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ビッグダディ  作者: 影迷彩
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序章

~この物語を書くキッカケとなった、私の友、私の学生時代に友情を込めて。


 あの頃抱き続けた未来の空想は、未だどれも現実にはなっていません。

 現実は昔と代わり映えのしないまま、世界の歯車にもまれる日々です。


  退屈でままならない人生だと思ってるだろう昔の私たちへ。それは今でも変わりませんが、変わったのは当時の私たちを愛しく思えるようになったこと。

 空想に浸り、語り合った日々が、今でも私の宝物です。


 その宝物を胸に抱き続け、未来を空想する頭は忘れていません。それは私なりの愛として、こうして文章という形になりました。


 過去は変わらず、未来は不明です。

 空想を見続けるロマンだけが、その現実を生き抜く希望です。それを持ち続けた私たちに、美しい友情よあれ~




【時空警察ビッグダディ】


 ──俺の名はビッグダディ。時空警察のエージェントだ。

 任務は様々な時代に影響を及ぼしかねない物品“シンギュラリティ”をこの手で破壊することだ。

 

 今回の任務、時代は2011年、場所は日本の科学施設。

 深夜に運ばれたとされる“シンギュラリティ”該当の物体を破壊しに、俺は単身で突入した。

 突入と防衛の衝突による余波で崩れた壁、割れたグラスから火花を散らす電流コード。 

 電子霧によるインフラがない旧時代=俺のいる現代の研究施設を調べ回り、研究者や警備員を全て拘束し俺はこの施設の主任に尋問を始める。


 「プロフェッサー・シヅといったな。ここに運ばれた物があるだろ。俺はそれを破壊する任務を帯びている。それ以外に用はない。妨害や黙秘を続けるなら再び攻撃を開始するがな」


 俺は身を屈め、目の前の壮年の男を見下ろす。長身の男であるが、俺の方が倍の大柄な体躯だ。

 男=プロフェッサー・シヅは困惑と恐怖の表情で俺を震えながら見上げる。眼鏡の奥の瞳に写るのは、黒コートを羽織った、熊の顔をした大男。被り物だと思ってるだろうが、俺は改造手術によって熊と融合した、正真正銘熊の顔をしてるのだと言うことをわざわざ教えることはしない。


 「俺が怖いだろうが、必要以上に怯えるな。無駄な殺生はしたくないし、任務を終えれば即帰還する。喋れないなら指で示せ。ここに直近で運ばれた物品の場所を教えてくれ」


 ガクガクと震えていたプロフェッサー・シヅであったが、おそるおそる口を開き始めた。


 「そ、そんな物は知らない……」


 「本当だろゥなァァァァァァァァ!!!」


 プロフェッサー・シヅの返答に、俺は大口を開けて吼え、尋問を続行する。


 「隠し立てするならァ容赦はしねェからなァァァァァ!!」


 「本当だ! ここ最近、ここに運ばれた物などない! 確かに近々、ここに来る物はある。しかし、それは明後日なんだ。まだこの国にも来ていない! 」


 俺は立ち上がり、周囲を見渡しながら思考する。施設は粗方破壊しても探し回ったが、確かに“シンギュラリティ”らしき物品は見つからない。


 「……プロフェッサー・シヅ。今日は何年何月何日だ」


 「え、に、2010年、3月29日だ……」


 今回の任務の時代と違いはない。どういうことだ?

 俺は左手首につけた腕輪状の通信機を作動する。通信先はこの時代に建てられた時空警察の本部基地。場所も規模も不明だが、本部に送られた通信内容が保管され、未来にて開かれたその内容への返信が過去の基地へと送られる。

 過去から未来は触れられず、未来は過去を変えられない。そのルール=使命を守るために俺は時空警察エージェントとして作られた。


 「こちら“ビッグダディ”。該当場所にて捜査をし尽くしたが、“シンギュラリティ”を発見ならず。追加の情報と、空間移転での帰還を求む」


 本部へ要請を送ったその時、建物の外が騒がしくなった。俺の耳は建物の外の音も拾える。トラックが数台停まり、何十人かの人間が建物を包囲、または音を消して突入してきた。

 周辺の警備要員も無力化し、この近くにそんな数の人員と装備を用意した設備もない。どこから来た増援か、そのことに疑問を持ちながら、俺はプロフェッサー・シヅを見下ろす。


 「私ではない! ここにいるもので全員だ、応援を送る隙なんてなかっただろ!」


 「そうだな、この近くのものでない……到着も早すぎる、どこからの増援だ……お前ら、俺について聞かれたら、この姿だけを言え。俺はテロリスト、襲撃者とだけ伝えろ」


 俺は研究者達に背を向け、部屋を出る。彼らが見た俺の情報は、どれだけ話そうと闇に葬られる。もしかしたら、人生そのものも葬られるのかもしれない。シンギュラリティのように。

 彼らに対する罪悪感よりも、俺は任務を、使命を心に固く持ち優先する。

 空間転移による帰還まで、まずはこの包囲を耐えきる。


 壁の向こうの増援部隊がこちらへ突入する前に、俺は壁を壊してこちらから突入する。

 

 「ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」

 

 俺は猛々しく吼える。建物中に響き渡る彷徨を体で感じた増援は、俺の姿を見ずとも捕食される生物のように本能が危機を叫んだ。

 俺の姿を直接見た増援は言わずもがな、顔を恐怖に歪ませ冷静になることすら忘れていた。

 彼らの構えた旧時代設計=この時代によく見られる形のライフルが俺へと一斉に向けられる。発射された弾丸は、俺の羽織っている黒の強化装甲コートによって阻まれ衝撃も受け流す。例えコートがなくとも、熊との融合手術で強化された筋肉と骨格は、散弾銃や杭ですら貫けないほど頑強だ。

 弾丸を撃ち込まれながらも吼え終わった俺は、増援の頭や顔、手足を掴んで投げ捨てる。銃声と増援の悲鳴が今度は建物を支配した。

 その支配は爆風へと変わる。俺のいる通路へピンポイントにロケット弾が放たれ、爆発の衝撃が俺を壁へとぶつけた。

 目の前の壁が崩れ、外の景色を見渡せる。俺の目の前に軍用ヘリが滞空し、下では複数のトラックと更なる増援が俺を見上げていた。

 ヘリのサーチライトが俺を捉える。その光は俺の視界を閉ざそうとする。

 俺は前へと走りだし、建物からジャンプすると目の前のヘリの脚へと掴まる。俺に揺さぶられた遠心力でヘリは空中で乱暴に回転し、制御のきかないまま近くの倉庫へと俺ごと墜落した。

 すかさず増援が倉庫に集まり、より強力な武装を構えて突撃してくる。

 『ヴォォォォォォォォォォ!!!』

 俺は雄叫びをあげ、増援が持ち運んだ機関銃の弾をコートで受け止めた。

 増援の数が多く、生身では処理しきれない。俺は腰から二挺のビームガンを引き抜いた。トリガーを引くと銃口から直線上にレーザーポイントが発射され、内部で電子霧により収束したビーム波がポイントに沿って放たれる。

 低出力でも、防護服に身を包んだ隊員でさえ全身を痙攣し動けなくさせる。俺はその場で仁王立ちしたまま、二挺のビームガンで周囲の隊員全てを地に伏せた。

 外に飛び出し、ビームガンの出力を上げてトラックに放つ。内部機構がショートしたトラックが制御を失ってあちこちに転がり激突する。

 爆発、銃撃、そして雄叫び。

 逃走と追撃の応酬が周囲を破壊し、俺の姿を爆炎の彼方へと消し去る──

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