第三話 アストロべニアでの一幕
トロス帝国の南西部に位置する街、アストロべニア。
街の広大な土地を持ち大半が田畑や農園、牧場などが多くの自然に恵まれ農作物や果物が農業が盛んな街、そして気候も良く過ごしやすい環境
雨季も多く、肥沃の地でもあり、大きな地下水も点々と存在しており食料などの出荷が一番多い街である。
アストロベニアはトロス帝国の食糧庫と呼ばれ、トロス帝国が最も誇れる最高峰の街であり山に囲まれ、自然豊かでありながら、神罰もここの土地に滅多に現れないという
この国で、一番平和と自然に恵まれた街と呼ばれている。
その代わり軍事的力は乏しく、街の殆どの住民が農民である、戦える兵士などは少なく
赤クラスの神罰が一体来ただけで滅びかけるほど軍事力が無い街であったため
トロス帝国側は食料を貰う代わりとしてアストロベニアには軍事的武器などの支援をしている。
―――
太陽が燦爛と輝く夏から秋に掛けて収穫時期が来て、冬になると収穫も一段落着き
次の年も豊作になるように頑張ろうというわけでこの時期になると街全体で宴が始まる
男も女も子供もお年寄りも、今宵は外に出て宴に参加し、収穫した農作物や果物、動物の肉で作られた料理を食している。
例えばアップルパイとか、串焼きとか、スープとか見ているだけでお腹が鳴る。
大人は穀物で作られた酒や果実酒などを飲みかわし、子供は果物ジュースを美味しそうに飲む
こんな祭り時期に来たのかと後悔しながら自分は道を歩く。
しかし、まあ私があんな地獄を見て来たのに露知らずの彼らは呑気に酒を煽っている、少し羨ましい。
地獄を見た原因は私にあるのだけどね
「‥‥」
私はお腹が空いているのをグッと堪えて足早に宴会場となっている広場を抜けていく、
夜の肌寒空を頬で感じながら、賑わっている広場を横目にごぢんまりとした雑貨店のドアを引く。
「いらっしゃい」
こぢんまりとした雑貨店に店主の声が籠った。
カウンターに木材で作られた椅子に座っているのは一人の老婆堅物そうな顔をしているなんかこっち睨んでる怖い。
私はそんな老婆に軽く会釈をして動物の毛皮で出来たマット踏み、木々の匂いと色々な薬草が混じった雑貨店の中を歩き必需品を探す
依然として堅物そうな老婆は私の嘗め回すかのように見ている。
全身の毛が逆立つような恐怖を感じながら、雑貨店の奥に進んでいった。
「これ、とこれ‥」
雑貨店は便利だ、結構な確率で色々な必需品が並んでいるし、珍しい物やこの街の特産物まで取り扱っている。私もこの雑貨店の気になるものを見つけたのだが、今は必要ではない。
私が今欲しいのは数日分の食料と薪ぐらいだ
「お願いします、あとあったら薪も数本あったら下さい」
「はいよ」
瓶に詰められたここのおばあちゃん特製の漬物と、干し肉を数個買い
薪も欲しかったので老婆に頼んでみるとあるみたいで立ち上がってカウンターの後ろ側へ行った。
数分後、老婆がかなりの数の薪を持ってきてくれた。
「おばあちゃん、そんなに要りませんよ。そこまでお金出せる訳じゃないので」
「いいさね、薪の代金は要らねぇ‥その代わりアンタ、一つ聞いてもいいかい?」
「え、はい」
「あんた獣人だろ、フードやジャケットで隠れて見えてなかったがしっかりと耳と尻尾が生えてる、薪を無料にしてやる代わりにその耳と尻尾触らせてもらえんか?」
そんなことを言われて私の顔は一瞬ぽかんとしてしまった。
でも、すぐさま意識を取り戻して老婆のお願いをどうするか考える。
これだけの薪をただで貰えるなら、これぐらい大丈夫だよね
「はい」
私はその答えに快く了承してしまった。
結果、堕ちそうになるぐらいの撫で方されてやばかったです。
「ありがとねぇ」
私の毛並みを存分に堪能したあの老婆は入ってきた時よりも優しい顔して私を見送ってくれた。
「あのおばあちゃん、凄かった」
それに対して私は顔が真っ赤になるほどの心地よさでやばかった。
うん、語彙力が無くなるほどやばかったです。うん、今度からおばあちゃんには気を付けようと肝に銘じた私であった。
「よし、」
ある程度必要な物を買いこんで胸に抱える。
私は雑貨店を後にして、宿場へと戻るために歩き出す、月明りと宴で灯された火がこの街を彩る。高所から見たらどれだけ美しいのか、
いけない、いけない、今こんなこと考えている暇はない。
「必要な物は買ったし、明日の準備をしよ」
今回買ったのは数日分の食料と薪数本とサバイバルナイフが少しガタが来ていたので研ぎ石を買った。
これだけ買ってもあまり代金が張らなかったのは嬉しい誤算でした。
「神は我々を裏切った!弱者を守るのは強者の務めを放棄し、神々は我々を裏切り『神罰』を地上に送り出し、毒の濃霧を散布させ人類を抹殺しようとした、この唾棄すべき神々の裏切りにより我々人類は窮地に陥った!」
いつの間にか宴会場では簡易ステージが作られていて、ステージの上では昔話を物凄い熱量で語る、語り部が座っていた。
大人も子供も酔っ払いも皆、この語り部の話に夢中なようだ。
先ほどの宴会騒ぎは消え失せ、語り部の熱く心に響くような声が木霊する
「だが!四人の神は我々を見捨てなかった!、強者は弱者を守るという義務を果たすべく、四人の神々は我々人類に希望を与え!神々を打ち倒す力を分け与えた!その我々人類存亡の軌跡を与えたものたちの名は―――!」
女神リリス。獣神トロス。龍神ナツメ。人神メシア。
これが、我々人類に希望を与えた四人の神々。
そして、我々人類が慕い、憂い、祈りを捧げるのがこの四大神。
この四大神は東西南北に自信を信仰する国を創り上げ神自ら統治している
絶対的強者である神に人類は抵抗などはしない、四大神を従い、敬い、信仰する
四大神は以外信仰はしない、それ以外を信仰してしまったら思い罰が下される。
これがこの世界の絶対的ルールなのだ。
そしてここノーリッジ大陸、西に位置する国獣神のトロス様が統治しているトロス帝国。
首都トロス
そこが私の故郷であり、今回の報告をするために行く場所である。
「誰もいない」
宿場に戻ってくると閑散な場所になっていた。
こうなった主な原因は外で行われている宴だろう、まさかここまで静かになるとは
受付だった人も居なくなってるし、あと数分遅かったら宿場のチェックイン出来なかったと思うと少しゾッとする
ここの宿場は泊まると昼食と夕食が頂けるというので、ここで晩飯を頂こうとしたのだが
厨房はガランとして誰も居なくて、カウンターに食パン一切れとジャムが置いてあった
まさか、これだけで我慢しろというのか。
「まあ、背に腹は変えられないね」
宴席で何かを飲み食いするのは贅沢過ぎますし、こんな私が楽しんでいいのか
これは自分に科した罰だから、受け入れるしかない
私は一番奥の席に座り、食パンにジャムを塗っただけの質素な食事を取った
質素な食事にしてはかなりの美味な味でした。
———
私はベッドに腰を掛けて仰向けに倒れた。
天井を見上げ、今日の疲れを取るかのようにため息を付く
「‥ちかれた」
明日にはここを立つなら早めに寝た方がいい、雪山での戦闘でかなり身体も疲弊しきっているみたいだし。
それに身体が完全に冷めきっているみたいだから身体を暖めたい
「ううぅ‥これで明日風邪とかになったら洒落になりません」
私はダウンジャケットを着たまま布団に潜る。
これで今の寒気を無くすことができたのなら万々歳、外ではあの語り部のお話も終わったみたいで、宴も最高潮まで上がっているようです。
街は宴で騒ぎ、私は布団に包り眠りに付く
私はまるで猫のように身体を丸めて身体を暖めるように静かに寝息を立て始めた。