5 森が全焼したって?
「森が全焼したって!?」
「ああ、何でも森の上空に幾つもの燃える竜巻が発生したらしい」
「森での採取依頼は全滅だ!」
「もう宿代の更新が迫ってるのに、このままじゃ馬小屋生活に逆戻りよ!?」
メグ達が帰ってくると、冒険者ギルドは森が全焼した事で持ち切りだった。
「⋯⋯ねぇ、どうする?」
「どうもこうも、ありのまま報告するしかないじゃろう⋯⋯」
叱責で済めばよいのじゃが、とため息を吐きながら重い足を引き摺ってクエストカウンターに到着し注目を集めないようにこっそりと声を掛けようとしたゴールディは、逆に受付嬢から大声で声を掛けられて心臓が飛び出そうになった。
「あ、メグさん、ゴールディさん!無事だったんですね!?」
「ぬおっ!?⋯⋯お、おお」
「⋯⋯その、依頼、失敗しちゃいました」
「ああ、そんなにボロボロになって⋯⋯無事で良かった」
ホロリと涙を溢して抱き締める受付嬢に、
(あ、これ原因私だってバレたらヤバいやつだ)
と確信したメグは、罪悪感から視線をそらし、同じく視線をそらしたのであろうゴールディと目が合った。
(封印を解いてしまった事は秘密じゃぞ)
(うん、わかってる)
アイコンタクトでそんな意志疎通を図っていると、漸く感情が落ち着いてきた受付嬢が立ち上がった。
「取り乱してごめんなさい。それで、どうして森が燃えたのか、現場での状況を説明してもらっても良いかしら」
ゴールディは考えた。キマイラの群れの事は伝えねばならん。しかし、ばか正直に答えてしまうとなると封印を解いてしまった事も言わねばならぬ、と。
そしてゴールディは全責任をアルデバランに被せる事にした。
「うむ。と言っても我らもそう詳しくは知らぬのだが、まぁ順に話すとしよう。まず我らは森で順調に薬草採取をしておった。するとそこに、本来森で出くわす筈の無いキマイラが群れであらわれおったんじゃ」
「キ、キマイラ、それも群れですって!?」
予想通りの反応に気分を良くしながら、ゴールディの話しは続く。
「うむ。しかし本題はここからじゃ。キマイラの群れに襲われた我らは防戦しながら撤退する隙を探していたのじゃが、そこに現れたのじゃよ、黒いドレスの女が!」
「黒いドレスの女⋯⋯!?」
「そやつは高笑いしながらのべつまくなしに火炎魔法を撃ち、森を地獄のような光景に変えてしまったのじゃ」
森が跡形もなく燃やし尽くされたという情報を受けているからか、受付嬢は森が炎の海に沈む地獄絵図を鮮明に思い浮かべてしまった。
「我の氷魔法により何とか這々の体で森から逃げ延びる事ができたのじゃが、折角集めた薬草は放棄せざるを得んかった」
「⋯⋯それは仕方がありませんね。情報提供ありがとうございます。では早速その黒いドレスの女を指名手配しなければ」
「なぬ!?」
全てをアルデバランのせいにしようとしたゴールディだったが、本人も流石に指名手配はやりすぎだと感じたのか、冷や汗を垂らしていた。
そんなゴールディに白い目を向けたメグは、指名手配されそうなアルデバランを救う為に受付嬢に声を掛けた。
「あの、多分彼女は私達を救おうとしてくれたんだと思います」
「へ、救う?」
既に地獄の魔女というイメージが出来上がっていたのか、受付嬢はメグの言葉を理解出来なかった。
「現れたキマイラの群れ、十体以上いたんですよ」
「十体!?」
キマイラは狡猾であるが、その凶暴性から同族であっても容赦なく攻撃する。それ故に基本的に群れる事の出来ない魔物である。よって群れといっても多くて三体ぐらいだと思い込んでいた。
しかし、それが十体ともなれば話は別だ。
群れる筈のない魔物が群れを形成し、連携して襲い掛かってくる。その異常性に気が付いた受付嬢は顔を真っ青にしてギルド長の執務室へ続く階段を駆け上って行った。
「⋯⋯とりあえずアルデバランの指名手配はなくなった、てことでいいのかな?」
「⋯⋯すまぬ、私怨が入ってしまったのじゃ」
小声でゴールディと話し合っていると、受付嬢が戻って来た。
「⋯⋯協議の結果、その黒いドレスの女性の活躍がなければ将来的に甚大な被害が出ていたであろう、という結論に至りました」
「ということは?」
「ゴールディさんには不服かもしれませんが、森の全焼という被害を考慮しても無罪放免にせざるを得ません」
「い、いやいやギルドの決定ならば我に文句などありゃせんよ」
「そう言って貰えると幸いです。それで、お二方にギルドから指名依頼をさせて貰いたいのですが」
「勿論構わんぞ」
「ちょっ!?」
諸々の問題が解決したせいか油断し、依頼内容も聞かずに了承してしまったゴールディにメグは思わず声を上げかけたが、その前に受付嬢から止めの言葉が放たれた。
「ありがとうございます!依頼内容は、『件の黒いドレスの女性を見つけ出し、非常用戦力として王都の冒険者ギルドに駐留してもらうよう説得する事』です!」
よろしくお願いします!と深々と頭を下げる受付嬢に何も言えなくなったゴールディは、ワナワナと震えながら小さく粒やいた。
「⋯⋯どうしてこうなったのじゃ」