人類危機一髪
西暦二万千九百九十年、人類は絶滅の危機に瀕していた。
アンドロメダ星雲から突如飛来した謎の宇宙人の大艦隊が地球に対してスベール爆弾による無差別攻撃を開始したのだ。
地球上のお笑い芸人はこの攻撃で全く面白い事が言えなくなり、次々に芸能界を引退してしまった。
このままでは人類から「笑い」が失われてしまう。
あらゆる関係がギスギスしたモノになり、嫌な雰囲気が地球を席捲した。
謎の宇宙艦隊は地球人類の絶滅を宣言し、次々に地上に精鋭部隊を降下させ、爆弾の影響を逃れたお笑い芸人達を探し出し、ツマラナーイ光線を浴びせて、面白い事を言う人間の駆逐作戦を展開した。
地球人類はその情け容赦のない攻撃になす術もなく、武力でも完全に圧倒され、希望は消えたかに思われた。
ところが。
宇宙艦隊の総司令部に驚愕の報告がされた。
「何? スベール爆弾も、ツマラナーイ光線も効かない地球人がいるだと?」
総司令部の指揮官である将軍は激怒していた。
「そんな事があるものか! サンプルで捕獲した地球人には百パーセントの確率で効果があったのだぞ。嘘を吐くな!」
報告をした士官は恐れおののきながらも、
「嘘ではありません。全く効き目が見られません。そのため、多くの精鋭部隊が、その人間の攻撃で倒れました」
「何と? その者の映像はあるか?」
「はい。地球人類としてはごく普通の姿ですが、その中身は恐るべきものでした」
総司令部の巨大スクリーンに映像が映った。
「こんな地球人ごときに我らイナワラワ星人が負けるものか!」
将軍は激怒のあまり、立ち眩みがしたようだ。
「閣下、大丈夫ですか?」
「心配ない。その者の所に選りすぐりの精鋭部隊を差し向けろ! 何としても地球人類を攻め滅ぼすのだ!」
「はは!」
仕官は大慌てで退室した。
地球人類の救世主的存在となったのは、若き女性。その名はジュリー・オカチマチ。メイドである。
イナワラワ星人の精鋭部隊が、彼女が働く近藤氏の邸宅に侵攻した。
「ツマラナーイ光線発射準備」
「準備完了しました!」
「連続照射!」
近藤邸をツマラナーイ光線が蔽い尽くした。
「今度こそ」
精鋭部隊は一斉に突撃を敢行した。
「いらっしゃいませ。どちら様ですか?」
ジュリーは笑顔全開で彼らを出迎えた。
「な、何で笑っている? こいつ、何者だ?」
精鋭部隊はジュリーの笑顔に恐怖を感じた。
「我々はイナワラワ星人精鋭部隊だ。地球人類は地上のノミ同然。死に絶えろ!」
部隊の隊長がジュリーを威圧した。
「そうなんですか」
「何ーッ!?」
思ってもいない返しに、イナワラワ星人達は完全に意表を突かれ、大爆笑してしまった。
「な、何て兵なんだ……」
精鋭部隊は次々に気を失い、近藤邸侵攻軍は全員捕縛された。
ジュリーの活躍(?)により、イナワラワ星人の弱点が判明した。
彼らは笑いという感情を出すと、気を失ってしまうのだ。
だからスベール爆弾やツマラナーイ光線で地球人類を攻撃したのである。
弱点を知られたイナワラワ星人は地球侵略を諦め、太陽系から撤退した。
こうして地球は救われた。
イナワラワ星人の最大の敗因は地球人類には「天然」がいるのを知らなかった事だった。
ジュリーは地球人類の救世主となった。
彼女の口癖である「そうなんですか」は人類最高の預言として長く人々に愛されたという。