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魔術使いの転生  作者: いーでん
8/10

魔術使いは選択を強いられます。そして決断しました。

 人生とは選択の積み重ねだ。

 己の選択に満足する事もあるだろう。後悔する事もあるだろう。だが、時を巻き戻すことは出来ない。成された選択はやり直せない。人に出来るのは己の選んだ道を進み続けることだけなのだ。

 剣戟の中で戦士は数多の選択をする。進むか退くか。避けるか受けるか。攻めるか守るか。刹那の時の中で最善を積み重ねることが、生存に繋がるただ一筋の道となる。

 王は救う者を選ぶ。より多くの者を救える道こそが王道なのだと信じて、切り捨てた者達の怨嗟の声に包まれながら。

 古の魔術使いは愛を切り捨てることを選んだ。魔術の深奥にたどり着くためには、全てを捨てなくてはならないと信じていたために。

 そして今、わたしも選ばねばならない。

 運命はわたしになんという残酷な選択をさせようというのか。

 もはや時は残されていない。これしかないはずだ。これが正しい選択だ。

 そう自分に言い聞かせながら、わたしは震える手を右へと伸ばした。



「はい、こっちのビスケットでいいのね」

 目の前には2枚のビスケット。右の方が大きく見える。ああっ、でも左の方が厚いかも。

 しかし、すでに選択してしまったのだ。右のビスケットがわたしに手渡され、左のビスケットは母の口に消えた。

 世界にただ1枚残されたビスケットを、わたしは大切に見つめる。

 大カラスのクロちゃんが、開け放たれた窓から姿を見せたのはその時だった。

 お友達の来訪を両手を揚げて喜ぶわたし。クロちゃんも嬉しそうにわたしの傍に寄って来る。しかし、その目はわたしの顔ではなく、掲げられた右手を見ている。

 ん?なんだ?

 右手を見てみると、そこには握られたままのビスケット。

 手の中のビスケットとクロちゃんを交互に見る。クロちゃんもわたしとビスケットを交互に見る。

「困ったわね。最後の1枚なのよね。他に何か有ったかしら。」

 そのやり取りを見ていた母が呟きながら台所へ向かう。

 見つめ合うわたしとクロちゃん。

 いや、待て。待て待て。これは最後のビスケットなんだ。わたしの物であり、かつ、わたしの物なんだ。絶対あげないぞ。

 食べるか食べないか。あげるかあげないか。そんなの食べるに決まってる。あげないに決まってる。

 思わず1歩下がるわたし。1歩進むクロちゃん。

 さらに下がろうとして足がもつれた。わたしは倒れこむ。両手が泳ぐ。

 ビスケットが手から離れる。空を舞うビスケットがクロちゃんの向こうに飛んで行く。そのまま床に落ちる。ビスケットが砕けた。

 クロちゃんが床に落ちたビスケットへと向く。

 しまった、ヤツの方が近い。ビスケットが取られてしまう!

 床に倒れたまま、遠ざかるクロちゃんの背中を見つめる。

 1歩2歩と進むクロちゃんが立ち止まった。振り返るとこちらに向かって寄って来る。

 そして、心配そうに倒れたままのわたしの顔を覗き込む。わたしの顔に頭を擦り付ける。床に落ちたビスケットよりも、わたしの方が大切だと。

 ああ、わたしは思い違いをしていた。クロちゃんより大切なビスケットなどありはしないというのに。

 意地悪してごめんなさい。心配してくれてありがとう。泣きながらクロちゃんに抱きつく。仲直りの抱擁をクロちゃんは受け入れてくれた。

 魔術を構築。

 構築完了!範囲指定による対象選択型物体結合術式。

【選ばれた友愛】

 そして魔術実行。

 構築された術式が、床に砕けたビスケットの欠片のみををかき集めて一つに纏める。一枚のビスケットを形作る。

 若干不細工になったビスケットが手元に戻った。



 ビスケットを2つに割る。半分はわたし。半分はクロちゃんに。

 母がビスケットの代わりにと薄く切られた干しリンゴを持ってきてくれた。

 1枚だけを受けとり半分に割る。少し悩んでから大きい方をクロちゃんに差し出す。

 2人でニコニコする。同じ物を同じだけ。

 美味しい物は仲良しのお友達と一緒に食べよう。その方が1人で食べるよりずっと美味しいから。

読んで頂きありがとうございます。

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