作戦 1
「―――シッ!」
一閃、素早くそして鋭い私の一太刀。
それは神罰の横に真っ二つに斬った、感情と殺気を乗せた刃に『力』を乗せて綺麗に一刀両断。綺麗な断面を見せて転がる数体の神罰を横目にノースフロウ偵察准尉に先陣されながら森を駆ける。
「孤立した神罰を発見、宜しくお願いします」
「了解」
私は孤立した神罰をノースフロウ偵察准尉の発見と共に抜刀術で斬り捨てる。
神罰は人間と同じ頭脳を持つ奴はいるが、今回の進軍ではある一定の動きしか出来ない緑級の神罰が多くいるお陰で、孤立した奴が多い。
私達はその孤立した神罰を狩りながら森の中を駆けている。
逸れの神罰を倒した数は、精々二十体程度、約千体の神罰の大群にとっては痛くも痒くもない数だ。
「やっぱり、大群を目の前に相手どらないと数は減らせませんね」
「そうですね」
一刀両断された神罰を見ながら私は刀を鞘にしまう
鬱蒼とした森の中に居るのは死んだ神罰と私達だけ、野鳥の声も聞こえなければ風が吹き抜ける音も聞こえない、ただ聞こえるのは二人の息遣いと草木をなぎ倒しながら進んでくる神罰の足音だけだ。
「あともう少し神罰進行の目の前に見えると思います、心のご準備は宜しいでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
ノースフロウ偵察准尉にそう聞かれて私は頷く、ここが奴らと争う場所だ。私は息を呑んで腰を低くし迎撃態勢を整える。
急に神罰が襲って来ても大丈夫なようにと
奴らが来るんだ、そう思うと自分の足が震えているのが見えた。
私はそんな自分を見てやっぱりかと思いながらため息を付く
「霙様、怖いのですか?」
「‥‥ええ、先の戦いでトラウマを植え付けられたものですから」
ノースフロウ偵察准尉に気付かれてしまったが私はすぐ肯定をした、隠す必要なんてない事実なのだからトランザル平野の戦いで私は大量の神罰に対して恐怖を植え付けられている
「来ますよ」
「‥‥はい」
視線の先に見えるのは土埃を立て木々をなぎ倒しながら真っ直ぐと私達の前に進んでくる大量の神罰達。
足が竦む、トランザル平野で感じたあの死の瞬間を荒れ狂う波のように襲い掛かる神罰、仲間の悲鳴、身体の節々に感じる激痛、そして圧倒的な蹂躙という恐怖が脳裏に焼き付いて離れない。
私とて、これ以上の死というものに直面して恐怖を抱かないものはないのだ。
「はぁ‥」
彼は今どんな顔をしているのだろうか、私が神罰に対して恐怖を抱いていることに蔑み、落胆、分からない、考えたくもない。
「霙様には申し訳ありませんが、宜しくお願いします、我々は貴方はアストロベニアの希望なのですから、」
「任せてください」
無責任な言葉だ、それに同意してしまう私の正義感も嫌いだ。
刀を握りしめる力が強くなる、奥歯を噛みしめて自分が持つ今の恐怖心を抑える
やっと視えてきた奴らがこの眼ではっきりと、今はこの戦いに集中するんだ
ノースフロウ偵察准尉は後ろに下がっている、あの大群と戦うのは私一人だけ
ああ、あんなこと言わなければ良かったと思う、でも今更後悔しても遅い、だって私はネームドですから、ネームドだから人類のために前線へ立ち希望を見出さなければ
人類のためなら、この命を捧げて戦うと決めたネームド霙なんだから
過去のトラウマなんて、恐怖なんて大丈夫。大丈夫、怖くないから
「私は強いから」
私はその言葉を胸に大群へと一歩踏み出した。
―――――
手に残る感触は相変わらず不気味で気持ち悪い、生き物を殺したときのような血飛沫は飛ばないし、斬り飛ばした死体が地面を転がるだけ。
でも、何故か手に残るのは生命を絶ったような感覚、血も流さないのに、一定の行動しか起こさないのに、命というものは神罰には流れている。
「ッ!」
私を殺すためだけに襲ってきた神罰を斬り伏せ殺す。
奴らは人類を殺すためだけに神々が創り出した化物だ、こいつらには命令を忠実に従う意思はあれど、感情というものはない
「―――ッ?!」
神罰というのは感情はない、その筈なんだ
でも私の眼下に起きている状況で、その理屈が覆った。
「なにこいつ」
私は倒れた神罰の前に立つ、両足が切られたために身動きが取れないようだった
でも、まだ死んでいない、致命傷に至っていない、だからとどめを刺そうと刀を振り上げた。
神罰を殺すのには躊躇は要らない、だから私は無感情で殺せた
なのに
私の眼下で倒れている神罰は刀の攻撃から逃れようと必死に身体を動かしている
まるで神罰に恐怖心があるように、殺さないで、殺さないでと命乞いをしているように見えた。
「は」
人が死を恐れるように、神罰は死を恐れている。
私は自分の目の前で起きている現状に理解が追い付いていなかった、いやこれは追いついていけない理解しちゃいけないそう思ったとき私は刀を強く握りしめて、倒れている神罰に向けて命を絶つように刀を何度も刺す。
「‥‥‥」
私は未曽有の事態の思考を塞ぐように無表情で、無感情で刀を刺し続けた。
こんな状況を理解してしまったら、私はもしかしたら神罰に刀が振れなくなってしまうと思うそれだけは避けなければ、私は恐怖心を今までの怒り、憎悪、恨みを込めて変えて、倒れた神罰に深く刀を突き刺した。
神罰共には発声器官はない、だから行動でしか命乞いが出来ない
なら殺してしまえば終わりなんだ、この醜い命乞いも見なくて済むんだ。
そしてあの命乞いはなかったことに出来るはず。
身体がバラバラに砕けるほどに私は神罰を刺し殺した、これであの悪夢を忘れることができるんだ。私は肩で息をしながら刀を引き抜き視線を大群の神罰へと戻す。
「あれ‥?」
視線を戻せば私の眼前には神罰が死体だけとなり、その他の神罰は忽然と姿を消していた。
無意識のうちに約千体を倒していた、いいや、そんなわけがない数を数えても約千体の神罰の死体はない
「なんで、どういうこと、神罰が逃げた?」
神罰が逃げた、理解が追い付かない。
摩訶不思議な事態に二度も陥った私は、脳の処理が出来ていない。
「駄目」
私は頭を横に振って思考を完全に放棄する、そして後ろに隠れていたノースフロウ偵察准尉に目を向ける。
「ノースフロウさん」
「は、はい!」
「私は今からやることをやってきますのでご報告をあとはよろしくお願いします、」
「分かりました」
今はあれを考えるよりも先に赤級を探し出して殺した方がいい、神罰の数はかなり減らしたしあとはアストロベニアの兵士たちでなんとかなるだろう。
私は刀を鞘にしまい、赤級討伐のためにまた森を駆けた