魔術使いは世界の広さを知ります。そして定めに従います。
果てしない大地をどこまでも歩いていこうと思った。
巨石、深い穴に行く手を阻まれるかもしれない。
終わらない旅路の涯、力尽きうずくまる時がくるかもしれない。
だが、きっとまだ見ぬ素晴らしい何かに出会えるだろう。
誰にも知られずひっそりと咲く花。
誇り高く野を生きる者達。
まばゆい輝きを放つ宝玉。
静かに佇む壮大な遺跡。
そんな素晴らしい何かに出会うため、歩こうと思う。
この足が動かなくなるその時まで。
「お庭から出ちゃダメよ。」
洗濯物を干しながら母が声をかける。
心配しなくてもそんなに歩けない。
ヨチヨチとしか歩けない今のわたしにとって、家の庭は果てしない広さなのだ。
わたしの後ろを大カラスが歩いてついてくる。
時々遊びにくるようになったコイツは、今では親公認の友達だ。
お供を連れて広大な大地を探検だ。
小さな花を見つけてしゃがみこむ。
母に見せようと思いつく。
花を取ろうとするが上手くいかず、花を握り込んでしまう。
おい、大カラス。なんだその残念そうな顔は。
この小さな手は繊細な作業に向いていないのだよ。
「あら、何かいいものあった?ママにも見せてちょうだい」
後ろから覗き込んでくる母に、花を握った手をさしだす。
手を開いて花を見せるが、思い切り握ってむしりとった花は無惨にも折し潰されている。
「ママにくれるの?ありがとう」
母はそれでも喜んで受け取ってくれた。
さて、探索を続けよう。
目の前の草のうえを歩いているのはてんとう虫だ。
キレイな模様だ。
捕まえようとするが、飛んで逃げられた。
おい、笑ったな大カラス。
アイツスゴく速く飛んでったんだ。
きっとオマエより速かったぞ。
お、黒い丸い石を発見。
素晴らしい色と形だ。
こっちの白い丸い石も悪くない。
どちらもポケットに入れておこう。
石の下にいたのはダンゴ虫。
つつくと丸くなる。
つつく。
丸くなる。
つつく。
丸くなる。
大カラスも横からダンゴ虫を覗き込む。
楽しいな。
しばらくダンゴ虫をつついて遊ぶ。
コイツらもポケットに入れておこう。
む?何でオマエ首を振ってる?
大カラスの態度に首を傾げながら先へと進む。
今度は底に穴の空いたバケツを発見。
逆さにされて、穴の空いた底を天に向けた状態で地面に置かれている。
庭にある人工物としてはなかなかの大物だ。
中に何か入っているかな?
ひっくり返してみると、地面に小さな木片が刺されていた。
なんだコレ?
疲れてきたのでその場に座りこむ。
何かの目印か?結界の節点とか。
オマエは何だと思う?
大カラスに目で問うが、首を傾けられた。
コイツ本当に人間臭いな。
考え込んでいると、後ろから体を持ち上げられた。
「疲れちゃったかな?そろそろ家の中に戻ろうか」
母はそう言いながらわたしの体を抱える。
転がったバケツを見ると、腰を屈めて片手を伸ばし、バケツを元の場所に伏せ直す。
「イタズラしちゃダメよ」
そう言って微笑むと、大カラスに手を振るわたしを抱え直して、家の中へと戻るのだった。
あのバケツは何だったのだろう。
やけに気になる。
魔術を構築する。
構築完了!指定範囲内の魔力反響型探査術式
【まだ見ぬ宝への憧れ】
そして魔術実行。
微量の魔力の波が広がる。
構築された術式が反響を解析する。
バケツの下の地面の中に何かあるな。
ああ、コレは植物の種か。
鳥や獣に掘り返されないようにバケツを被せていたのだろう。
分かってみればなんということはない。
まあ、謎が解けて少しスッキリした。
我が家の庭という広大な大地には、まだまだ楽しい物や謎が隠れているのだろう。
明日も庭を歩こう。
素晴らしき宝を求めて。
窓際に一輪だけ飾られた、ちょっと潰れた花。
その横には黒白の2つの石が置かれている。
月明かりに照らされた今日の宝物を見ながら、ゆっくりと心地よい眠りへと落ちていく。
翌日、洗濯中の母が悲鳴をあげた。
どうやらポケットの膨らみの正体を確かめようとして、中から出てきた大量のダンゴ虫に驚いたようだ。
ポケットにダンゴ虫は入れちゃいけなかったのか。
涙目になった母の姿を見て深く反省するわたしの横で、大カラスが首を振ってため息をついていた・・・。
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