魔術使いは贈り物を受け取ります。そして天を目指しします。
会ったことはない。名も顔も知らない。だが、わたしにとって掛け替えのない人がいる。
どのような人なのか、ふと考えてしまう時もある。だが、首を振りその思いを振り払う。
重要なのはその人がわたしにしてくれた事なのだ。大切にすべきはその人が残してくれた、この胸に残る思いだ。
この胸に溢れる喜びと深い感謝の思いが届く日がいつか来るだろうか。
「良かったわね。良い子にしていたから聖人様が贈り物をくれたのよ」
朝目覚めたわたしの枕元に大きな包みが置かれていた。鮮やかな色のリボンを纏った包みを見つめていると、母が微笑みながら言った。
「聖人様はとても子供が好きだから、特別な日に、世界中の良い子に贈り物をくださるのよ」
どうやら、わたしがとても良い子なので、聖人とやらが贈り物をくれたらしい。
聖人は赤い服を着た太った老人で、誰にも気付かれずに夜の間に子供の枕元に贈り物を置いていくのだと言う。かなりの魔術使いと見たぞ。
包みを破くと出てきたのは木の箱。蓋の無い箱の中を覗いてみると、そこには色鮮やかな様々な形の木片。
「積み木よ。良かったわね。」
箱をひっくり返し、中身を床に広げる。
丸。三角。四角。赤。青。黄色。様々な形、様々な色が眼前に広がる。うわあ、見てるだけでものすごく楽しい。
ひとつを手に取る。口に入れようとするが大きくて入らない。それに美味しくない。
ぺっぺっ。
いじり回しているうちに、わたしは積み木の遊び方を発見した。この積み木というのは単体でその色形を楽しめるだけでなく、なんと積み上げることができるのだ!
新たなる発見に鼻息を荒くするわたし。
さあ、これらを積み上げて天に届かせよう!
積み木を掴む。落とす。転がる。
積み木の上に積み木を置く。さらにその上に積み木を置く。楽しい。さらに積み木を重ねる。崩れる。楽しい。
いつの間にか隣に大カラスのクロちゃんが座っていた。わたしが積み木を積み上げているのをじっと見ている。
楽しいぞ、これ。貰ったんだ。良いだろう。ん?どうした?そうか、オマエも積み木で遊びたいのか。しかし、これ全部わたしが使うんだが・・・。
ちらっとクロちゃんを見る。わたしの手の中の積み木を見ている。じっと見つめている。
くっ、仕方ない。本当に仕方ないっ!
葛藤の末、クロちゃんの前に積み木の半分ほどを押しやる。さあ、一緒に遊ぼうではないか。
積み上げた高さを競う。お友達と一緒に遊ぶ積み木もまた楽しい。一人占めしなくて良かった。
むむっもう赤がないぞ?横を見るとクロちゃんが赤だけを積み上げている。あ、それイイな。わたしも赤だけ積み上げよう。
クロちゃんの作った赤い塔から積み木を取り上げようとして、こちらを見つめる悲しそうな瞳に気付く。はっ、いかん。一緒に遊ぶお友達を悲しませるのは良くないな。
魔術を構築。
構築完了!対象接触指定による時限型色彩変更術式。
【友達に分け与えた贈り物】
そして魔術実行。
構築された術式が、触れた積み木を薄く覆い、その色を赤く染めていく。
そして、積み上げたのは赤い塔。クロちゃんの塔よりも高い。むふん。
だが、落ち着いて出来上がった塔を改めて見てみると、赤一色ではあまり面白くない。積み木は色んな色があった方が楽しいな。
仕方ない、術式解除。積み木が鮮やかな色彩を取り戻す。うん、やはりこの方がキレイだな。
さて、クロちゃん。今度は積み上げたものを崩すことを楽しもうではないか。
まだまだ積み木で遊ぶぞ!
贈られた積み木は素晴らしいものであった。昨夜はわたしが寝てしまっていたため、この素晴らしい贈り物を持ってきてくれた聖人に会うことが出来なかったのが残念だ。
いい子でいよう。来年も聖人に贈り物を持って来てもらうのだ。次に聖人が我が家に訪れる夜は寝ずに待って、魔術を使ってでも会ってやる。そしてこの感謝を伝えよう。わたしはそう固く決意した。
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